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Le Palais Vide/ル・パレヴィーデ  作者: Y
監獄編
20/26

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 夜の自由時間、班ごとに集まった。


 自由時間は、朝九時から一〇時、昼一四時から一五時、夜一八時から一九時、最後に深夜二三時から〇時までの計四時間を設けられている。現実と比べて長めの自由時間なのは、いくらチート容疑者といってもプレイヤーを不快にさせるわけにはいかないからだろう、収監者は容疑者であると同時にお客様なのだ。


 弾薬作りが脳トレゲームじみていたのは、だからだろうか――なんて心ここにあらず考えていたら、ぼくに班長役のお鉢が回ってきた。唯一のA帯として当然という空気であるが、囚人全員の物資回収の責任を負わないといけないなんて勘弁してほしい。もしも脱獄の目処がついたとしても、僕の班が物資回収をできなければ、計画の破綻に同義なのだ。それだけは配信者生命に関わる。だからといって、A帯のぼくが自分より階級の低いプレイヤーにリーダーを任せるのは体裁が悪く、引くに引けなくなっていた。


「じゃあ、不束ながら……」


 肩身狭く大役を拝命したら、メンバー四人が拍手してきた。責任がないからっていい気なものだ。こちとら失敗したら東承太郎の膨大な視聴者に叩かれるリスクがあるんだぞ? ちょっといらいらしてきたので、タバコに火をつけた。


「さて、どうしますか?」


 僕の班の役は物資の回収であるが、どこにあるか、皆目検討がついていない。監視の目を掻い潜りつつ、所在不明の物資を見つけて、あまつさえ奪い返すなんて離れ業も甚だしい。A帯プレイヤー全員がすごいと思ったら大間違いなのだ。ぼくみたいな半端者だって紛れ込んでいるのに、という感覚などは、実際にA帯になってみないことには思慮が及ばないに違いない。


「百人分の物資だからなー、相応の広さが必要になるはずだよねえ」


 煙を吐きながら拘置所を見渡せば、主要な施設が五つあった。雑居房用の収容棟A、独居房用の収容棟B、アンドロイド待機の職員棟A・B、そして旧牢舎跡である。その周りをぐるりと高い塀が覆っているのが全体像だが、直感的に考えれば、職員棟のどちらかに保管されていると思いたい。そういう感情先行の憶測が何よりも危険なのだ。絶対に失敗できない以上、拘置所の詳細な図面がないことには、計画を立てるだけ取らぬ狸の皮算用であろう。


 そこでいま、東承太郎班がチーターとの接触を図っていた。独居房の囚人は雑居房の者とは別の区画で時間を潰しているため、フェンス越しに話しかけている。配信を軽く覗いたところ、フィンランド人らしきプレイヤー相手に持ち前のパッションで協力を仰いでいた。凄い。流石その勢いだけで数多の人間を従えてきた伝説の持ち主だけに、その交渉力には驚嘆せざるを得ない。元号が令和になろうが、人誑しが時代の中心を担うのは変わらない、ということだ。そうして成り行きを静観していたら、二十歳前後のメンバーが「リーダー!」と肩をちょんちょん叩いてきた。


「あそこ見てください、アンドロイドによって監視の個体差があるかもッス」


 リーダーって、と苦笑いしつつ見上げてみた。監視塔は八角形の塀にひとつずつ設置されているが、なるほどアンドロイドはわかりやすい周期で監視を続けている。一箇所辺り五秒周期でライトを当てているかと思えば、別のアンドロイドは三秒だったり、七秒だったりするようだった。


「全個体をデザインしているわけないから、実は数パターンしかないってオチかもねえ」


 いかにも熟練ぶった考察を適当に呟く。たぶん殆どのプレイヤーよりゲーム世情に通じていないというのに、その若いメンバーは目を輝かせながら感嘆する始末であった。


「おお! さすがA帯ですねっ」


 じゃあ自分その観察してみます、と飛び出していった。ひとり苦笑いする。副流煙を吐くと、今度は二十代後半らしきプレイヤーが「なんか、メタルギアじみてきましたね」と話を振ってきた。


「ふふっ」


 つい笑った。たしかにそうだ。敵の目を掻い潜って諜報活動するなんて隠密ゲーム『メタルギアソリッド』に他ならない。ぼくが「なら、ゲノム兵だといいですな」と返すと、どっと笑った。


 ゲノム兵とは、遺伝子操作によって身体能力が向上したメタルギアソリッドの敵NPCのことだ。強化人間、という設定の割には視野狭窄なので、ネットではからかわれやすい。実のところ、これは開発陣の「現実通りの視野にすると強すぎてゲームにならない」との配慮があるそうな。

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