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Le Palais Vide/ル・パレヴィーデ  作者: Y
ビギナー編
8/26

8

 翌日日曜日、本格的にキャラクター強化に乗り出した。朝っぱらゲームをするなんて本当に子供の頃以来であろう。射撃場や剣道場などチュートリアル会場に下見に行って、今後の方針を肌感覚で立てていく。


「よし!」


 最も手ごろに強くなれるのは銃メインの中遠距離タイプだった。当たり前に、銃こそ最強の武器である。意気込んで試射したはいいものの、まったく的に当たらなかった。Danteがバンバンヘッドショットを決めているすごさを改めて思い知る。他ゲームでのノウハウを持っているプレイヤーとは違い、ぼくはほとんどゲームをしてこなかった。こんな調子では銃メインにしても絶対に埋もれるだけだろう。


 刀メインならあるいは、と思った。切り抜き動画の華麗なコンボ攻撃は簡単かつ強力に見える。すぐに心が折れた。あの手のコンボ攻撃は「繋げる」のが難しく、結局は対戦ゲームのコマンド入力のノウハウを持つものがいち早く頭角を現すらしい。ぼくなんか刀に振り回されるだけに終わった。プロほど簡単そうにやってみせる、というのはスポーツでもなんでも同じなのだ。


「くう」


 そうなると、あとは防御重視の鎧使いか、オールラウンダーの杖使いしかない。なんとなく、杖使いを選んだ。使い魔というLPV独自のジャンルなら、みんなスタート地点は同じだから先行者利益はない。それに元は天之常立神目当てで始めたのだ。今でもちゃんと狙っている。ひしひしと現実が見えてきたにせよ。


「そい」


 初期装備『二釻真鍮錫杖』でシャドウハウンドを召喚した。礼儀正しくお座りしている。名前を付けられるらしく、昔の愛犬ココちゃんをもじって『轟』と名付けた。ちょっとかわいい。攻撃力はまあまあだが、九ミリ弾一発で溶けるのはやはり心許なかった。ゆくゆくはもっと強力な使い魔が必須になるだろう。


 一通り、手持ちの武器の肌感は把握できた。初期装備でもやりようによっては通用するようになっている。シャドウハウンドで索敵しつつ、中距離ではVP9で銃撃、近距離戦になったら越後守伊左衛門で辻斬りにする。凄腕プレイヤーだったら、この初期装備でどこまで通用するかという検証でもするだろうか、「初期装備だけでA級いってみたwww」とかすでに投稿されていそうだ。


 そういう腕がない僕みたいな初心者はおとなしく強力な武器獲得のためにクエスト受注しなくてはならない。ここまでは予想通りだった。あらかじめ目星をつけていたCCC級集団クエスト『銀座線ダンジョン』を引き受ける。必要人数の募集を満たして、リーダーのアンドロイドが点呼をとってきた。


「……」


 隣のブースの、公式ランキング戦の窓口を見やる。予想外だったのは、自分の心の弱さだった。予定では、実践がどんな具合か調べるべく負けてもいいからランキング戦に潜るつもりだった。東京駅の受付会場を前に、周りの強そうなプレイヤーを前にして――おじけづかなければ。自分の今の実力が露呈する。それが怖くて、言い訳じみたクエストにかまけた。そういえば、受験なんかも赤本が怖くて、けっこう後回しにしていた。


 アンドロイドに従い、東京駅改札口から鳥居をくぐると、駅前ロータリーが待っていた。プレイヤーの行き来に伴って、アンドロイドがインフラ整備に派兵されるらしく、一か月前より整備されている。初心者用のバスターミナル、中級者用のレンタルショップ、上級者はパーキングエリアに自家用車を預けていた。バス以外はすべて有料である。仕方なしにバスの列に並ぶ。いやがおうにも実力差を見せつけられているようで悔しかった。現実ではポルシェだのランボルギーニだの見たところで何も感じないのに不思議なものだ。かくいうぼくも、DanteがV‐STROMに乗りながら放歌的に雑談している姿には憧れていたりする。バスの外を眺めながら、いつか、シュワルツェネッガー主演『ターミネーター2』のハーレーダビッドソンに乗れたらいいな~なんて妄想した。


「……」


 見立てでは、初期は杖メインの中近距離型のプレイヤーを目指したい。従えるは、シャドウハウンド三匹、シャドウベア一匹。最初はシャドウハウンドで索敵しながら、中距離まで間合いを詰め、最後はシャドウベアで討ち取る。汎用使い魔のシャドウベア召喚の杖は千代田サーバーのショップなら十万円であるが、秋葉原なら八万円なので、当面は資金を稼ぎつつ台東サーバーへの移動準備をしよう――こうやって勝手な胸算用している時ほど楽しいことはない。


 中央区は軍都という設定らしく対空砲が揃って港に向いていた。特に目を引いたのが用途不明の円盤型の建築物群である。その巨大さたるや、ビルの高さを二回り以上は上回った。田舎の電波望遠鏡のようだが、なぜあんな設備が銀座のど真ん中にあるのだろう。


「……」


 栄えた街のはずが閑古鳥が鳴いている。なんというか、さびしかった。特に銀座線ダンジョンはモンスター、すなわち野良シャドーが沸いている。アンドロイドの照明灯を頼りに、改札口を飛び越える。自動開閉ドアをこじ開けて線路に降りた。


 手あたり次第モンスターを狩れ、とのお達しである。アンドロイドは全て簡単なジェスチャー以外には意思疎通機能はないため、さながら建築会社の現場監督のごとく見守っている。たどたどしく応戦しながら問題なくクリアできた。ちょっとしたハプニングがあったとしたら、初心者狩りのプレイヤーに襲撃されたことくらいだ。パーティメンバーの誰かが応戦しながら楽しげにぼやいた。


「陰キャなことしてんじゃねえぞ!」


 まったくもって、僕も同意だった。初心者なんて略奪できる物資もないのに、これではいじめ目的ではないか。この手のゲームでは醍醐味とはいえ、いざ自分が標的にされるとびっくりする。


 すかさず動いたのが、リーダーのアンドロイドだった。鎮圧用の日本刀を抜刀、不届きな初心者狩りに袈裟斬りを浴びせる。強い。公式クエストの受注者たるプレイヤーはアンドロイドにとって部下であると同時に保護対象なのだ。場慣れしているのだろう、返り討ちにした側がここぞとばかり襲撃者をサブマシンガンで滅多打ちにする。


「ばーか!」


 死体撃ちは本来マナー違反だが、今回は自業自得であろう。おもしろい。ぼくもVP9で悪乗りしつつ、こっそり手榴弾なんかを強奪した。丸裸の襲撃者が影に溶けて消える。いまごろは拠点にリスポーンされているだろうか。ぼくたちも新日本橋駅に仮拠点を設置した後、東京駅前まで強制シャドウダイブして、報酬一万円を受け取った。この調子なら今日中にはシャドウベアは手に入れられるだろう、そうやって数回クエストをこなしたころには夕方になっていた。朝から晩までゲーム三昧なんて子供の夢ではないか。


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