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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
一章 建国の章
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第十六話 新しい可能性




 数ヶ月近くの時が流れた。『剣聖』キジハタの部隊が東部の小集落をモフモフ帝国に降伏させて回っていたため、東部はモフモフ帝国と大きめの集落が三つ、オークの拠点が一つと随分整理されている。


 オークがいる小集落の場合は、オークと戦わなくてはならないこともあり、キジハタ達はオークとの戦闘経験を順調に積んでいた。


 お陰でクレリアはシバと二人、内政面の強化に力を入れることが出来ており、シバの汗を拭いたり、食事を食べさせあいしたりと至福の時を送っていた。


 そんなある日のことである。



「お、こちらにおられたか。クレリア殿、シバ殿! 探しましたぞっ!」

「何があった?」

「キジハタ、今日は明るいね。どうしたの?」



 水路の拡張と堀の強化を終えたシバと、新しく増えた臣民達の振り分けを終えたクレリアが二人並んで木陰に座り、休憩していたところに珍しく慌てた様子のキジハタが走り寄ってきた。



「また、タマに勝ったの?」

「タマ殿のお陰で拙者の剣の道は進んでおりますが、そういうことではありませぬ」



 ふむ……と、クレリアは首を傾げる。彼がこれ程、喜ぶこと……。



「拙者の息子が生まれたのだ!」

「え、本当?」

「わあ! おめでとう。キジハタっ!」



 にこにこと朗らかに笑っているシバと違い、クレリアはちょっと考えに耽っていた。ゴブリンとコボルトの子供ってどんなのなんだろうと。


 ゴブリンはどちらかというと醜い。キジハタは本人の性格がさっぱりしているおかげで、むしろそこがアクセントになっており、彼女はそのギャップが気に入っているのだが……。


 他のゴブリン達にもすっかり慣れ、個性もあるし案外ゴブリンもおもしろいとか今では考えている。


 だが、二人の息子となるとどうだろうか。ぶさかわいくなるんだろうか。

 彼女は深い苦悩のうちにあった。



「今はターフェ殿が妻のトイを見てくれているのだが、やはり、シバ殿とクレリア殿には真っ先にお伝えせねばと思った次第」

「ふむ、早速行きましょう」



 今後の異種族結婚の問題もある。結果は怖くても知らなければならない……クレリアは頷くとシバと手を繋いでキジハタの家へと急いだ。



 キジハタの家に着くと、毛の短い種族のコボルト、トイが横になって幸せそうに笑っている。その側ではターフェがにやにやと愉快そうな笑みを浮かべながら、メモ帳らしきものに書き込みを行っていた。


 中に入るとトイは寝床でクレリアとシバに頭を下げる。



「トイ。頑張ったね」

「有難う御座います。シバ様、クレリア様」



 起き上がろうとしたのはシバが笑顔で止めた。クレリアは何処に子供がいるのだろう……と、きょろきょろ探す。


 トイの側にちいさな……ちょっと鼻が長い感じの、全体的にはトイに似た可愛らしいふかふかのもふもふが眠っていた。ほかの子供に比べると体は少し大きいだろうか。

 しかし、ゴブリンの容姿は全く引き継がず、微妙にコボルトとも違うが、どちらかというとコボルトに近い感じだとクレリアは感じた。



「む、可愛い」

「本当だね~名前はなんていうのかな?」



 あまりの可愛らしさに飛び込んで抱きしめに行きたくなるのを自重しつつ、クレリアはシバと一緒にキジハタの嬉しそうな顔を見る。



「拙者も妻も悩んだ末に、シバ様とクレリア殿に名前を戴こうという結論に」

「うーん、そっかぁ。クレリアが決める? 強そうな名前がいいかなあ」



 キジハタの息子だしね。とニコニコと何度もシバは頷き、クレリアを見る。彼女はシバに言われるまでもなく、戦争の時よりも必死に頭を使っていた。

 戦士戦士……と、考えて一人の男の顔を思い出す。



「ハーディング。私の知る限り、最強の戦士の名前」

「おおっ! まあ、拙者は息子の道は自分で選んでもらうつもりなのだが……もし、戦士を選んでくれたらこれ以上の名前はない」



 今は亡き、クレリアの祖父の名前だった。

 結局、彼女は一度も勝てなかった祖父を……あの妖怪爺め……と、少し思い出して顔を顰め、こんなにかわいらしいもふもふには似合わないかなと、苦笑していた。


 そこで、クレリアはターフェが余りに静かなことに気付いた。普段の彼女であれば、理性が崩壊して、暴走しているはずなのにと。



「ターフェ。何をにやにやしている?」

「いや、実に……実に夢が広がる結果になったなと思ってな」



 メモを書き終えたのか、仕事道具の入った鞄にしまい、眼鏡をくいっと動かして彼女はにぃ……と、邪悪そうに笑う。



「クレリア。異種族同士の交配はまあ、例がないわけではない」

「そうなの?」



 うむ、とターフェは頷く。今は医者としての発言なのか、顔付きは真剣そのものだ。



「本来なら、どちらか単一の種族の子が生まれる。だが、今回は違う」

「コボルトではないのか?」



 くく……と、悪巧みするかのような笑みをターフェは浮かべる。

 冗談を言っているわけではなさそうだ……と、クレリアはターフェを見上げる。



「そんな目で見られたらぞくぞくするな。そう、コボルトではない。ゴブリンでもない。全くの新種だよ。これは新しい可能性だとは思わないかね?」

「原因の検討はついているわけか」

「クレリアは話が早くていい。その通りだ」



 ターフェは頷いて、部屋をゆっくりと歩き……シバに抱きつこうとして、クレリアに手を叩かれる。



「酷いな。理由を説明しようと思ったのに。原因はシバ様だよ」

「魔王候補の力?」

「うむ、この村で生まれたコボルトには中位種のコボルトリーダーが増えている。他種族も中位種、上位種がちらほらな。おそらく彼が力を付けたことにより、影響が出ているのだろう。彼の配下全体に」



 つまり、異種族間でもコボルトの影響が……ん?



「つまり、他の種族とコボルトが結婚するとコボルトに近い新種が生まれるのか?」

「その通りだ。ふふふ……どうだ。夢があるだろう。モフモフ帝国が大きくなれば、自然と異種族間の結婚も増えるはずだ。そうするとどうだっ! 天国ではないかっ!」

「なっ!」



 クレリアは衝撃を受けた。彼女の言うとおりだ。

 自分は現状で満足をしつつあったが、まだまだ一歩踏み出した程度にしか理想郷は完成していなかったのだ。まだまだ、コボルトはその小さい体に無限の可能性を秘めていた。


 果たしてどんなもふもふが私を待っているのだろうか。まさしく、夢は無限大だ。

 それをこの変態に教えられるとは……そう思い、彼女は奥歯を強く噛みしめた。



「ターフェ殿。拙者の息子は新種と言われたが……無事成長するのか?」



 キジハタが不安そうに、ターフェを見る。が、彼女は自信あり気に笑った。



「心配は不要。私は天才だ。お前は息子の育て方を考えておけ」

「承知」



 キジハタはターフェに深々と頭を下げた。

 医者としての彼女は圧倒的な迫力がある。恐らくなんとかするのだろうとクレリアは思った。


 新しい可能性……新しい種族のハーディングの誕生を祝福し、その幸せそうな寝顔を見ながらクレリアは、彼の成長を楽しみにすることにした。




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