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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
一章 建国の章
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第九話 少数部族の取込 中編



 キジハタに剣を学んだ堅い雰囲気のコボルト達に案内されながら、クレリアは東地域の集落を順番に回っていた。中には家が壊されたり燃やされた後が残っている集落も多く、オークやそれに協力する者達の侵攻の酷さを感じさせる。



「ぐるるる……」

「遅くなってごめんね。もう大丈夫だから」



 廃墟のような場所でやせ細りながらも生き残っていた者達の中には、大人もいたが子供が特に多かった。大人達に逃がされていたのかもしれない。

 クレリアは汚れた彼らを抱きしめ、噛み付かれたりしながらも優しく声を掛け、落ち着いたら食事を与えてコボルトを付けて帝国へと案内させていた。


 クレリアは彼等が生き延びていたことに喜びながらも疑問に思っていた。彼等が何ヶ月も生き延びるのは大変だ。食料の蓄えも無かったはずだ。



「これだけ生き延びるには子供には大変なはず……誰が……」

「お姉ちゃん、さっきは噛んでごめんなさい」



 頭を胸に埋めて泣いている子供のコボルトにクレリアは微笑む。



「いいのよ」

「怪盗ロシアンが……みんなを助けてくれたんだ。だけど、もらった食べ物も全部無くなっちゃって……えぐっ……どうしようかと……」



 頭を撫でながらクレリアは報告書にもあった怪盗ロシアンという魔物について考えていた。彼女がこういう廃墟で怪盗ロシアンの名を聞いたのはここだけではない。


 オーク達に滅ぼされた集落はコボルトもゴブリンも分け隔てなく彼とその仲間を名乗る者に助けられている。彼等は一様に怪盗ロシアンに感謝していた。


 多くの者を助けながらオーク陣営への破壊工作も行っているという、怪盗ロシアンにクレリアは興味を持っていた。可愛ければいいなと……ついでに優秀なら仲間にと。



 オーク達に降伏した戦意ある集落は後に残しておき、一度帝国に帰還して案内をさせたコボルトと合流すると、クレリアは残るケットシーの集落を目指した。


 彼らの集落はその殆どが巧妙に隠されているらしく、後でも大丈夫だと判断したのである。シバ達も親友であるケットシー族のブルーがいる集落しか知らなかった。


 コボルトに案内してもらいながらクレリアも森の中を駆けていく。

 人口が増えるに連れて彼女の身体能力は上がっており、当初の人口の倍以上になった現在ではコボルト達と同じ獣のような身軽さを身に付けていた。

 そんなことより彼女は力が戻っても身体が大きくならないことに心底ほっとしていたが。



 コボルト達にクレリアが案内された場所は、普通に木が生え、草が生い茂った辺りと変わらない何の変哲もない森だった。

 案内していたコボルトの中の年長わんこは立ち止まるとクレリアに到着を告げる。



「クレリア様。ここです」

「ただの森に見えるけれど?」

「少々お待ちを……ブルー殿っ! シバ様の遣いのシュナウザーです!」



 他のコボルトよりちょっとだけ凛々しい彼が渋い声で叫ぶと周囲の木々が、がちゃっと開く。クレリアは木の中をくり抜いて家にしているのかと感心していた。



「彼等は森に偽装しているのです」

「なるほどね……彼等がケットシー族……虎の血を引く部族」



 木々の中からは三十名程の色んな毛並みのちょっとふっくらした身体の、猫……もとい虎の頭を持つ愛嬌ある二足歩行の獣人達が集まっていた。


 楽しみにしていた彼女にとっては予想以上の破壊力であった。クレリアは幸福感に包まれてぼんやりと彼等のことを見ながら彼らのことをよくよく観察する。


 コボルトとケットシーは頭部を除けばそっくりなのだが、性格は随分違う。

 コボルトは質素で素朴、実用的で動きやすい服などを好んでいるが、ケットシー達はお洒落な服を好んでいる。一匹一匹服装が少し違うのだ。


 それぞれ自分の毛並みに合うように考えているようだ。虎縞、三毛、ふさふさ……わしゃわしゃ……虎……狼と虎……にゃんことわんこ……。


 理性を完全に失い、好奇心に目を輝かせながら近寄ってきた大きな帽子を被っている子猫ケットシーを思わず抱きしめそうになったが、隣にいるシュナウザーから声を掛けられてはっと我に返る。



「クレリア様、大変です! ブルー殿は村に残っている男達と一緒にオークに攫われた子供を助けにいったそうです」

「それはいつ?」



 無意識に近くの子猫の頭を撫でながら、大人のふさふさ毛なケットシーに声を掛ける。彼女は小鳥が囀るような綺麗な声で……だけど、泣きそうな顔で言った。



「お昼前に外で遊んでた子供がオーク達に見つかって……それで……」



 クレリアは空を見上げる。太陽は真上を少し過ぎていた。

 それほど時間は経っていない。



「オーク達が向かった方向を教えて欲しい。倒してくる」

「え、えええっ!」



 ふさふさケットシーが驚きの声を上げる。おかしいことを言っただろうか。と、彼女は懐いている子猫ケットシーを眺めながら首を傾げる。


 モフモフを……しかも子供もふもふを虐めるなど、彼女の価値観では万死に値する。

 人間の時には氷と呼ばれていた彼女は今、かつてないほどの怒りに震え、萌え……いや、燃えていた。



「シバ様の友人なら助けるのが当然。大丈夫。助けてくるから」

「ありがとうございます! 私が案内しますっ!」



 ふさふさケットシーな彼女にクレリアは頷き、オークと戦うことにぷるぷると武者震いしているコボルト達にも頷く。彼等も覚悟を決めたのか全員揃って頷いた。



 ふさふさケットシーに案内された、オークが子供を攫った後に向かったらしいゴブリンの集落はあちこちに強力な魔法の跡らしき穴が空き、吹き飛ばされたらしい縛られたゴブリン達が気絶していた。魔法を使った何者かは手加減したのだろう。



「これは……ケットシーって強いのね」

「ブルー様だけです。あのお方は魔王候補ですから」



 驚くクレリアに彼女……シャムが誇らしげに説明する。シバは攻撃に魔法は使えないがブルーというケットシーは使えるらしい。他の魔王候補達も使えるのかもしれない。


 多くの領土を持っているオークを倒すのは容易じゃないなとクレリアは考えていた。

 シバの魔法は地味だが魔力は強大だ。ケットシー族のブルーも彼の部族以外支配していないはず。それなのにこの穴だらけの惨状だ。


 オークには油断させておく必要がある……そう判断していた。

 オークの魔王候補は間違いなく彼以上の強さを持っているだろうから。


 そうして、村の様子を伺っていると三毛の柄の頭を持ったケットシーがクレリア達に慌てた様子で近付いてきた。



「シャムっ! なぜ来た」

「シバ様のご友人が加勢してくださると」

「おおっ! 感謝する……ブルー様が子供を人質にされて捕まってしまったのだ」



 三毛柄の青年、カールの説明によるとケットシーはコボルトと同じく、正面から戦えない種族らしくカール達が数人で陽動を行い、唯一戦うことができるブルーが切り込んだのだが、もう少し……というところで子供を人質に脅されてしまったらしい。


 クレリアは身を隠して集落の様子を伺いながらどうするかを考える。



「まずは子供とブルーを助けることね。場所はわかる?」

「二人はわけられて捕まっています。見張りはゴブリンが子供の方に一人、ブルー様に二人。私共の戦い方は見抜かれているので、何をやっても離れようとしません」



 それぞれ捕まっている建物を指さして三毛柄のカールが説明する。

 なるほど、とクレリアは頷く。



「何故すぐにブルーを殺さないのかしら」

「その……見せしめにするつもりかと……私共は色々と派手にやっていたので」



 ケットシー達は得意の攪乱、罠などを使ってオーク達の邪魔を行っていたということをカールはクレリアに説明する。



「聞くことは次で最後。ブルーはどんな容姿?」

「ブルー様はハイケットシーです。背丈は同じくらいですが人型で……」

「よしっ! あ……いやいや。作戦が決まったのでな」



 思わず声を上げてしまったのを誤魔化し、緩まりそうになる顔をキリっと引き締めて周りに集まっているコボルト達とケットシーたちを見回す。



「私が正面から大きな音を立てながら堂々と入る。その間にケットシー達はコボルト達の案内。コボルト達は三人と六人に分かれて見張りを倒しなさい」

「了解!」

「え、え! 危険ですよ!」



 話を聞いていたシャムが大声を上げるが、クレリアは自信あり気に微笑んで頭を撫でる。コボルト達も緊張しつつも剣の確認を行っていた。



「ここにいるコボルト達は闘う事を心に決めたコボルト達なの。そして私は」



 クレリアは細やかな装飾の施されたブロードソードをふさふさケットシーのシャムに見せた。

 手入れをしなくとも錆びることのない『永遠の銀』から作られた逸品である彼女の剣は戦わない者が見てもただの芸術品でないことが理解できる。

 シャムは魅入られるようにその美しい刀身を見つめる。



「モフモフ帝国大元帥、クレリア・フォーンベルグ。帝国最強の剣士なのよ?」



 危険など無いわ。とクレリアはそのまま集落に向かって耳をピンと立てて堂々と歩いていく。

 子供くらいの身長の彼女が放つ迫力にケットシー達は唖然としながら彼女を見送った。


 コボルト達はクレリアに尊敬の視線を向けて拍手していたが、彼女が歩いていくとケットシー達と共に隙を伺うため、人質の捕まっている小屋を目指して移動していった。




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