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ビー、という開閉音と共に鉄檻が開く。二三時だ。みんな戦闘時に雑居房の檻が閉じられないようにベッドを少しだけ入り口に差し込んだ。同じ工作を運動場までの通路にも密かに施す。これで運動場までのルートを閉鎖されることはアンドロイドの操作を除けばなくなった。
全ての条件は整った。あとは東承太郎が合図を出すだけで計画が動く。大勢の参加者を引き連れて運動場に向かう覇気ときたら、ギャング映画の抗争シーンの開幕を思わせた。
「よし! いくぞ、いくぞおらっ」
その傍らには、火付け役の精鋭部隊が十五人も歩いていた。ぼくたちA帯プレイヤーも武装強化までは同行することになっている。緊張が走った。ぼくたち火付け役は煙草を一服してから、第一目標のアンドロイドに狙いを定める。アンロイドが殺気に感づいた。ストップのジェスチャーと共に二〇式小銃を構えてきたのを皮切りにして、東承太郎が悪鬼さながらに襲いかかる。
「作戦開始ィィィィィ!」
リーダーの一番槍に全員が雄叫びを上げる。一斉にアンドロイドめがけて奇襲を仕掛けた。警報が鳴る。その頃には東承太郎をはじめ精鋭部隊はあっけなくキルされていたが、作戦の醍醐味はここからだ。雑居房にリスポーンしたプレイヤーはすぐに運動場に駆け出した。
「急げ、急げ、急げ!」
ぼくたち第一波が戻った頃には運動場は大乱闘の混乱ぶりを呈していた。アンドロイドが四方めがけて発砲する。プレイヤーがベンチや灰皿缶、なんと枕まで使って逆襲する。その惨状を前に東承太郎をして「めちゃくちゃwww」と笑っていた。
かくして悪徳の宴が始まった。
アンドロイドは最初こそ二〇式小銃を軸に優勢を保っていたが、あっという間に弾倉が尽きると苦境に陥った。当然だろう、プレイヤーはすぐに戦線復帰できるのに対し、アンドロイドはいちど破壊されれば蘇らないのだから。ついにはセカンダリーのシークレットレア刀、備前三郎国宗レプリカを抜いてきた。現実だと国宝の工芸品をアンドロイド全員が標準装備している。ぼくたち囚人の山を薙ぎ払う戦鬼っぷりは戦闘ゲーム『三国無双』の最強キャラ呂布に引けを取らない。
しかし倒しても倒しても無限に湧いてくるプレイヤーが集中攻撃してきては多勢に無勢だった。ついにアンドロイドの一体がその鉄の命脈を狂乱の牙によって絶たれる。その首級が煌々たる夜空に掲げられた。厄介なシークレットレア武器が貴重な戦力に早変わりする。武器はプレイヤーがキルされるたびに別のプレイヤーにわたり、そのたびに囚人の攻撃力を底上げした。
「いいぞ! 第二、第三フェーズに移行だっ」
すでに充分な装備を収奪したという判断からだろう、東承太郎指揮のもと、作戦が(2)ドロップアイテムでA帯プレイヤーの武装強化(3)旧牢舎跡までのルート維持に移った。
「Fさん! 頼みましたっ」
見ず知らずのプレイヤーに二〇式小銃と備前三郎国宗レプリカを渡される。弾薬はない。できれば充分な武装が欲しかったが、それより戦線維持分の武装に回さなければゾンビ戦法の継続ができなくなる。それは作戦の崩壊に等しい。黒魅めあ以外のA帯プレイヤーが昨晩と同じルートで旧牢舎跡に向かった。監視塔の狙撃手に狙われる。囚人側も負けじとカウンター・スナイプを仕掛けた。その狙撃戦の隙に、まんまと旧牢舎跡に侵入していく。僕を先頭にして昇降路から防空壕に向かった。
「ぜったい正規ルートじゃねえよ」
A帯のひとりが軽口を叩いた。全くそうだ。このルートは透過チートによって偶然見つけられたに過ぎない。本来は拘置所の図面を手がかりにすべきであろうところを例によって東承太郎の存在が大幅スキップさせたのだ。目的の排水路までつくと、僕以外の二人が息を呑んだ。
「あれが……」
特殊個体がいる。二人は初見なのだ。開始早々機銃掃射されないように三手に分かれるように擦り合わせる。めあ君がいれば万全だったが、接客業の土日は忙しい。仕事が終わり次第すぐに駆けつける、というのを充てにしている者はここにはいない。東承太郎がシークレットレアの日本刀を準備してくれただけで充分だと思わなければならない。
「ふ~……」
最後に一呼吸いれたあと、満を持して地下壕に飛び降りた。その途端、赤黒いアンドロイドの目に怪しい光がともる。だがしかし、目を光らせたのは僕達精鋭部隊も同じだった。
「戦闘開始!」
その号令を合図にして作戦が動いた。それと同時に特殊個体のM2ブローニングが毎分五百発もの殺意の連射速度を剥き出しにする。ぼくたち精鋭部隊は支柱や物資を盾にして攻撃を躱した。特殊個体が姿を見失った隙に、作戦通り三方面から息を合わせた奇襲を仕掛ける。作戦通りにいかなかったのは、ここからだった。なんと肩のウェポンベイから発煙弾が発射されたのだ。白煙によって視覚を奪われる。それはアンドロイドも同じはずなのに、なぜか一方的に全滅させられた。雑居房にリスポーンして防空壕に向かう。その途中、精鋭部隊二人と見通しの甘さを改めた。
「ありゃ暗視装置ありますね!」
あの一合だけで、みんな見抜いていた。特殊個体は暗視能力を持っている。てっきりアンドロイド全般に暗視能力はないと予想、もとい期待していたのに、よりによって特殊個体に限って装備されているときた。つまり、目潰しは利かないということだ。しかも弾薬消費が激しいM2ブローニングは大口径なぶん重すぎて携帯できないのが常なのに、巨体に物を言わせた大容量バックパックによって弱点を補っている。
「こりゃあ時間かかるぞ」
一番恐ろしいのは、あの操作をしているのが人間だったときのことだ。AIと違い、柔軟な対応ができる人間ほど恐ろしいものはない。そこはまだ数手交えただけで明らかではないが、人間だとしたら性能差が著しい以上、まず勝ちはない。株式会社エクリチュールがどんな雇用形態であれ、さすがに土曜日の夜まで特殊個体の操作担当を雇用しているとは考えにくいが、果たして?
「お、」
続く第二戦闘開始時、ぼくたちのドロップアイテムが破壊されていなかった。しかも、特殊個体はご丁寧に初期位置に戻っている。中身が人間なら武器を破壊したうえで、排水路から出てくる一番無防備な瞬間を狙い澄ますはずなのにだ。僕達三人が先生の弱点を見つけた悪ガキのように舌を這いずり回したのは言うに及ぶまい。
「ひゃっはー!」
夜盗さながらアンドロイドに斬りかかる。BMG弾然り発煙弾然り、強力だが限りがある武器の使用は疲弊する時が必ず来る。それがLPV運営が自らに課した神の秩序だからだ。それをカバーするためのバックパックのせいで鈍足にならざるを得ないだろう、と思った矢先のことだった。
「なにっ!」
なんと脚部の電動ローラーによって高速移動してきたのだ。その強烈なタックルによって部隊のひとりが壁面にめりこむほど派手にキルされる。
「てめええええ!」
やけくそで背後から斬りかかるものの、その斬撃は分厚い装甲に阻まれた。ぼくもキルされる。これでは攻・守・走すべてに隙がない。時間がかかることを東承太郎に報告しにいく。戦線維持担当の東承太郎班だが、かれらはかれらで、陣地防衛戦に手こずっていた。防空壕へ向かうためのエントランスで一進一退の攻防戦が繰り広げられている。もしもここを押し込まれたら? 防空壕に行く前に収容棟から身動きが取れなくなるだろう。
「こっちはこっちでいっぱいいっぱいだ! 自分で何とかしてくれ、これ以上物資を回す余裕なんかねえぞ!」
東承太郎が二〇式小銃を撃ちながら雑に指示してくる。怖い。強めの指示に怯んで逃げるように防空壕に向かった。そして消耗戦になる。まさかこの膠着状態が六〇分以上続くなんて誰が予想できただろうか。




