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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
二章 反撃の章
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第十一話 準備期間




 ウィペット要塞の会議室では『隠密』ヨークからターフェの手紙を受け取ったシバが、それを読み返し首を傾げていた。


 すでに、ラウフォックス族との謁見は終了している。



「結局、来るときに戦士を整列させて何か意味があったのかな」

「拙者の私見ですが、使者は驚かれておりました。それが狙いでは」



 疑問の表情を浮かべている皇帝に、キジハタが答える。



「オーク族では軍隊としての行動は行なっていないはず」

「まあ、そうだろな。でもよ、あの女の本当の狙いは手紙の最後の方だろ」



 タマが頭を掻きながら呆れるような声を上げた。

 今回の会見で決まった事は、


1、ラウフォックス族はモフモフ帝国に全面的に協力する。

2、将来、ラウフォックス族の魔王候補と戦う場合、それぞれの選択に任せる。

3、次作戦終了後、安全のためにモフモフ帝国領への避難を行う。

4、モフモフ帝国領内では平等に扱う。

5、ラウフォックス族の優秀な若者を二名、幹部候補として東部で学ばせる。


 であるが、二番は皇帝であるシバが考えて提示し、五番はターフェが手紙の最後で提案するように指示していたものであった。



「あいつ、私欲のために利用したんじゃねえか?」

「交渉というのは目的を達成するためにある。ターフェは達成したわけだね」



 シバはおかしそうに明るい笑い声を上げる。

 宣言通りに誰にも迷惑を掛けず、恨まれず、目的を達成しつつ、自分の目的まで達成したターフェに他の幹部達一同は感心していいのか、呆れた方がいいのかわからず、微妙な表情で立ちすくんでいた。



「じゃあ、僕は疲れて眠っているターフェが目を覚ましたら一緒に帰るから……お願いね」

「承知」

「おうよ、まかせとけ」



 キジハタが短く返事をし、タマが威勢良く笑顔で返事をする。

 他の者も、それぞれ決意の表情で皇帝に対して頷いていた。




 翌日、会議室には作戦会議を行うために幹部達が集まっていた。

 作戦の原案を作っている褐色と黒の毛並みを持つコボルトリーダー、シルキーはラウフォックス族の動向に応じて複数の作戦を考えていた。


 だが、今回ターフェがラウフォックス族を味方に付けてくれたことにより、細部を詰めていくことが可能になったのである。


 彼女はコボルト探索部隊が制作した地図を細い棒で指し示しながら説明していく。



「次の作戦の目標は二つ。一つ目は拠点『サーフブルーム』の奪取。二つ目はハイオーク、アードルフを殺害すること……ですが、二つ目はもしかすると難しいかもです」

「もしかするとってこたぁ、簡単だと思ってたのか」



 顎の毛を触りながらタマはむむむ、と唸る。

 彼はアードルフの強さを文字通り肌で理解しているため、流石にシルキーは強気すぎだろうと考えていた。



「強さの問題というより、知恵が廻る様子でしたから。判断もいいですね」

「オーク族では過小評価されてたってところか。もしくは追い詰められて、目覚めたか」

「『サーフブルーム』の攻略は簡単なんですかい?」



 三毛柄のクーンからの問い掛けには即座にシルキーが頷く。



「一度目の防衛戦の時にわざと第一防衛線を突破させ、アードルフ見逃したのはそのためです。まあ、第一防衛線は普通に、突破されたかもしれません」



 シルキーは駒をウィペット要塞とサーフブルーム、ラウフォックス族の集落にそれぞれ置いていく。



「前回の攻撃からアードルフは少数では要塞を落とせないと理解しています。だが、諦めるとも思えません。次は前回以上の戦士を連れてくると思います」

「まあ、諦めるってのはないだろうな。そんで?」



 タマの疑問にシルキーは頷き、説明を続ける。



「しかし、死んだもの、降伏したものは多い……前回以上の戦士を集めるのは非常に難しいです。恐らく、『サーフブルーム』に残す戦士は少なくなると予想しています」

「ふむ。ようするに拙者達はハイオークの留守を襲うわけか」

「そのとおりです。その方が楽ですから」



 パイルパーチに篭もったコンラートを相手に、クレリアが賭けに出なければならないほど苦戦したことを思い出し、キジハタは彼女の言い分の正しさを理解した。



「それでは詳しい作戦を説明します。作戦名は何にしようかな」

「先に説明しろよ。それで決めようぜ?」



 先走るシルキーにタマは笑ってそう指摘する。シルキーはそんな彼に「うるさいですね」と憎まれ口を叩きつつも、説明を始めた。




 その日の晩、会議が終わるとクーンは自分の寝所にシルキーを誘い、二人分の果実水と彼女秘蔵のまたたびを肴に話し込んでいた。


 種族は違うが二人とも同性で、同世代である。

 性格は大きく違うが仲は良かった。元々コボルト族とケットシー族は仲がいいのだが。


 クーンは丁寧にまたたびを切り分けながら楽しそうに笑う。



「シルキーお疲れさん。今日のは最高のまたたびですぜ」

「コボルトはまたたびじゃ酔わないんだって。もう……」



 呆れつつも、シルキーは微笑みながらそれを受け取る。



「しっかし、ようあんな作戦思いついたなぁ。私にはわからんわ。作戦名を考えたヨークのネーミングセンスもわからんけど」

「作戦名はまあ……クレリア様が、作戦はみんなが楽を出来るように考えなさいってね」



 シルキーは昔を思い出し、目を細める。

 自分が楽をすることしか考えていなかった彼女に、クレリアはそう告げた。


 コボルトリーダーでありながら、弓も投石も苦手な自分が戦争に一番適正があると。

 そのことをシルキーは半分感謝をし、半分恨みがましく思っていた。



「あの姐さんは私にはそんなこと言わなかったなぁ。剣、弓、槍、ブルー様が担当しとる諜報、全部こなせるようにって……ほんと無茶言うわ」

「一人一人を見て考えているのよ。クーンは器用だから」



 適材適所、それぞれが最大限の実力を出せるように。

 それが、モフモフ帝国が生き残る道。


 クレリアは全ての幹部に共通してそれだけは徹底をしていた。



「ま、そんな硬い話はええ。もっと愉快な話をしよ」

「あんたが振ったんでしょう」

「せやな……あ! あの作戦、またタマが危険っぽいけどいいんかい?」

「な、ごほっごほっ!」



 ちびちび果実水を飲んでいたシルキーが咳き込み、クーンが彼女の首に腕を廻す。



「い、いいってどういうこと? 別に問題ないじゃない」

「いやー、仲良しやし? きししっ! お姉さんわかってるんすよ?」

「あんた酔いすぎ! またたび禁止っ!」



 わいわいがやがやと、夜は更けていく。

 その日は遅くまで二人の話し声が絶えることはなかった。




 一方、もう片方のハイオークの拠点『コモンスヌーク』では、コンラートとカロリーネが、アードルフに追放されたオークから戦争の報告を受けていた。



「そうか。アードルフは負けたか。しかし驚いたな」

「クレリアって娘いないのなら面白くない……と思ったから任せたのに」



 二人には動揺は欠片もない。

 あるのは、楽しそうな表情だけだ。



「総大将はキジハタと言ったか」

「ゴブリンリーダー? ハイゴブリン?」

「いや、ただのゴブリンだ。オークリーダーを一対一で切り捨てたそうだが」



 猪の耳を持った美女、カロリーネは吹き出して笑う。



「なにそれ面白い。私も戦いたいわね」

「アードルフから手を出すなと言われているんだろ?」

「私には関係ないわよ。ま、でも、つまらないから上げるっていっちゃったしね。どうしたものかしら。戦いたいんだけど」



 コンラートは同意するように頷く。だが、内心では別の事も考えていた。

 情報ではクレリア・フォーンベルグは中央部で確認されている。


 ならば、的確に情勢を判断し、作戦を進めているのは別の者だと。

 彼は戦いを好んでいたが、それだけではなかった。


 集団戦……その知識を貪欲に欲していたのである。

 彼を完敗させた女、クレリアに勝利するために。



「情報が全然足りないな。何か方法はないか……」



 静かな戦争準備期間は刻一刻と過ぎて行く。

 次の闘いの足音は間近に近づいていた。





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