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Le Palais Vide/ル・パレヴィーデ  作者: Y
リスナー編
5/28

《ダウンロード数百万突破ありがとうございます!》


 サービス開始後一ケ月経ったころ、エックスのLPV公式アカウントが感謝のツイートをしていた。最大手のゲームタイトルが千万や二千万の世界だと思えば、決してトップ層ではないものの、ハードの金額が金額なだけに、この購入数はまとめサイトに大きく取り上げられる。意外と金持ちって多いんだなー、と思った。プレイしないくせに、僕もスキマ時間を見つけては、まとめサイトでLPV世界の動向や非公式ウィキの環境トップ構成なんかを眺めている。


 最近はLPV専用まとめサイトをよく見ていた。これだけのビッグタイトルになれば、専用サイトまで出てくる。スーパープレイ集だったり、レアイベントだったり。今日の記事欄をスクロールしていると、ひとつだけコメント数がすでに千二百に達していた。平均コメント数が三桁なので異様な数字である。タイトルは『地雷系美少女(26)さん、LPV配信中にショック死』だった。


 タップしてみたところ、その女性プレイヤーは三日前『「LPV」どのビルから飛び降りたら一番きもちぃ?♥』という、タイトルからして雲行きが怪しい配信をしていたらしい。ショート動画が添付されている。地雷系の美少女がわざわざ現実のビル名を酒焼けの猫なで声で宣言した後、その身を夜風に委ねるのだった。二五〇〇人の視聴者が見ている。視聴者としても没入型のゲームにおいて高所から落下したらどんな感覚なのかは気になるし、それがゲームだと知らない人からすれば、現実と見分けがつかないグラフィックのおかげで美少女が本当に飛び降りようとしていると釣られるかもしれない。そういう意味では、うまいタイトルだろう。ことがうまくいかなったのは、そこからだった。


 飛び降り直後、その配信者が過呼吸の症状を見せて悶えた後、強制ログアウトされる。視聴者が心配して運営やら警察に通報したところ、その女性プレイヤー、坂巻るな(26)が西新宿区の自宅で死亡しているのが確認されたそうだ。


 死因はショック死とのこと。5chのスレッドには「気持ち良すぎて昇天したか」とか心無いコメントのほか、その配信者の生前のSNSが早速さらされていた。どうやら担当ホストのバースデーで高額を打つために風俗嬢をやっていたらしく、配信直前まで三八連勤していたそうだ。


「あらら」


 ゲームによるショック死はネットの話題をさらう。そこに歌舞伎町トピックが加われば格好の味付けであろう、大手メディアがこぞって報じた。「大人気ゲームでショック死」に端を発する報道は脳に直接信号を送るゲームハードに対して疑惑の目を向ける。Danteも「ゲームというか、過労死だと思うけどねえ」としながら「こええ」と真に受けていた。


 さらに不安をあおったのは、Xcoreの大本のハードウェアたるMind Up Display System、通称MUDSにおいては、実際に訓練中にショック死したという事例が複数報告されていることだ。そもそも操縦シミュレーション目的のMUDSの本来の性能ならば、脳に死を錯覚させることは元より、人間の思考能力を最大一万倍に加速することで学習速度を飛躍的にあげることができる。これは一万日の訓練を一日に短縮できるという意味だ。たった一日でスーパーソルジャーを育成できることこそ、MUDSの真価なのである。


 米軍は思考加速機能に副作用の報告はないとしているが、嘘であれ本当であれ、大本のハードウェアがこれだけ危険なことは不安の補強には充分すぎた。飛び降りなんて、ほかにも何千何万ものプレイヤーがバンジージャンプ感覚でやっている。死者が出たのはこの一例だけにもかかわらず、LPV運営会社エクリチュールは対応せざるを得なかった。


 それが連続プレイ時間の制限設定である。連続六時間以上プレイすると強制ログアウトがかかる仕様になったのだ。百万ダウンロードを感謝していた固定ツイートが、一週間待たず、事件の訃報や仕様の変更のそれに埋もれたのは少し不憫だった。


 悪い話題が追い打ちのように続いた。いつものようにLPVまとめサイトにアクセスしたところ、またコメント数が四桁になっている記事が目に入ってきた。今度のタイトルは『上野ダンジョンの新武器、運営に剥奪されるwwww』だった。すぐに記事を確認してみると、とあるプレイヤーが上野ダンジョンで発見した『六十四釻黄金大錫杖』なるレア武器がアンドロイドに奪われたらしい。すでに簡単な経緯がまとめられれていた。


 ①プレイヤー頼明、上野ダンジョンで『六十四釻黄金大錫杖』を発見

 ②千代田サーバー帰還、いきなりNPCが錫杖を奪おうと暴走・交戦

 ③頼明キル、アイテム全ロス、錫杖は行方不明

 ④運営は無反応 ←いまここ


 これを見る限り、なかなか理不尽な対応といっていい。アイテムは発見者が獲得する。発見者・頼明はアンドロイド相手に権利を訴えたそうだが、アンドロイドはNPCに過ぎず、意思疎通能力はない。


 やむを得ず、交戦した。だがアンドロイドはプレイヤーでは入手困難な強力武装で身を固めているため、たとえ相手が一体であろうとも、絶対に勝てっこない。多くのプレイヤーが千代田サーバーにメイン拠点を構えているのは、強力なアンドロイドの存在のおかげで、プレイヤー所有のアイテムを根こそぎ略奪できる拠点攻めが起きにくいからである。それがアンドロイドが攻撃してくるようでは意味がないではないか。ゲーム内で訴えても埒が明かないと見た頼明は怒りのはけ口を探すように今度はエックスで場外乱闘の挙に出たのである。


 バグか? 規約違反か? 公式が沈黙しているのでは憶測しか立てられない。この件が必要以上に注目されているのは、頼明の騒ぎよう以外に『六十四釻黄金大錫杖』なる新武器のレアリティが前代未聞だったからだろう。アイテムのレアリティはシークレットが上限だったはずなのにアルティメット・レアときた。黄金の錫杖頭に、六十四個もの輪、なんと全長は二メートル近く……なんとなく西洋で言うところの医療のモチーフ『カドケウスの杖』に似ている。


 ついには名の知れた配信者まで運営の対応に苦言を呈するに至ったころ、十二月十七日午後七時突如、LPV内の夜空全域が赤く染まりあがった。その赤は夕暮れではない。朝焼けでもない。そこが確かにゲーム内だと示す人工的な色彩であった。次の瞬間、全プレイヤーが千代田サーバーに強制シャドウダイブされる。対戦中のプレイヤーも巻き込んだ徹底ぶりであった。


『汝、有衆に示す』


 それだけ男性の声が街中の拡声器ごしに反響すると、全プレイヤー宛に『開戦之詔』なる招待状がホップアップされてきた。ちょうどDanteもプレイしている。金曜日だったため、ぼくもゆったり視聴していると、どうも公式大会が開かれる旨らしかった。


『え、え、え? なにこれバグ?』


 あたふたしながらメッセージに目を通したところ、来年の、一月十五日日曜日十三時に開催されるとのことだった。目を引いたのは、優勝景品として例の『六十四釻黄金大錫杖』が賭けられることだ。その詳細なスペックが提示される。いわく、使い魔『天之常立神』召喚のための杖らしい。ほかのプレイヤーが「テンノ、ジョウチュウ? 聞いたことある?」だとか噂する中、いきなり千代田サーバー上空に真っ白な龍が顕現してきた。丸の内の高層ビルに比する程の壮麗な威容……白い龍は赤い空を背後に大地全てを見下ろすと、胸いっぱいに息を吸って、高らかに雄叫びをあげた。


『雅亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜ッ!』


 よっぽどの大音声だったらしく、プレイヤーはみんな耳をふさいで「うっさ!」と喚いた。窓ガラスが震える。おそらく天之常立神であろう、シャドウハウンドやシャドウベアなど比較にならぬ最強格の使い魔だと誰もが一目に了解した。うつくしい。その後エックスで改めて大会開催の告知がリポストされると、画像の一枚に天之常立神の全身像が添えられていた。翌朝起きて改めて、そのリポストを見てみても、何ら昨日と変わらぬ画像が張られている。


次→1/2 21:00

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