表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Le Palais Vide/ル・パレヴィーデ  作者: Y
監獄編
26/26

26

「くっそ! 第四フェイズに進めない……」


 監獄の主導権を奪うためにはプレイヤーの物資を回収しなければならない。アンドロイドのドロップアイテムだけでは、辛うじて戦線維持ができてもアンドロイド全てを制圧するには決め手に欠けた。そのための(4)地下の特殊個体を撃破(5)一軍物資回収で全プレイヤーの武装強化なのに、その特殊個体がまるで底なし流砂のような無尽蔵の強力武装なのだ。圧倒的な力を前に、僕達精鋭部隊は疲弊していった。


 そんな状況で一番怖いのが特殊個体以外だとしたら意外だろうか?


 ぼくたちA帯が最も恐れているのは、長丁場になるほど囚人側が飽きてくることだ。黒魅めあが指摘したように参加者全員がぼくたちA帯のようにモチベーションが高いわけではない。というより、本選進出を急ぐA帯以外のプレイヤーは早く脱獄しなければならない理由などないのだから、BAN解除されるまで数日待っていればいいのだ。かれらが計画に加担してくれているのは、最大手配信者の東承太郎が脱獄を企画したからに過ぎない。だから、つまらなければ辞めていく。一番人手が欲しいこの段階で刺激が少ない膠着状態に陥ってしまった。やがて均衡が最悪の形で崩れていく。


「くそ! 押し込まれる――」


 案の定、戦力不足のせいでエントランスを制圧された。これではリスポーンされても防空壕に行くことができない。東承太郎の「助けてくれえええええ!」という悲鳴がこだましてきた。このままでは手遅れになる。そこで僕達A帯はやむを得ず、あえて特殊個体の攻撃を受けると戦線維持班に加わった。


「だれか二〇式小銃(にいまる)五・五六ミリ弾(556)くださいっ!」


 だれかー! と呼びかけても、貸してくれる者はいない。なんということか、もう弾がないのだ。仕方なしに日本刀を手にして突撃を図ったが、アンドロイドの制圧射撃の前に近づく間もなくキルされる。


「詰んでるわ、これ」


 旗色が悪くなってくると参加者が減っていく。参加者が減れば、ますます戦況が悪くなっていく。負の連鎖が止まらない。ぼくたちA帯プレイヤーも十五分以上防空壕に戻れずにいた。もはやこれまでという窮地に立たされたとき、救いの神がやってきた。いや、それは神というより、王だった。


『東さ~ん! 助けに来たぞ~』


 なんとフリードリヒ大王が監獄外から援軍に駆けつけたのだ。あまりのベストタイミングにチャット欄が大盛り上がりしている。


「きたあああああああ」「ナイスすぎるwwwww」「大王最強!大王最強!」「早くうううううううう」「勇猛の民なるを示せえええええええ」


 のちに配信を見たところ、総勢二百人の視聴者が秋葉原エリアのボートを運搬したのである。囚人側の援軍に一番過敏に反応したのが、監獄側だった。監獄の防衛システムが作動、断崖絶壁の要害から近接防御火器(CIWS)が無数に現れる。毎分三千発の怒涛の連射にフリードリヒ大王軍が薙ぎ払われた。しかしボートは五〇隻近く迫ってきている。後ろ備えが次々にやってくる。どうやら沿岸にレイド拠点を立てたらしく、ボートの備蓄が許す限りゾンビ戦法ができるようだ。もっとも、秋葉原エリアから葛飾サーバーまで距離がある分、小型ボートしか運搬できなかったのが襲撃者の攻撃力を半端に留めていた。


「充分だ!」


 襲撃者の迎撃に人員を割かれたおかげでアンドロイドの攻めが手薄になっていた。主導権を取り戻すとしたら、ここしかない。ぼくたち囚人はキルされるのを覚悟してアンドロイドに総攻撃を仕掛けた。


「殺せ、殺せ、殺せ!」


 ぼくも、A帯プレイヤーも、東承太郎も、ほかの参加者も、気が狂ったように反撃した。すでに事切れたアンドロイド相手に死体撃ちする。鋼の首級を猟奇的に捌いた。


「殺せ、殺せ、殺せ!」「殺せ、殺せ、殺せ!」「殺せ、殺せ、殺せ!」「殺せ、殺せ、殺せ!」「殺せ、殺せ、殺せ!」「殺せ、殺せ、殺せ!」「殺せ、殺せ、殺せ!」


 その狂熱ぶりに、いちどは去ったプレイヤーが面白半分に戻ってくる。そのおかげでエントランスの防衛陣地を奪還することができた。


「ここは任せろ! 行ってくれ、A帯のみんなぁ!」


 東承太郎が繋いだルート奪還に応じて、ぼくたちA帯プレイヤーはふたたび防空壕に向かった。じつは勝算がある。長い戦闘の中で、ぼくたちは特殊個体の機動のクセをふたつ見抜いていたからだ。


 ひとつが、プレイヤーがブローニングの射線から外れると、位置調整のために脚部のローラーを駆使してくること――重量に比して極端な加速のせいで慣性を殺しきれず、ほとんど体当たりのように壁に激突しながら急停止する。ようは小回りが利かないのだ。そうしてバランスを崩した時が反撃の好機になる。


 もうひとつが、残弾が尽きてバックマガジンの交換をする時に、肘のウェポンベイから電撃槌を露出させること――それを地面に穿つと近距離の敵全員をスタンさせられる。強力な分、隙が大きい。本来は強力武装に身を固めた収監者相手にマガジン交換時の繋ぎの防衛手段として機能させる想定なのだろうが、ぼくたちのようなゾンビ戦法を後ろ盾に防御力をあえて捨てた軽装とは相性が悪かった。電撃槌が出た途端、近くの物資パレットに乗り上げることで感電を免れる。


「あぶねえあぶねえ」


 いままた、特殊個体の攻撃を躱した。その片手間に視界脇のチャット欄を覗いたら、東承太郎が物資不足で劣勢に立たされているという。


「いそげえええええええ」「承テンパりまくってるwwwww」「だめっぽい」「あああああああああ」「何とかしてくれええええ」「A帯でも倒せんか」「たのむうううううううううううううう」


 チャット欄を見るに、ゾンビ戦法できる試行回数は残り少ないだろう。時間がない。焦りがミスを生み、ミスが焦りを生む。大量のアドレナリンのせいで日本刀を握る手が震えていた。深呼吸しようとしたが、特殊個体相手ではその一息すらままならず、凶悪タックルが襲ってきた。その躱しざまに一突き浴びせる。精鋭部隊の度重なる猛追に、とうとう特殊個体が膝をついた。弱っている。ついに見せた体力の底に僕達は活気づけられた。


「勝てる!」


 三人がかりの一気呵成に対し、特殊個体はまたもや煙幕を展張してきた。絶好の攻撃機会を逃げられる。それだけならまだしも、ゲート横の物資補給口からカールグスタフ無反動砲と思しき対戦車砲を引っ張り出してきた。即座に発射、防空壕が倒壊するかと思うほど強烈な爆発が炸裂する。だが派手な攻撃への転換はBMG弾が底をつきた証拠に他ならない。過剰な破壊力は再装填に時間がかかる。状況に沿わぬ長物に頼らないといけないほど物資が枯渇しているのだ。追い詰められているのは特殊個体とて一緒なのだろう、あと少しで形勢が動くという時、部隊のひとりから衝撃的な報告が入ってきた。 


「東さん落ちたっぽい!」


 ええなんで! と自分のチャット欄を見たところ、「悲報、東承太郎軍玉砕」「承やられたwwww」「\(^o^)/オワタ」「終了!!解散!!」「脱獄みたかった~」「やっちまったああああああああ」「あああああああ」というコメントがばっと殺到していた。おそらく事実であろう。配信を確認しに行くほどの余裕はないが、チャット欄の熱量からして冗談ではあるまい。のちに見返したところ、フリードリヒ大王軍の襲撃が落ち着き、これからドロップアイテムで囚人の武装を補強しようという無防備な間隙を突かれていたのだ。


「神よ!」


 もう死に戻りはできない。そんな重圧のせいか、三人のうちひとりが榴弾の爆風に煽られた。見たところ、足を負傷している。道具もなければ余裕もなく、キルされるのを見殺しにせざるを得なかった。残るは、ふたり。ここを突破しないことには物資の回収ができないのに、その未来がまるで見えない。もはや体力以前に気力がめげそうになったこのタイミングで排水路から第四のプレイヤーが現れたとしたら、いったいどんな白馬の王子であろうか。いや、その王子は黒かった。捨て置かれた日本刀を手に、雷撃の速度で特殊個体の背中を袈裟斬りにした王子の名は――黒魅めあに他ならない。


「すみません! 遅れましたっ」


 うひょー! と変な声が出た僕を誰が責められよう? もともと好きだった黒魅めあのことを本気で好きになった。体力・気力ともに充分な黒魅めあは明らかに有段者の剣捌きで特殊個体を追い詰める。すでに満身創痍のぼくたち二人はめあ君の一振りに全てを託した。


「行け! ここで決めろっ」


 いままた物資を補充されたら、どう転ぶかわからない。だから、ここで決めなければならない。「いっけええええええええ」「決めろおおおおおおおおお」「アニメかよwwwww」「あっつwwwwww」「押し込めええええええええええ」全囚人の期待を一身に背負っためあ君は特殊個体に反撃を許さぬ怒涛の連撃で攻め立てる。すでにM2ブローニングもなく、頼りの近接武器といえば電撃槌だけだった特殊個体はついにその命を火花と共に散らせた。


「勝ったああああああああああ」「うめえええええええええ」「(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア」「まだ終わってないぞ」「映★画★化★決★定」「A帯ってすげえ」「いそげえええええええええええええ」


 なんというタイミングであろうか、この絶体絶命の窮地に駆けつけるとは! のちに知った話では、コンカフェ営業中、トイレ休憩の合間を縫っては囚人側の苦境を見ていたらしい。深夜一時に営業が終わるやいなや飛んできてくれたというではないか。


「いまは時間がないです!」


 武器庫! 武器庫! と率先してくれる。特殊個体ドロップのカールグスタフを駆使してゲートを破壊したいところ撃ち方がわからずにいたら、親切な視聴者がレクチャー動画のリンクを張ってくれた。三人たどたどしく操作していたら、やっと一発目を発射・穿孔できたのである。それを二発・三発と続けるうちに、ゲートが派手な爆風とともに吹き飛んだ。


「おほ~!」


 もはや門番不在の武器庫に雪崩れ込む。チーターの透視通り、ちゃんとプレイヤーの装備一式が保管されていた。それだけではない。カールグスタフをはじめ、二〇式小銃や備前三郎国宗レプリカなど最高水準の武器が取り揃えられていたのだ。


「なんてこった、宝の山じゃないか!」


 みんな秘境の財宝を見つけたトレジャーハンターのように目を輝かせた。


「勝った!!」「あちいいいいい」「(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア」」「(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア」」「(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア(ヽ´ω`)☆彡メア」「マジいけるぞ」「まだ油断するな!!」


 これで物量面では完全に形勢逆転した。あとは武器を扱う人手と組み合わせることさえできれば勝利できる。(4)地下の特殊個体を撃破クリアに伴い、(5)一軍物資回収で全プレイヤーの武装強化に移った。ぼくたち三人は物資を持てるだけ持つと、ゲート破壊時と同じようにカールグスタフによって防空壕の正門を木っ端微塵にする。長い坑道が続いた。これで監獄外にしか繋がっていなかったら地味に詰んでいるのにいまさら気づく。立案当初は見えなかった計画の穴であるが、そのことを黒魅めあに言ったところ、


「そのときは運営にクレーム入れましょう」


 そう冗談めかしてきた。そんな戯言を真に受けるほど運営は暇ではあるまい。ふっと笑った。まぁそのときはそのときか、と肝を据えたとき、ようやく出口が見えてくる。同じくカールグスタフで穿孔したところ、現代様式の地下室に出てきた。


「ここは……」


 だれもいない。耳を済ましても近くに気配はなかった。警報ベルが遠く鳴っている。部隊のひとりが階段近くの古い表札を見たところ、


「あ! ここに繋がってたんだ!」


 なんと収容棟Aの地下一階に出ていた。蓋を開けてみれば、拍子抜けするようなからくりだったのだ。これが正規ルートだと知っていれば、わざわざ狙撃される危険を冒してまで遠回りせずに済んだものを。一般房に急いだ。時に鉄檻を、時にアンドロイドを消し飛ばす。さしものアンドロイドもカールグスタフの前には紙吹雪のように舞い散った。アンドロイドの束を薙ぎ払いながら派手に凱旋したぼくたちを囚人が歓呼と共に出迎えたのは言うまでもない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その歓迎ぶりときたら、まるで世界大戦にでも勝ったのではないかと疑う程だった。東承太郎など呵々大笑している。景気づけのカールグスタフをお見舞いした。囚人は鉄檻もろとも爆散したが、すぐに同じ場所にシャドウダイブしてくる。解き放たれた囚人どもは、あるものはアンドロイドドロップの突撃銃を、あるものは日本刀を、またあるものは武器庫の装備を手にして運動場に向かった。すでに満身創痍のアンドロイドでは太刀打ちなどできず、運動場は容易く囚人の魔の手に落ちる。残党アンドロイドが一網打尽に爆殺されていった。


 (6)人海戦術で再度襲撃、アンドロイド二次制圧

 (7)監獄掌握、対戦車ミサイル強奪

 (8)超火力によって正面突破


 これら工程を纏めて完了する。


「よし! 最後の仕上げだっ」


 その勢いのまま、今度は監獄の正面門めがけてカールグスタフをぶっ放す。正面門は充分に堅牢な造りだったものの、度重なる成形炸薬弾の前になすすべなどなかった。ついに不落の門が狂宴の地に下る。監獄を完全に制圧した暴徒どもはフリードリヒ大王軍のボートを招くべく近接防御火器(CIWS)を襲った。無人でも高度なAIが敵軍を自動で補足できるが、監獄内を制圧されては脇ががら空きだった。


「死ねえ!」


 東承太郎が憂さ晴らしのように砲撃する。外部の襲撃者の殲滅を想定した近接防御火器(CIWS)は射角がまるでたらないで好き放題に撃たれた。至る所に火の手が上がる。かくして権威の象徴「監獄」は囚人の慰み物として陥落した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ