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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
一章 建国の章
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第六話 内治と外交




 コブリンの『剣聖』キジハタが加入し、彼に防衛戦のやり方と集団戦の心得をある程度教えたことでクレリアの戦闘面での負担はある程度は軽減した。

 だが、彼女の悩みがそれだけで全て解決したかというとそうではない。


 クレリアはモフモフ帝国が抱える様々な問題に常に頭を痛めていた。


 休憩しよ? と、シバが用意してくれた水を彼と二人で飲んだり、食事を一緒にしたり、添い寝をしたり、尻尾の毛繕いを一緒にしたりしなければ……彼女は慣れない問題を抱えて精神的に潰れていたかもしれない。


 その中で最大の問題となっていたのは……食料問題である。


 戦えるゴブリン達と一部の志願したコボルト達はキジハタの指導の元、戦闘訓練を積んでいたが人数が増えた分は食料の消費がやはり増えてしまう。

 彼等はコボルトが狩れない大型の獣も狩ることが出来るため、まだ良かったのだが……。


 他の戦いに向かないゴブリン達はコボルト達ほど器用ではないために仕事も無く、元人間であるクレリアも、問題に感じた事が無かったキジハタもいい案が思いつかずに苦慮していた。


 養う臣民が増えればそれだけの仕事と食事が必要となるのである。猟にばかり頼むのも、動物という資源は有限なため、狩りすぎると危険な上に安定しないのだ。



 この大問題を解決したのはシバだった。彼はクレリアの悩みを食事中に聞くと、しばらくがぅーっと唸っていたがやがてポンっと手を叩いて彼女に笑いかける。



「お芋畑を僕の力で広くできるかもしれない。成長も早められるかも。どうかな?」

「しかし、耕したり手入れする者に負担が」

「ゴブリンさん達に手伝ってもらお? 何だか仕事させろーっていってたし」



 ふむ、とクレリアはシバのほんわかした顔を幸せそうに眺めながら提案を検討する。

 シバの能力にも使える限界がある……が、人口が増えている現状であれば、防衛や帝国の拡張だけでなく、そちらに力を割くことは出来るかもしれない。問題はない。



 仮にシバの発案が実行可能であれば、食糧事情はましになるかもしれない。

 クレリアは頷いてシバに微笑むと考えをまとめて彼に答えた。



「農作業の得意なコボルトを何人か政務官に任命し、指導してもらいます。これからは帝国臣民も増えるため、今回の件は良い練習になるかもしれません」

「そう。僕もみんなも慣れてないけど上手くいくといいね」



 よかったよかったと食事を再開しようとして……彼は肉を掴もうとした手を止めた。そして、曇の一つもない空のように明るい瞳をクレリアに向ける。



「クレリア。一人で抱えちゃダメだよ。みんなの国だしみんなで考えていこうね?」

「わかりました」



 ならよし、とシバは天使のような笑みを浮かべて食事を再開した。ぼーっと見蕩れていたクレリアが叱られたのだと気付いたのは、しばらくした後だった。



 一ヶ月後、子コボルトが蝶々を追いかけてぴょんぴょん飛び跳ねている、そんな暖かい陽気の溢れるある日、シバの家ではキジハタと数名のコボルト達が集まっていた。

 部屋には布に『帝国会議』と書記長のコリーが達筆で書いた物が飾られている。


 そんな会議場には新しく政務官に任命されたプドルとダックスとチワーの三人の姿もある。


 プドルは元々モフモフ帝国の住人だがダックスとチワーは滅ぼされた他のコボルト村で農業をしていた人物(?)で、それぞれ長毛わんこと短毛わんこのコボルトである。


 それぞれの村のやり方を三人で話し合って考えようという狙いだ。


 今回みんなが集まっているのは、これまでクレリア一人で事務長ポメラの報告を聞いていたのをみんなに聞いてもらい、彼らにも帝国のこれからを考えてもらうためである。


 シバに言われたのが彼女がそうした理由だが、狭い部屋にたくさんコボルトが集まることになるので、クレリアはこれはこれで楽しくていいかもと考えていた。

 みんなが集まり、席に付いたことを確認するとポメラが報告する。



「それでは、報告します」



人口……コボルト132名、ゴブリン64名

戦力……ゴブリン戦士隊30名、コボルト弓隊40名、投石隊は守備のみの予備隊

食料……農場を整備中。来季には収穫可能

生産……織物、木製品、石の鏃加工(長毛種技術)

士官……『剣聖』キジハタ、『隠密』ヨーク

政務……プドル、ダックス、チワー(農業)

シバの能力……人口が増えると能力が上がる。農地整備技術獲得



「続いてヨークの探索隊からの報告ですが、帝国南西でオーク軍とエルキー軍の大規模な戦争があったそうです。エルキーが勝利し、オークは撤退しています。継続して調査中です」



 ポメラの命でずっと探索していた黒わんこのヨークは探索が気に入ったのか、数名を率いる探索の責任者になっていた。クレリア発案の黒い装束を身に纏った彼はキジハタと仲が良く、彼に二つ名を付けてもらっていてそれを名乗っている。


 そんな彼からの報告にふむふむ、とみんなが揃って頷く。

 エルキーは帝国南部に住む、コボルトとは中立の関係の種族である。彼等は非常に長寿で魔法と薬の扱いに長けており、個体としては『死の森』においては屈指の強さを持っている。


 また他種族の支配には興味がなく、閉鎖的で自領を守ることに終始していた。


 モフモフ帝国に戻ってきたコボルト達の多くは、エルキー達の領土に逃げ込んだ者達である。彼等は支配に興味がないため、害のないコボルトに対しては興味を持たなかったのだ。

 中には保護されて治療してもらった者もおり、帝国では好意的な者が多い。


 クレリアは男女ともに人間に近く、整った容姿を持つという彼等に全く興味はなかったが、もふもふを保護したことは最高級に評価しており、いい関係を築ければとは考えていた。



「私が挨拶に行く。協力関係を築かないとエルキーは負ける」

「ふむ、ヨーク殿の報告では少数の被害で撃退したようだが」

「長寿の種族は出産数が少ない。他種族も使わないから戦力は増えない」



 クレリアの説明になるほど、とキジハタは頷いた上で、腕を組んでううむと唸る。



「ただ、エルキーは孤高の種族。難しいのでは?」

「無理な場合は……厳しい」



 咄嗟にはいい考えも浮かばず、クレリアが俯く。

 そんな彼女を気遣うように皇帝であるシバは明るく笑った。



「その時はまたみんなで意見を出し合って考えることにしようよ」

「無理でも拙者達が勝手に助ければ良い。気楽に考えよう」



 キジハタもそう言って笑った。他の士官達もうんうんと頷く。

 クレリアはそんな様子を見て吹き出すように笑い、そうだねと呟いた。



「じゃあ、報告を続けますね。ビリケ族が数名近々帝国を訪れるそうです」

「ビリケ族?」



 クレリアが聞き返す。彼女以外は知っているからか、特に反応していない。



「あ、そうでした。人間さんには縁ないですね。いろんな物を交換しながら旅をしている種族です」

「ああ、コリーが言ってた商人かな」

「はい。我々コボルトの生産した物も良く交換して頂いています」



 ふむふむとクレリアは頷く。商人と聞くと彼女は人間時代の経験から抜け目のない奴ら……という偏見があった。

 善良なコボルトなら一瞬で身ぐるみが剥がされ、愛玩犬にされてしまいそうである。

 彼女としてはそんなことは許せない。彼等の愛らしさは自由であってこそ輝くのだから。



「私も取引に立ち会う。構わないか?」

「わかりました。連絡しておきます」



 商売下手そうなコボルト達が心配……ということもあるが、旅をする商人のような種族……という彼等にクレリアは純粋に興味が湧いたのだ。

 商売の駆け引きが出来るなら味方に引き込みたい。そんな思いもある。



 様々な問題が山積みだが、モフモフ帝国は力を合わせて徐々に力を蓄えていた。






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