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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
四章 決戦の章
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決戦の章 プロローグ




────第二次オッターハウンド戦役について



 帝国歴五年春、一年にも及ぶ準備期間に比して短期間で終結した第一次オッターハウンド戦役はその短さとは裏腹に、両軍に壊滅的な損害を与えていた。

 戦争の結果を見れば、どちらが勝者と考えるかは難しい。

 モフモフ帝国は中央部支配の要であるオッターハウンド要塞を失い、その軍は帝国首都ラルフエルドに撤退している。

 だがオーク族にも最早追撃の戦力は残されておらず、魔王候補フォルクマールの後を継いだハイオーク、コンラートはオッターハウンド要塞に元ゴブリン族魔王候補、ガリバルディを残すとワーベア族の侵攻を理由に戦士達を引き上げていった。

 中央部は失陥したが、モフモフ帝国は中央部の住民を戦争前に東部へと移住させており、戦争後に帰還した者の数を考えても所属魔物数はオーク族に比べれば変化が少なく、戦争終結後にその比率が五分に近付いたことを鑑みるに、ややモフモフ帝国に有利と言えると判断されている。

 また、中央部への帰還者が僅かであったことに関してはモフモフ帝国軍の参謀、シルキーの暗躍があったとされているが資料は残されていない。


 こうして一時的な平和が訪れたわけであるが、それが仮初のものであることは誰にも明らかなことであった。

 モフモフ帝国は喉元に突きつけられたオッターハウンド要塞という名の鋭利な刃物を無視するわけにはいかず、オーク族としても手に入れた要塞を生かさないことは、命懸けで手に入れた戦士達を納得させることが出来なかったのである。


 そして、双方にとって無視の出来ない事情も、皇帝シバと魔王候補コンラートに早期決戦への決断を踏み切らせることになった。

 

 それは死の森だけの問題ではない。

 モフモフ帝国、オーク族関係なく、商人から伝わる『外』の情報。


 魔王領全体が動き始め、多くの有力魔王候補達が他の魔王候補を飲み込み始めているという情報が両者に伝わっていたのである。



『百名以上いた魔王候補も残りは二十三名』



 決着を早期に付け、魔王候補の能力を吸収し、準備を整えなくては第三者に滅ぼされる。その危機感は僅かに残っていた長期戦の可能性を完全に摘み取った。

 

 両者は戦争に向けて動き始める。

 第二次オッターハウンド戦役の始まりである。


 第一次オッターハウンド要塞攻防戦から僅か半年後の秋。

 決着は一年後と読んでいたモフモフ帝国軍参謀、シルキーの予想よりも半年早く、両者の運命を決める戦いは始まる。


『最大の激戦地はその名を関するオッターハウンド要塞となる』


 この時にはほぼ全ての者がそう考えていた。

 皇帝シバや謹慎していたクレリア、『剣聖』キジハタ、戦術の天才であるハウンドでさえも。


 それが間違いであることを知っているのは、この広大な死の森において、たった二名しか存在していなかったのである。


『モフモフ帝国建国紀 ──決戦の章── 二代目帝国書記長 ボーダー著』





 静かな夏が終わり、収穫の秋が近付いた頃にはモフモフ帝国の住民達は平穏な生活の中にも間近に近付く戦争の匂いを敏感に感じ取っていた。


 第一次オッターハウンドにおいてオーク族により行われた降伏者を最前線に置いて『命令』を使用した行為は非戦闘員であった者達にも大きな影響を与えている。

 オッターハウンド要塞の最期の状況も帝国中では広まっており、その行為による多大な犠牲は好戦的でない帝国の臣民達の臣民達の間に、



『非道によって命を失った者達の仇を討つべし』



との声を上げさせるのに十分なものであった。

 そして、まるでその声に押されるかのように、戦争の準備は急ピッチで進められている。元よりそう予定されていたのではないかと思える程に。



「戦争は来年ということだったろう。何を考えている」

「さて、何のことかしらね」



 必要な物以外何も無い彼女の家に何度も上がり込んでいる、ここ半年で唯一の客は普段通りに不機嫌な表情で彼女を睨みつけている。

 とぼけている女性のコボルトも目は笑ってはおらず、部屋には緊張感が漂っていた。

 ただし、話の内容を知らない第三者が見れば三頭身の迫力のないコボルト達が向き合っているだけの微笑ましい光景であったかもしれない。



「お前は意図的に噂を流している」



 これはいつものことだ。彼女……コボルトリーダーであり、モフモフ帝国の参謀の中でも全体の戦略を担当しているシルキーは内心で溜息を吐いた。



「考えがあってのことよ」



 目の前にいるコボルトの青年、ハウンドは彼女も認める程に優秀な戦術家ではあるが頭が非常に固い。第一次オッターハウンド戦役の死線を乗り切った後は落ち着きも出て、多少は視野も広くなっていたが彼女に言わせればまだまだだ。



「ビリケ族から伝えられている死の森以外の情報を考えれば、私達に残された時間はあまりにも少ない。それはあのバセットなら絶対に気付いている」

「向こうも準備は進めている……か。シルキーはバセットとやらを良く知っているんだな。僕はあまり知らないんだけど」

「本当に底意地の悪い女よ。私なんかよりもね」



 いや、彼はそれでいいのだと彼女は思い直す。

 半年前の戦争で戦死したタマの想いを受け継いだハウンドには卑怯な謀略は似合わない。彼が出来ないことを自分が全て受け持つことが与えられた役割であり、シルキー自身の存在意義もそこにだけあるのだと信じている。

 それが彼女が考案した誤った作戦を成功に変えてくれた恩人への礼代わりであり、彼女なりの借りの返し方だった。



「それに魔王候補の能力は配下の人数に左右されるのだから、情報の操作は大切なの。つまり、第一次オッターハウンド戦役はまだ続いていると言ってもいい」

「だが、今、大規模な戦争を起こしても完勝は難しい。僕は色んな小細工を用意して、とっておきの切札もグレーに育てさせているけど、どうしても一手足りないんだ」

「アレのせいね?」



 ハウンドはシルキーの言葉を一言も漏らすまいと真剣に見つめている。

 彼の瞳には希望に燃える光があった。シルキーが失ったその輝きは、彼女に羨望を感じさせている。

 シルキーは眼を細め、僅かに微笑んだ。



「ハウンド。オッターハウンド要塞は貴方ならどう攻略する?」

「戦争は状況次第で変わるんだ。時間に余裕がある場合と無い場合で異なる」



 即答したハウンドにシルキーは頷く。

 彼女にも考えつかないほどに、あらゆる状況に対応した作戦を彼は考えている。だからこそ、ハウンドは彼女の上司となり、モフモフ帝国全軍の参謀長を務めているのだ。



「仮定を考えても仕方がないから、今回の場合にしましょうか」

「相手の援軍が来る前に、即ちオッターハウンド要塞は一日で落とす必要がある。最も容易なのはシバ様の能力を使い、要塞の壁を無効化して攻めて膠着させた上で地中から最精鋭で奇襲し、ガリバルディを討ち取ることだ」

「その手段を選ぶ理由は?」

「ガリバルディは『命令』を進言した張本人でゴブリン族にもコボルト族にも人気が無い。奴を討ち取ればオーク族以外の者は恐らく降伏する。だけど」



 僅かにハウンドの説明が止まり、苦い表情を作る。



「シバ様の能力は可能な限り温存したい」

「シバ様とクレリア様にはコンラートとバセットの相手をしてもらう。万全の状態で」

「そうだ。だが、次善の作戦では僕達にも大きな被害が出る。そうなれば勝ち目は薄い」



 シルキーは「そうね」と短く答えて、席を一度外し目の前の青年を落ち着かせるように水をコップに入れて、簡素な木製のテーブルに出す。

 ハウンドはまじまじとそんなシルキーを見ていたが、意を決したように水を煽り、慌てすぎて気管に入ってしまい、大きく咳き込んでいた。


 昔なら悠長なことだと怒ったであろうとハウンドは思う。

 だが、今はこの行為がシルキーの説明が長くなるという意味なのだと捉えている。



「慌てすぎよ。もっと大きく構えていないとね」

「努力はしている」



 彼もまたシルキーの能力が優れたものであると認めていたのである。

 ハウンドはむせた自分を見て笑っているシルキーを憮然として睨みながら、話を促した。



「ハウンド。貴方がヨークを使ってこそこそ中央部で何かを準備しているように、私もこっそりと動いていたということよ。私のは貴方がさっき言った戦争の『状況』を変える準備」

「う、気付いていたのか。まあいい。そういうことなら作戦計画全体に関わる。僕にも教えてもらおうか。計算に入れて計画を立て直す」

「わかっているけど他言は無用。知っているのは私とハウンド、そして計画の実行者だけというのが望ましいから。いえ……」



 シルキーは生真面目に頷いているハウンドにかぶりを振る。



「知っていた上で貴方は知らなかったことにしてもらうわ」

「甘く見るな」



 ダメな弟を諭すような穏やかな口調の彼女に対する、ハウンドの返答は鋭い。



「どんな手段だろうと僕は僕の責任で使う。誰にも押し付けはしない」

「ハウンドは汚れたら駄目。タマの意志を継いでいるのなら」



 それでもシルキーはハウンドを止める。だが、彼の瞳は小揺るぎもしなかった。



「だからだよ。僕はだからこそ、自分の責任から逃げない」

「本当に頑固ね。悪いところは真似なくていいのに」



 やれやれとシルキーは苦笑いする。彼女は本当は『国のため』と言葉巧みに彼を説き伏せるつもりであった。しかし、目の前の青年の覚悟が本物であることに気付き、あっさりと諦めてしまっていた。


 馬鹿だと彼女は思う。だけど、彼女にとってそんなハウンドの真っ直ぐさは好ましいものでもあった。そんなハウンドに彼女は淡々と語る。


 彼女が考案したオッターハウンド要塞攻略作戦を。


 聴き終えたハウンドは目を閉じ、しばらく何も答えることができなかった。

 数分の沈黙を経て眼を開いたハウンドはシルキーに「最大限利用させてもらう」とだけ、答える。確かにシルキーの作戦はハウンドには思いつかない種類のものであった。


 だが、彼の頭脳は好悪を除けばそれが正しい攻略法であると理解していたのである。



「私を軽蔑してもいいのよ?」



 目の前の青年が自分に対して嫌悪感を抱かないことに困惑しつつ、シルキーは自嘲気味に呟く。あるいは彼女は彼に罰して欲しかったのかもしれない。卑怯者と。



「しない。僕には出来ない」

「何故?」

「お前はどこかタマ様と似ているからな」



 思わぬ答えにシルキーは眼を見開く。同時に有り得ないという思いが既に失ったはずの怒りの感情と共に全身を貫いていた。

 己のことであるのに数少ない友を侮辱されたかのような感覚。薄暗い自分とはまるで彼は似ていない。シルキーは内心では叫んでいた。だが、ハウンドは彼女の怒りを知ってか知らずか、普段通りの不機嫌さを滲ませた口調で続ける。



「ふんっ! 他の奴の為に自分を犠牲にするような悪いところがそっくりさ。全く何を勘違いしているのか。シルキーは本当に頭が固いな」

「ハウンド。貴方にだけは言われたくないけれどね……まあいいわ。準備が徒労になっちゃったのはあれだけど」

「準備?」



 ハウンドの言い様に怒りを通り越して呆れたシルキーは彼の説得を諦め、もう一度大きな溜息を吐いて肩を落とした。彼女としても面倒であった準備も無駄になり、大きな徒労感を抱えて肩を落としている。


 そう、シルキーは準備をしていた。

 ハウンドが彼女の分野……謀略に関わっていることを隠すために。

 こうなっては意味がないし仕方がない。シルキーは苦笑しながら首をかしげているハウンドに彼女自身バカバカしいと思っている答えを教えた。



「貴方があんまり何度もここに通うから、勘ぐられないように私と逢引しているという噂を流したのよ。幸い私も貴方も独り身だしね。普通のコボルトなら疑わないでしょ?」

「……そうか」



 ハウンドは震えながら顔を伏せていた。シルキーが調べた限りは彼に浮いた話は存在しない。女の知人くらいはいるようではあったが。

 照れているのだろうか。



(珍しいものを見れたなぁ)



 そうシルキーは僚友の意外な一面に微笑んでいたのだが、グバッと顔を上げたハウンドの表情は彼女の予想の斜め上をいっていた。



「お前か……」



 そこにあったのは純粋な怒り。

 理不尽に対する憎悪だけがそこにはあった。



「え?」

「お前のせいかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 勢いよくハウンドは立ち上がるとテーブルの上にぴょんと飛び乗り狂気を宿した笑みを浮かべて彼女の肩をガシっと掴む。先程まで心の成長の後を見せていた青年の、彼らしくない感情のままの怒りにシルキーは困惑し、意味のない声を出すことしかできていない。



「戦争にも出ない軟弱者とは付き合えない」

「……はあ?」

「僕はな……大好きな幼馴染にそう言われたんだ」



 目が血走っている。シルキーは怯えながらも彼の言葉を冷静に整理していた。

 ハウンドは元々はモフモフ帝国の政務官として優れた業績を残している。

 しかし、その頃の彼は今よりもさらに若く、能力にも奢っていて、同世代のコボルト達からは嫌われていた。



「え、でも振られたんじゃ……」



 シルキーの情報網にはその話も伝わっていたのだが、告白したがこっぴどく振られてそれ以来会っていないということになっていたのである。

 ハウンドに言った言葉は体のいい言い訳といった類のものではないだろうか。彼女はそう考えていたし、事実そうであったろうと確信していた。



「違うっ! だから僕は勇気を証明するために、軍の幹部候補に志願したんだ!」

「貴方そんな不純な理由で……いや……サボってたらクレリア様に強制された私よりはまし……なのかな……?」



 だが、目の前の青年はそうは思っていなかったらしい。ハウンドはシルキーの肩から手を離し、拳を握りしめて震えている。

 反対に徐々に落ち着いてきたシルキーの視線は冷めたものになっていた。



「そうすれば軟弱者じゃないことを彼女に証明できる。いや、事実、あの時の僕は命を賭ける自信も仲間う失うことも知らない軟弱者だった。彼女は正しかった! だけど、今は違うっ! 彼女の真意に気付き、少しでも弱い自分を鍛えて行く必要があることを知ったんだ!」



 ハウンドの演説は延々と続いている。いかに幼馴染が素晴らしい女性であるかを彼はとくとくと語り続けていた。だが、シルキーが知る限りは間違いなく過剰評価である。

 恋は盲目というが、彼のは行き過ぎている。


 既に彼女は飽き飽きしていたが、終わる気配はない。

 いや、そもそもどうして彼が怒っているのかがシルキーには理解出来ない。



「それでハウンド。貴方は何が言いたいの?」

「……自信はあったんだ」



 ハウンドは泣いていた。ガチ泣きである。

 シルキーは椅子から転げそうなくらい引いていた。



「告白した僕に彼女は笑顔で言ったんだ。『貴方には今大事にしないといけない女性がいるでしょう。だから私は潔く身を引きます』って。僕は……僕は意味がわからなくて何も……どうしてくれるんだよぉ~」

「いや、その……」



 ハウンドの幼馴染であれば、彼の良くも悪くも真っ直ぐな性格は理解しているはずだ。彼は嘘吐きな自分とは違って誰よりもコボルトらしいコボルトであり、嘘の言えない不器用で正直な青年である。

 優れた能力があるが故に素直にそれを言い、顰蹙を買って敵を作っていたのだと最近良く話すようになったシルキーは理解していた。



「あのアマ……」



 思わず小声で呟く。

 そんな彼に無茶なことを言って振った女。

 若手の最有望株であり政務官のトップにもなり得たハウンドだ。その幼馴染もまさか真に受けて軍幹部に転向するのは予想外だったに違いない。しかも、敵味方問わず、誰もが認める程の戦術家になるとは夢にも思ってはいなかったはずだ。


 シルキーの知る限り、その幼馴染は既に男がいる。

 だが、コボルトは約束や言葉を大切にする。結構な若手コボルトが内容はともかく告白の話を知っていたことを考えると、その内容を知っているコボルトも少なからずはいるだろう。


 ハウンドの実績は超一級のものに間違いはなく、危険な戦場でも最後まで踏み止まって指揮を取り、戦士の命も大切にするため、軍では彼を嫌うものは極僅かである。

 彼女の言葉を命懸けで守った彼の行為はコボルト族の心情的には素晴らしいものではあるから告白を受けなければ、その幼馴染の立場はコボルト社会でかなり悪いものになるのは間違いない。


 彼女も思い悩んだはずだ。

 そんな時に流れた都合のいい噂。


 つまりは噂は嘘だと知りつつ、それに乗っかかったということ。

 要するに。



(あああああああああああっ! 利用されたんだ!)



 シルキーの背中に冷や汗が背中に流れる。

 想像以上に噂が早いとは思っていたが、恐らく彼女が積極的に流しているのだ。


 尾ひれや背びれを付けながら。

 いや、だが、そうしなければどちらも不幸になっていた。



(け、結果的には良かったはずっ! 私は悪くない私は悪くない)



 シルキーは背中に汗を掻きながらも自己弁護して精神の安定を取り戻し、愛想笑いを浮かべながらハウンドに落ち着くように諭す。



「ま、まあ、私が他の子を紹介してあげるから。ね? ね?」



 多少は悪いと思ったシルキーの妥協であった。



「お前友達いないだろ」



 しかしハウンドから返ってきたのは嘘のない真っ直ぐな本気の言葉。嘘が付けない彼が真剣に心から信じたその一言は、シルキーにとって致命的な指摘であった。


 両者の間の空気が凍りつく。

 沈黙を先に打ち破ったのはシルキーだった。



「うっさいわね! 友達くらいいるわよっ! 馬鹿!」

「誰だよ! 名前上げてみろ! うすらとんかち!」

「う! 細かいわね! そんなだから幼馴染に捨てられるのよ!」

「誰のせいだ! お前こそ裏でこそこそしてばかりいるから、友達ができないんだ!」



 彼等の間の口論はやがて短い腕でポコポコと軽い音を立てて殴り合う泥沼の喧嘩に姿を変えていく。帝国を代表する頭脳を持つ二名のコボルトのぐだぐだな騒ぎは、翌日には首都中に広まることになることを彼等はまだしらない。



『コボルトに一芸しかなし』



 コボルトの地位が確立した後に囁かれることになる格言である。

 これは一芸を極めたコボルトは、その他のことがまるでダメになることから言われるようになったと伝えられている。


 後にケルベロスの異名を取る三名の内の二名のコボルト。

 『戦争』という一芸をただひたすらに磨いたハウンドとシルキーの私生活は、ただひたすらに不器用で残念なものであった。


 戦歴においてはこの二名に劣っていたケルベロスの最後の一名、グレーの私生活が、多くの友と言い寄る女性に囲まれた華やかなものであったことは皮肉というより他にない。


 このような喧嘩を何度も繰り返しながらもハウンドとシルキーは自分達の役目は疎かにせず、準備を整えていく。

 帝国とオーク族の運命を決める第二次オッターハウンド戦役は、最早間近に迫っていた。




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