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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
二章 反撃の章
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反撃の章 プロローグ




────『死の森』北東部攻略作戦について。



 大きく分けて九つの地域に分けられる『死の森』東部を完全に抑えることに成功したモフモフ帝国だが、未だオーク族の六分の一程度の勢力であり、正面からオーク族を倒すことは現時点では不可能であった。


 また、モフモフ帝国で最も人口の多いコボルト族は防戦には向いているが、攻撃には不向きであり、その次に多いゴブリン族も訓練による質の向上は進んでいるものの、生来的な能力としてはオークに劣っているという問題を抱えていた。


 これらの問題を正確に把握していたクレリア大元帥は『死の森』北東部の制圧を皇帝シバに進言する。その目的は次の三点である。



・ 北東部に住む諸部族を支配下に置く

・ 中立地帯であるガルブン山脈からエルキー族まで繋がる交易ルートの確保

・ オーク族の各個撃破



 北東部には『死の森』では少数部族であるラウフォックスの集落やバルハーピーの集落等も存在しており、彼等の生産手段、技術を取り入れることが帝国会議で検討されている。

 また、交易ルートの確保は戦力増強策の一環であり、個々の強さではオーク族に劣るモフモフ帝国はガルブン山脈の良質な武器を必要としたのである。


 クレリア大元帥は軍幹部、政務官双方に戦略の目的の理解を徹底した後、彼等自身に戦略の検討を任せている。この経験はモフモフ帝国が『オッターハウンド要塞の窮地』に陥り、危機に瀕した後に大きく活かされて行くことになる。


 モフモフ帝国軍将軍キジハタは後に次の様に語っている。



“絶対的な一人を頼るのではなく、拙者達一人一人が誇りを持って帝国を支えるのだ”





『モフモフ帝国建国紀 ──反撃の章── 二代目帝国書記長 ボーダー著』





 モフモフ帝国首都、ラルフエルドでは褐色の長い髪の少女が、同じ色の短髪の少年の対面に座り、薬草茶を楽しみながら話をしていた。


 二人とも人間に近い容姿をしているが、頭部に生えた三角の耳とふさふさな尻尾が人間ではないことを主張している。


 少女は無表情だが、少年は気にすることなく彼女が求める話を続けていた。

 少年には長い付き合いのお陰で少女が楽しんでいることが分かっていたからだ。


 この二人は彼等が住んでいるラルフエルドの主であり、それぞれ皇帝と大元帥の地位に付いているモフモフ帝国の最高権力者であった。


 最も、彼らの様子は子供のお茶会といった雰囲気で権力とは無縁そうではあったが……。

 それは皇帝であるシバの雰囲気のせいかもしれない。


 明るく天真爛漫で、悪意といった感情が殆どなく、真面目で誠実な典型的コボルトな性格である彼はまるでごく普通の少年のようであった。


 対面に座る少女の方は、普段は堅い雰囲気であるのだが、彼の前では多少は繕っているものの自然体であるため、普通の女の子のような印象になるのである。



「それで、シバ様……北東部にはどのような種族がいるのですか?」

「そうだねー僕が知っているのはバルハーピーかな」

「バルハーピー?」



 クレリアと呼ばれた少女は、聞き慣れない種族の名称に首を傾げ、少年……シバに聞き返す。そんな彼女に彼は楽しそうな表情をしながら何度も頷く。



「凄いんだよ。彼等は空を飛ぶんだ!」

「鳥のような魔物なのでしょうか」



 クレリアは上手く想像できず、大きな鳥を思い描いていたがそれならシバは凄いとは言わないはず……と首を捻る。



「説明が難しいなぁ。僕達と鳥が混ざったような感じ?」

「ふむ……なるほど」



 クレリアは二足歩行する鳥を想像し……保留かな……と薬草茶を啜った。



「外にはご存知ですか?」

「うーん、あ、狐の種族、ラウフォックスって種族が……」



 がたっ! っと、一瞬立ち上がろうとして椅子を鳴らし、何でもない様にクレリアは座り直す。シバは驚いて耳を立てていたが、何でもありませんとクレリアは落ち着いた声で彼に謝罪する。


 モフモフ帝国の皇帝であり、魔王候補でもあるシバの腹心であり、冷静沈着で優秀な女性であるクレリア・フォーンベルグは普段の彼女を知っている者には信じられないような趣味を持っていた。


 彼女は無類の『可愛いもの好き』だったのである。



(狐……もふもふ……絶対に帝国に……保護……もとい、仲間に! ああっ……早く会いたい会いたい……どんな子なのかしらっ!)



「クレリア? 明日の予定は? ……クレリア?」

「何でもありません。明日は朝から北部の要塞建築に向かいます」

「了解。一緒に頑張ろうね」

「はい」



 天使の様な笑顔を見せるシバに、クレリアは小さく微笑み返し……内心では悶えて転がりながら抱きしめたい衝動を必死で我慢していた。


 何年経ってもクレリアはある意味平常運転である。



 平和な雰囲気の二人とは裏腹に、モフモフ帝国には生き延びるための次の戦いが直ぐ側まで迫っている。彼等はそれを知りながらも、安らげる僅かな時間を楽しんでいた。





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