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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
一章 建国の章
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第八話 少数部族の取込 前編




 旅する商売人の魔物、ビリケ族のブーモが訪れてから二ヶ月ほどの時が流れた。


 これまでコボルト達は自分達が作った物を集め、全員に分配してそれぞれ生活に必要な物を購入していた。だが、人口が増えるとそのやり方も考えなくてはならない。


 ビリケ族が行商しにくる物は戦いを左右するほどの価値がある鉄なども混じっているからだ。ガルブン山地に住む、ドゥーケン族という魔物が鉄の精錬技術を持っており、ビリケ族は彼等と様々な物を交換することで鉄製品を手に入れている。


 当面、モフモフ帝国では全生産物を一度集め、そのうち三割を帝国の運営の為に預かり、残りを職業別に臣民に分けている。現在戦闘する物は食料調達や農業もこなしているため、生産専門の者より多めに渡しているのである。


 貨幣が現在使うことができないためのクレリアとしては苦肉の政策であった。

 皇帝であるシバを始め、お気楽な住人たちはあんまり気にはしてなかったが。



 定例となっている会議は前と違って新しく建てられた平屋の大きな建物で行われている。シバの家では手狭になってしまったからだ。

 中央には大きな机が置かれ、前には大きなボードに『帝国会議』と達筆の文字で書かれた布が全員から見えるように堂々と飾られている。


 上座の中央に座ったシバがにこにこと微笑みながら全員揃ったことを確認すると、隣に座るクレリアを見て頷き、彼女がメイド兼事務長であるポメラに始めるようにと促す。



「それでは、報告します」



人口……コボルト族142名、ゴブリン族66名、ビリケ族3名

戦力……ゴブリン戦士隊30名、コボルト弓隊40名、投石隊は守備のみの予備隊

食料……農場運用開始。経過は順調

生産……織物、木製品、石の鏃加工、革の加工(ビリケ族技術)

政務……モーヴ(産業)

防衛……帝国の住居を広めに拡張予定。防衛線の変更計画必要



「私からは以上です。えっと、続いて農業担当のダックスさんから」



 毛がふさふさで少しだけ固めのポメラが、さらっとした長めの白い毛を持つコボルトに顔を向ける。ダックスは余所から命からがら逃げてきた長毛種のコボルトだ。


 違うのは毛並みくらいで真面目で可愛らしいコボルトらしさは同じ……だけど、毛並みが綺麗でちょっと上品そうに見えるというのが、クレリアの評である。

 ダックスの報告は農場の広さと管理、ゴブリンに対する技術指導。ただ、これ以上広くするなら水がもっと必要になると彼は報告していた。



「続いてモーヴさん」



 モーヴはモフモフ帝国の産業を発展させるために牛頭のビリケ族から派遣されてきた青年(?)でコボルトの手先の器用さを活かす方法を考えている。

 後はビリケ族との折衝にも当たっている。



「とりあえず、うちらの加工技術を覚えてもらおうかと思ってる。この村でも猟はよくやってるみたいだし、まずは無駄を無くすところからやなぁ。後は早めに安全な道を整備して欲しいな」



 身体のぽっちゃりした牛頭のモーヴは身体に似合わない小さな低めの声でそう報告し、慌てない慌てないと全員を笑顔で見回して呟いた。



「次はキジハタさん」

「ああ、そうであった。今回は拙者も報告する」



 ポメラに振られて、ゴブリンのキジハタがこほんと咳払いする。

 慣れない事であるため、少しだけ緊張した面持ちで彼は立ち上がって説明を始めた。



「まず一点、拙者が剣を教えたコボルト達だが、些かただの戦士にするには勿体無い。防衛施設の作り方など、ゴブリンには無い知識もある。上手い活用法を考えて欲しい」

「了解した。私も考えるが案を思いついたら教えて欲しい」



 軍事に関しての総責任者であるクレリアがそう答えるとキジハタは頷き、次の話に移る。クレリアはこういった報告のやり方も最近ではキジハタに考えさせていた。

 ゴブリンとしては賢い彼は彼なりに気づいたことを報告している。



「続いてビリケ族からの頼みである交易路の確保なんだが、まずはビリケ族に書いてもらった地図を見て欲しい」



 そういって、彼は布に『死の森』全体の地図を書いたものを机に広げる。

 全体は九つに分割されていて、中央から見て東にモフモフ帝国の位置を表す木製のコボルト人形をコトッと置く。

 続いてデフォルメされたエルキー人形を中央から見て南と南東に置き、それ以外にオーク人形を置く。そして小型のオーク人形をモフモフ帝国の近くに置いた。



「モーヴ殿と探索に出ているコボルト族の『隠密』ヨーク殿の報告でわかった勢力図だ」



 キジハタがそう説明し、彼の話を聞いているクレリアとモーヴ以外の全員が難しいなぁと首を捻りながら必死に理解しようと頭を乗り出して説明を聞いていた。


 クレリアはそんな光景を微笑ましい視線で見つめながら、珍しく真面目に今後どうするかを一緒に考えていた。

 彼女は元々騎士であって、戦うことには慣れていたが戦争の目的などを考える戦略の知識は、机上の学問しか知らなかったからである。


 キジハタは更に……と、説明を続ける。



「オークの支配が比較的弱い北東部、東部では怪盗ロシアンなる者が、横暴なオークや我らゴブリンに執拗に嫌がらせを仕掛けている……という状況らしい」



 説明を聞いてみんながうんうん唸る中、初めに声を上げたのは皇帝であるシバだった。

 彼は初めは立ち上がって好奇心溢れる目で地図を見ていたが、はっと気付いたように椅子に座った。そんな彼の様子をじっと見ていたクレリアは彼に問いかける。



「シバ様、どうされましたか?」

「うん、僕達の近所にも僕達みたいな力の弱い種族がいるから、大丈夫かなって」



 自分達の住む東地域にある小さなオークの人形を見て、しょんぼりした様子のシバはそう返した。クレリアは説明を求めるように、物知りなコリーに顔を向ける。

 会議の様子を記録していた彼は頷くとゆっくりと渋い声で説明を始めた。



「我々の住む地域はコボルト、ゴブリンの他にも様々な種族が住んでいるのですじゃ。その中にはシバ様のご友人たるブルー様もおられるのですじゃ」

「その友人もコボルト?」



 外見は興味なさそうにクレリアはコリーに顔を向ける。内心、絶対に捕獲……もとい、保護すると心に誓いながら。



「いや、彼等は虎の血を引く獰猛な種族、ケットシー族ですじゃ。ま、彼等は強かな連中じゃし、そう簡単に捕まったりはしないと思うですじゃ」

「ケットシー族は僕らと同じくらいの身長に猫の頭をもった種族なんだ。楽器とかが凄く得意で、ふらっと現れるブルーの笛をみんな本当に楽しみにしてたんだよ」



 コリーの説明をシバが引き継ぐ。クレリアは彼等の話からケットシーの姿を想像した。


 人間の世界では聞かない魔物だ。身長は同じくらい……見られている理由がわからず首をかしげているコリーの頭を猫に置き換える。


 その二足歩行する猫達が楽器を鳴らし笛を吹いており……そんな彼等の近くではシバやわんこ達が笑顔で手を叩いて音楽を楽しんでいる。わんわんにゃーにゃーと。



「何その天国」

「は?」



 思わず呟いてしまったクレリアをキジハタが訝しげに見る。



「いや、何でもない。シバ様、モフモフ帝国の防衛体制は私かキジハタが残れば完璧です。ここはまず東地域の平和を取り戻すのは如何でしょうか」

「そんなこと出来るの?」



 不安そうなシバにクレリアは自信を持って頷く。彼女にも特に確実な自信があったわけではなかったが、どんな困難でも乗り越える気迫だけはあった。

 クレリアに続くようにキジハタも立ち上がる。



「シバ様。拙者も出来ると思う。小さな部族に順番に協力を求めれば帝国の仲間が増える。仲間が増えればシバ様が強くなる……恐らくクレリア殿も。動く時かもしれませぬ」

「みんなはどう?」



 シバが顔をぐるっと見渡すとみんながシバを見て頷いていた。

 彼は頷くとじっとクレリアの顔を見る。彼女は頷いた。



「キジハタは防衛を。私は剣を使えるコボルト達を連れて少数部族を訪ねて回る」

「承知。お気を付けて」



 会議が終わると心配そうなシバをクレリアは抱きしめて、可愛さ成分を補充し、剣を持って新しいもふもふを求めて『死の森』東部の少数部族を廻る旅を始めた。





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