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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
一章 建国の章
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第二話 もふもふ村戦力把握



 コボルトの族長であるシバに人間の世界で集団戦の経験があることを告げた彼女は正式に彼からコボルト族を守るように命令を受けた。

 この光景を見ていた族長付きの執事、コリーは後にこう手記に記している。


 同士クレリアは優れた能力を持っているにも関わらず、謙虚で独断に走らず、重要な事柄は必ず命令を受け常に族長を尊重していた。と。


 だが、当人同士のやり取りは、



「えっと、じゃあクレリアさん。お願いします」

「違う。呼び捨てで。命令で」

「えええええ! ク、クレリア。お願いします」



 半泣きで真っ赤になっているシバをクレリアは、はたから見れば冷静に見つめながら、内心は蹲ってごろごろと地面を転がらんばかりに喜んでいた。

 新しく手に入れた尻尾を動かさないように苦慮しつつ、重ねて彼に告げる。



「命令で。これは大切なの」

「う、うん。クレリア。皆を守れ」

「了解です。シバ様」



 クレリアは涙目の彼を見て蕩けそうになるくらいの高揚感を感じながら、未だかつてこれほど情熱を持って命令をこなそうと感じた事があっただろうかと思う。

 彼女は命令を受けることに喜び、生まれて初めて騎士であることに感謝していた。


 こうして彼女は自分の理想郷を全力で守るために動き始めたのである。



 彼女がまず着手したのは自分の身体の確認だ。かつては女性としては高い背と男にも負けない膂力を持っていたが今は身体が全然違う。

 髪は銀から茶色くなっているし、背は低くなっている。シバのお付きの渋い声のコボルト、コリーに剣と鎧を取ってきてもらったが、鎧は使えそうになかった。


 剣も片手で使っていた剣を重く感じ、両手で扱わなければならなかった。使えないよりはいいが、現状では昔ほど戦うことは不可能そうだ。

 やはり、自分だけでは難しいことを再確認する。が、



「理想の身体を手に入れた代償と思えば安すぎるかな」



 クレリアはあんまり気にしてはいなかった。


 次にクレリアはコボルト族の生活手段や住んでいる場所の地形、技術、武器、食料、産業などを確認する。集団戦では補給が重要となる。戦争と考えたとき、これらを活用できなければ勝利は難しい。しかしこの点は彼女の想像以上であった。

 食料、産業に関しては簡易な農業の知識を持っており、織物に関しては人間以上に精巧な技術を持っている。


 戦いの役に立ちそうな技術としては、小型の獣を取るための弓を作る技術をコボルトは持っていた。投石の腕もなかなかのもので膂力は弱いが手先は器用であることがわかった。

 彼女は仲間を率いて狩りにいっているシバに変わって自分に付いてくれているコリーに矢と石を集めて置くように頼み、同時に彼に聞く。



「どうして、これで負けるかな」

「我らはこの近辺では恥ずかしながら一番力が弱いですじゃ」



 コリーはそう力無く俯く。その姿を見ながら、クレリアは平和そうな種族だからなぁと溜息を付きながら空を見た。森の中なので見えにくいが、僅かに差し込む光で眼を細める。



「戦いを決めるのは力だけじゃないわ。ここを襲いそうな魔物は何?」

「貪欲な魔物、ゴブリンですじゃ」



 ふむ……と、クレリアは考える。初戦としてはやりやすい相手だ。

 騎士団にいた頃に何度も戦ったが大した相手ではない。問題は増えるのが早いことか。完全に殲滅するのは至難かもしれない。



「相手の巣は判る?」

「む、探せないことはないのじゃが何を?」

「守るだけでは勝てない。散らばったわんこ……じゃない、コボルトを集めるためにもコボルト族の勝利を宣伝しなければ」

「おお、同胞を救えるとっ!」



 クレリアは感涙の涙を流すコリーの頭を撫でながら、シバの話を思い出す。

 彼によるとコボルトは一つ一つの部族で毛並みが違うらしい。長いモフモフ、短いモフモフ、巻き毛のモフモフ、想像するだけで彼女のやる気は燃え上がっていた。

 彼女の思いは一つ。私のモフモフコレクションを完成させる! という欲望だけだった。



「ううっ! 我らが同胞の事まで考えていただけるとは! このコリー、感激ですじゃ」

「今は私も同胞だ。でも、巣を壊すのは大変。いい方法思いつかない?」



 コボルト族は数が多いとはいえない。それに貴重なモフモフを失うのは大きすぎる損失だ。

 彼女はなるべく被害を出さずに相手に勝つことを考えていた。コリーはううむと唸っていたがやがて、ぽんと手を叩いた。



「聞いたことがあるですじゃ。魔王候補に降伏した魔物は逆らえなくなるとか」

「え、そうなの?」

「悲しいことじゃが、降伏した我等の同胞がゴブリン共に使い捨てに」



 こんな可愛いの虐めるなんて許せないっ! と彼女は考えつつ、騎士としては冷静に事実を受け止める。自分の部族を守るのは種族の族長としては当然の選択だからだ。



「ん? 近くにゴブリンの魔王候補がいるの?」

「今、そいつはオークの手下として好き放題しておるのじゃ」



 コリーの答えに少しだけクレリアは眉を寄せる。彼女が考えている構想を実現することが容易ではないことを思い知らされたからだ。

 魔王領にもなんだか複雑な上下関係があるらしいということを、コリーの言葉から理解していた。



「私のモフモフ帝国を作るのは簡単ではないな」

「は? 何かいいましたかな?」

「なんでもない」



 情報も集める必要があるが、まずは攻めてくる相手を返り討ちにするところからか……とクレリアは判断し、どう安全に守るかを考えながらそのための準備を始めた。




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