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「号外~!」
公式大会開催が告知されてから十日後、大会開始前最後の大型アップデートがやってきた。このバージョンが本選のレギュレーションになるため、熱心な参加者はだれであれ、発表待ちしているに違いない。すでに正月連休に入っていた僕も、その時を待ちわびていた。
アプデ開始の十八時になると、さっそくNPCショップに夕刊が並ぶ。告知は毎回、このようにメディアを通じて報じられるのがLPVの恒例である。
「どれどれ……」
プレイヤーががやがやと意見を垂れている。《A級プレイヤー続々!》と大会関連の記事が見出しを飾った。日に日にA級が増えている。まだ見ぬプレイヤーが次々に頭角を現しているのだ。急がなくてはならない。日経新聞であれば株価や外国のコラムになりそうな二面以降はこの世界では銃器に関するそれになっている。《米ダニエル・ディフェンス社、秋葉原一号店オープン》とある。なんと現実の高級銃器メーカー、米ダニエル・ディフェンス社の銃工設定のアンドロイドが店を出したらしい。
「あぁ、そういうノリ?」
てっきり銃弾の威力がシステムの力で修正されるかと思いきや、アップデートさえゲーム内の事情で完結させる方針らしいのを知らなかった。おもしろい。なかんずく目を引いたのが《美濃国の刀工出づる》だった。見れば、ダニエル・ディフェンス社の銃工アンドロイド同様、美濃国(現在の岐阜県)から刀工アンドロイドがやってきたらしい。なんでも、その刀工が打つ銘には霊力が宿るというではないか。
「え、刀にファンタジー要素はいるってこと?」
不満げな声は全プレイヤーの代弁だったかもしれない。えー、と多くが小さく困惑している。日本刀と間合いが被っている僕にしても無関係ではない。その霊力なる新要素が何なのかわからないが、おそらく間接的なサブマシンガン弱体化に相当するだろう。せっかく軌道に乗ってきたのに水を差された微妙な心境を共有するべく、Danteの放送を見に行ったところ、何やらにやにや笑っていた。
『いや~、まあまあいいんじゃないすか!』
なぜか上機嫌である。最近は自分のプレイに忙しいせいで配信を追えていなかったが、どうやら強力武器を立て続けに入手してご満悦らしかった。軽量高性能なウルトラレア短機関銃MP7A2、現代最強の一角ウルトラレア突撃銃SIG MCX、そして最上位狙撃銃AXSRというガチ武器まで手に入れたようである。
AXSRなんて聞いたことがないかもしれない。だが、あのL96A1を製造したアキュラシー・インターナショナル社の後継狙撃銃と知れば、シューティングゲーム通は誰であれ、どんな銃なのか予想がつくのではないだろうか。
・三〇〇ノルママグナム弾使用、マルチキャリバー対応のボルトアクション式、命中精度は〇・三MOA、つまり百メートル辺り僅か九ミリメートル以内の誤差しかないという驚異的な性能の、名銃の中の名銃に他ならない。Danteも他のゲームでは愛用している。主には西洋諸国において採用されている代物が、いったいどんな経緯で日本に輸入されたという設定だろう、こんな強力武器を手に入れたからには銃使いとしては最終装備といっていい、そのおかげでAA級まで上がったとのことだ。
『AAA級は本当に一握りっぽいけどね~! エックスでも三人しか知らねえもん』
すでに見据えるべきは格上のAAA級らしく、一日五時間訓練所でエイム練習に励んでいるというではないか。近距離武器に補正がかかろうとも遠距離射撃の前には無力のため、今回のアップデートはDanteには関係ないのだ。
その後数日、高級銃器メーカーの実装に伴って遠距離射撃の集弾率向上はうっとおしいくらい肌で感じるようになった。しかし、その霊力なる要素は確認できずにいる。エックスではちょいちょい妖刀使いなるプレイヤーとの対戦がツイートされているが、それがチーターなのか新要素なのか判断がつかない。そのミステリアスなプレイヤーはいまや、LPV界隈ではちょっとした有名人にまでなっていた。
『その妖刀使いにしろAAA級にしろ、動画出さねえのは何なんだよ?』
性格悪すぎね、とDanteがぐちぐち文句を垂れる。確かにそうだ。いまどきスーパープレイやレアイベントならSNSにあげるだけで大バズリするだろうに、意外にも、そうやってアップロードする方が少数派なのだ。じつに不思議である。勝利目的の情報秘匿か、あるいは動画を録画・編集・投稿するまでに顕示欲が失せるのか。
実際アップデートから元旦まで武器強化や戦術調整などゲームにのめりこんだが、ついぞ妖刀使いなるプレイヤーとは巡り合わなかった。ダニエル・ディフェンス社が店を出しているのとは違い、その美濃国の刀工は所在不明なのが普及率の悪さを助けているのだろう。
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