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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
二章 反撃の章
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第十三話 ウルフファング作戦 前編




 ウィペット要塞を出発したキジハタは、オーク族に見つからないよう、ヨークの部下のコボルトの案内でラウフォックス族の集落に移動していた。

 集落には50名程の住人がおり、そのうち幼い子供や老人を除いた30名程が、キジハタ達の周りで作戦の説明を聞いている。


 アードルフからの援軍要請は断っている。

 もし、彼等が勝利すれば自分達に復讐することは明らかだ。


 ここまで来ればラウフォックス族としても一連托生であり、その表情は真剣であった。



「ならば、我々は命を掛ける必要は無いと?」

「うむ。遠距離攻撃に集中し、自分達の安全を優先して構わない」



 族長である黒い毛並みの初老の狐、ロルトにキジハタは丁寧にシルキーの作戦を説明していく。攻撃の魔法を使えるとはいえ、彼等は戦闘経験が少ない。

 同士打の危険は避けたいという思惑がキジハタ達にはあった。



「もうすぐこの集落に『隠密』ヨークが報告に来る。それによって作戦は変える」

「出来れば我らにとっていい知らせであって欲しいものだな」



 苦々しく彼は口を歪める。

 彼等にとっては自分達が平和を壊し、戦争に巻き込んだ者であることをキジハタは理解しており、その言葉には苦笑を返しただけであった。



「さてどうか……」



 キジハタとしては複雑な心境である。

 『サーフブルーム』の人数が少ないということはウィペット要塞に負担が掛かるということだからだ。頑丈な要塞だが、今回のような圧倒的な戦力での攻撃は誰もが未経験。


 彼としては信じるしか道はないのだが。



「クレリア殿も今の拙者と似た気持ちを持っているのかもしれんな」



 ふと、別の場所で戦っているはずのクレリアのことを思い出して苦笑する。

 現場で共に戦うことには不安はないが、少し離れると心配になる。


 シルキーは賢いが臆病で即応力に欠ける。クーンは器用で何でもこなすが突出するものがない。タマは能力が高いし機転も効くがオークだということで味方からの偏見がある。


 だが、キジハタはこうも思う。

 クレリアから見れば自分達など不安の塊だろうと。


 そんな彼女も自分は完璧ではないと常々言っている。

 ならば足りない物があっても、あるものでなんとかしていくしかない。


 若い彼らはなんとかしてくれるだろう。敵も完璧ではないのだ。



「拙者も最善を尽くすしかないか」



 キジハタは目を瞑り、静かに報告を待つ。

 しばらくすると、『サーフブルーム』を監視していたヨークが木の上から音も無く降りてくる。全員が緊張した面持ちで彼を見つめた。



「『サーフブルーム』の戦士は殆どがウィペット要塞に向かった。残っているのは少数だ」

「……そうか」



 キジハタは報告を聞くと重々しく頷き、ラウフォックス族と部下の戦士達を見渡す。



「ラウフォックス族は我等の援護に集中を。期待している」

「わかった。お主らの実力を見るいい機会だ。じっくり見させてもらおう」



 ラウフォックス族の族長、ロルトは尖った鼻を鳴らし、若者達に声を掛ける。



「ラウフォックス族の若者達よ。我々は高みの見物だ。だが、役立たずだとは思われるなよ。我々に価値があることを示せ。それが我らを助けるだろう」



 緊張を隠せない表情で色んな毛並みの若者達が揃って頷く。



「獲物を噛み砕く準備に向う! 目標『サーフブルーム』!」



 キジハタはそれを確認すると力強く宣言した。




 その翌日、ハイオークのアードルフは持てる戦力を全て叩きつけてウィペット要塞を落とすべく、準備を命令しながら攻め方を考えていた。


 この要塞の厄介な所は、コボルトが得意とする弓を生かすことが出来る構造になっていることであった。中への侵入が成功しても、道は狭く、数を頼んで攻めることも難しい。



「だが、この間のようにはいかん」



 要塞を憎々しげに睨みつけ、アードルフは呟く。

 彼は自分の敗北を受け入れられずにいた。


 これまでと全く違う戦闘、その有効性を彼は理解していたが正面から戦わないコボルトらしい臆病な戦闘だと考えている。



「アードルフ様! 橋の準備が出来ました」

「よし、オークを中央に。矢を打ってきても気にするな。楯でなんとか防げ」

「はっ!」



 だが、今回はその小細工を防ぐための準備も欠かしていない。

 すぐに反撃に出なかったのも、一番厄介な弓への対策のためである。


 アードルフは圧倒的な個人能力を持つが故に、このような準備とは無縁であった。



「コボルト共を今度こそ皆殺しにしろっ!」



 それ故、慣れない戦いを強いて来たモフモフ帝国への怒りは大きかった。


 森を揺るがすような重く、大きい声でアードルフは叫ぶ。

 ウィペット要塞を前にしたアードルフの部下達は、その声から暴虐と略奪を想像し、興奮に包まれて沸き上がるような声を上げた。


 前回、参加した者達を除いては。




「いやーすごい数ですねい。うじゃうじゃ」

「数字と実際見るのとで全然違いますね。なんかオークいっぱいいるし……」



 ウィペット要塞側ではアードルフ側の数を見たシルキーとクーンが、250名近くの大軍の迫力に、顔を引き攣らせて苦笑いしていた。



「おいおい、お前らがそんなでどうすんだ」

「タマさんと違って繊細なんです」

「嘘付け」



 そんな状態でも憎まれ口を叩く彼女にタマは呆れるような視線を向ける。



「やつらも馬鹿じゃないな。矢の対策もしてやがる」

「ゴブリン戦士隊と長槍隊の負担、ありそうですね」

「なあに、腕が鳴ってるだろうよ」



 ぐはは! とタマはわざとらしく要塞中に響きわたるような大声で笑った。

 そんな彼に周囲の戦士達は、安堵の表情を向ける。



「何日持てば勝つ?」



 一頻り笑った後、タマはシルキーに問い掛ける。

 狼の下顎であるウィペット要塞の役割はとにかく耐えることだった。


 守備側が優位ではあるが、接近戦になれば数の差は大きい。

 圧倒的な実力を持つアードルフの存在もあり、守りきるだけでも厳しい状況であった。


 今後の戦いを考えるとなるべく被害は出したくないのだ。



「長くて三日」

「なるほどな。おい、クーン。気合入れるのは俺がやらせてもらうぜ?」

「任せますわ」

「よしよし! 美味しいところは俺がもらいだな」



 三毛柄のケットシーは目を細めてタマを見る。



(ほんとよう気が付く。相手を見ているのかね)



 彼女はこのような戦士達を奮い立たせる演説は苦手としていた。

 タマは押し付けがましくならないように、役目を持って行ってくれたのだと彼女にはわかっていたのである。彼は無骨そうに見えて、そんな細かい気配りに長けていた。



「おい! 全員よく聞け! 懲りずにアードルフがこれから攻めてくる!」



 だん! と足を踏み鳴らし長槍を振り上げて、タマは楽し気に敵にも聞こえるくらいの勢いで腹の底から声を出す。



「だがしかぁし! 俺達の奴らをもてなす準備は完璧だ!」



 弓を持ったコボルト達、剣や槍を持ったゴブリン達、ハイオークの過酷な統治に復讐するために石を投げることを決意した避難民。


 暗さが全くない彼の言葉に全ての者が耳を貸す。



「奴等は俺達を簡単に倒せると思っている! 果たしてそうか! そんなわけがねえ!」



 敵と同じオーク……しかも、オークリーダーでありながら、不思議と今、誰もそんな風には思っていない。頼りになる仲間……それだけだ。

 クーンとシルキーも微笑みながら、彼の演説を聞いている。



「誇り高い帝国の戦士達! お前達の強さは本物だ! 勘違いをしているハイオークとその部下共を最高にもてなしてやれ! 徹底的に叩きのめすぞ!」



 モフモフ帝国の戦士達はタマの演説に応え、それぞれの武器を掲げ、怒号のような歓声と自信に溢れた笑い声を上げた。





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