表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Le Palais Vide/ル・パレヴィーデ  作者: Y
リスナー編
4/27

 煙をふかしながら、メニューバーの残り人数を確認していたりしたところ、何者かが猛スピードで階段を上がってくる。さっきのシャドウハウンドが帰ってきたのだ。


『餓亜ッ!』


 敵がいたであろう方角めがけてひと吠えする。戻りの時間からして向かいのビルらしい。ショットガンとサブマシンガンの銃撃戦を聞かれただろうからすでにDanteの位置も絞り込まれている。戦い慣れしていれば、ごく短い銃声だったのを参考にして、突発的な遭遇戦だったこと、勝者側も手傷を追って一休みしていることまで読んでいるに違いない。放っておいても、血の匂いをかぎ分けてやってくる。


 損傷具合がとりわけひどいフロアまで下りたところ、空爆で空いたらしきビル壁に手製の橋――鉄パイプなんかで雑に補強された足場板が掛けられていた。エリア移動には絶対にここを渡らなければならない。これまで特に板をわたる金属音はしなかったのを踏まえるに、この先に敵がいるのは疑う余地もなかった。さきに狙撃ポジションを確保するべく渡りたいところ、それを見越して待ち伏せている可能性が高かった。


『こええ』


 秋葉原エリアの特色のひとつが、ビルからビルに渡るための橋を賭けた陣地戦が生じやすいことだ。こういう状況をサバイバルゲーム『PUBG』では「検問」などと言い慣わすが、まさしく検問であった。場数を踏んできたDanteをして、この橋を前に二の足を踏んでいる。きわどい角度から曇天を見上げたら、遠方から光のヴェールが迫ってきていた。


『まずい』


 戦闘用フィールド、シャドウワールドは時間経過とともにエリア縮小される。『PUBG』や『Apex Legends』などサバイバルゲームではお馴染みの、勝敗の高速化を促すシステムである。ヴェールと呼ぶ。このヴェールに触れると慢性的にダメージを負うため、なるべく早期に退避しなければならない。どうやらDanteの背後からヴェールが迫っているらしく、どのみち橋は渡らなければならない。そこをカモ撃ちされる未来しか見えない。というより、一〇〇%いる。後手に回った不利な状況を前にして、さしものDanteもアタッシュケースのスモークを炊いた。


 視界を遮る白煙が瞬時に拡散する。もしも敵が検問していなかったら、いまからここを通りますよ、と衆目に晒すも同然であるが、Danteは「場所が露呈した」という前提で動いているから構わないのである。スモークが充分に拡散したころ、満を持して越境したまさにそのとき『呉亜亜亜亜ッ!』と獣の雄たけびが聞こえてきた。シャドウベアが襲来する。自らのスモークで視界不良になったせいで、Danteは状況把握に一手遅れていた。仕切り直すために岸に戻ろうとしてMP5で牽制したまではよかったものの、それが攻撃・防御とも優れたシャドウベアとあっては九ミリパラベラム弾では火力が足りない。すぐにM16に切り替えたのは歴戦のゲーマーの直感だろうか、九ミリ弾の数倍の威力一二五〇フットポンドの五・五六ミリNATO弾であれば、LPVに存在するであろう理論上最強のレベルⅣクラスのアーマー以外には完全な防御はできない。


『虞亜ッ!』


 さしものシャドウベアも堪らず、数発の射撃で影に溶けた。その陰に、稲妻の速度で肉薄してくる影がいる。なんと敵だった。その右手にはすでに抜刀済みの日本刀が構えられている。一部弾丸がコート越しにダメージを負わせたものの致命傷には至らずーー逆に敵の刃先はDanteに一閃を浴びせた。対銃弾を想定したケプラー繊維は対刃性は低いため、あえなくキルされる。


『どわー!』


 他ゲームでは凄腕プレイヤーといっても、やられるときはあっけなくやられる。キル後の真っ赤な画面越しに勝者の様子を見ていると、さっきDanteがそうだったように、物資漁りにふけっていた。わざわざうつ伏せになって漁るだけ漁ると、これも同じく、Danteのマルボロに火をつける。キル状態のDanteに副流煙を吹きかけるさまは露骨に煽ってきている。


『てめえええええ!』


 視聴者用に大袈裟な字幕がテロップされるが、勿論キル後のDanteの怒声は敵には聞こえていない。開始地点の秋葉原駅前にリスポーンされる。あとは次の試合まで待つしかない。それまで自由時間であるが、解除されたチャット欄を見つつ、みっともなく言い訳を並べ立てていた。


『どうしようもないっていまのは~』


 ぽりぽりと頭部を搔いている。日本刀なんてショットガンの完全下位互換なのに見事に魅せプレイされたのが癪に障るに違いない。チャット欄では、同情的なコメントのほかに、相手への誹謗中傷が目についた。「Danteってわかってたな」と決めつけている者もいれば、もっと直接的に「何やられてんだよw」とチクッと刺す者もいる。近しいことをDanteもやったわけだから非難する謂れはない。


 だが、そこを見ずにDanteがやられるシーンから見に来た者もいるだろう。好きな配信者が煽られるのに全く耐性がない者もいるし、あの煽りを有名配信者を利用した売名行為と解釈する者もいる。なんだか荒れていた。そこに拍車をかけたのが、その敵プレイヤーの容姿が明らかに十代中頃の子供だったことだ。ようは「子供なのに喫煙ってどうなの?」という揚げ足取りに近い中傷である。


 LPVをはじめ、Xcore内のゲームにおける犯罪行為に違法性はない。それを言ったら、プレイヤーをキルして殺人罪に問われるだろう。だが、従来のゲームと異なり、五感を使うゲーム性のため、タバコを吸えば現実と同じ爽快感があるし、お酒を飲めば酩酊状態になる。道徳性の是非についてはハードが革新すぎるあまり法整備が追いついておらず、無法地帯というのが現状だった。それ以上に「子供のくせにずるい」的な僻みが絶対に絡んでいる。キャラデザできるので必ずしも子供とは限らないにせよ、有名配信者相手にあんな振る舞いをするのは本当に子供のようである。小金持ちの子供なら、きっと百万くらい出してもらえる。


 動画勢の反応が気になった。コメント欄までスクロールしてみたところ、「キッズがプレイすんな」とか「今度のためにもここは徹底的に叩け」とか、投稿三時間にしては荒れていた。予想以上の熱量で怒っている。Danteが怒って見せたのはあくまでエンターテインメントとして盛り上がるからだったのに、多様な視聴者はDanteのためという錦の御旗のもと憤慨していた。


 その大会は優勝できずに終わった。どんな小規模大会であれ、優勝は難しい、ということだ。あ~俺のハニーバジャ~、と泣き言を漏らす。後日、プチ炎上した未成年喫煙疑惑について切り抜き動画を見たところ「ああいうのもエンターテインメントとして見ろよ」とさりげなく相手を擁護していた。理解ある視聴者は「おめえも吸ってたもんな」とDante自身の過去の未成年時喫煙疑惑に触れつつ矛先を逸らす。Danteはアイコスを口にしつつ「うるせえなタバコなんて吸ったことねえよ」と朦々と煙を吐き出した。おもしろい。ゲームスキル以外にも、こういう火種をうまく消せるトークスキルもまた、Danteの魅力だと思う。


次→1/2 15:00

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ