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Le Palais Vide/ル・パレヴィーデ  作者: Y
ビギナー編
12/28

12

 公式ランキング戦に潜ること数戦、なんとなく武器構成上の課題点が見えてきた。メインウェポン想定のシャドウベアが予想外に鈍足のためキルを委ねるほどの信頼を置けず、その仕留め損ねた隙にシャドウベアとVP9との間の空白の間合いを接近されてしまうのだ。それ以外に、大口径の長距離狙撃に対してⅡAレベルでは防弾不信がぬぐえない。ようは遠・中・近すべてに穴があるのだ。


 これら三つの弱点を克服するためにサブマシンガン入手と防弾コートのアップグレード、そして自己対応力を強化しなくてはならない。前者二点については、その日の報酬のおかげで取り急ぎ補填できた。コートはレベルⅢAクラスであれば、五・五六ミリ弾に多少の対策になる。初心者から上級者にまで幅広く好まれるMP5短機関銃はお金さえあれば容易に入手できた。あとはこのベストセラー短機関銃にどれだけ慣れるか、実践時どれだけ視野を広く持てるか、というプレイヤースキルを上げればいい。その単純な底上げこそ、最も難しい、とは言うまでもない。


 その後三日間昼夜を問わず、基本戦術の練度上げに没頭した。仕事は流行り風邪ということで通しているが、さすがに年末の四連当欠は職場関係に影響が出かねないので明日は絶対に出社しようと思う。明日が怖い。リアルを犠牲にしたおかげで、自分なりの型を練り上げることができた。


 シャドウベアの攻撃をあえて躱させたその後をMP5短機関銃で狙い撃つ。これが結構ささる。銃使いにしろ刀使いにしろ、シャドウベアの攻撃は当たれば脅威なので躱さざるを得ないからだ。訓練所で五時間ぶっ通しで反復練習した甲斐があるというものだ。キルゾーンにおびき寄せることができれば、相手がシャドウベアの右か左どちらに躱すかまで絞り込めるので、ぼくの下手糞なエイムでも一線級に通用する。なんだかんだBB級九九一五〇位まで階級と席次を上げることができた。やっと五桁である。階級や席次は必ずしも実力通りというわけではないが、やっぱりモチベーションが上がってよかった。


 あっという間の水曜日の夜、近づく出社の足音に憂鬱になっていたころ、エックスのDMに伍長からメッセージが来ていた。いまから対戦しませんか、とのことだ。ぜひぜひ! と快諾する。ちょうど個人戦デビューしようとしていた矢先だったのだ。


 二二時に東京駅前に集合する。伍長は先にいた。ポケットに手を入れながら、プレイヤーの往来を観察している。なんという鋭い目つきだろう、何かを探しているような、そういう佇まいであった。分厚いダッフルコートを見るに、すっかり初期装備からは卒業していた。


「うす」


 ぼくが雑に挨拶したら、どうも、とやや畏まって返してくる。ゲーム開始日は同じでも、実年齢は十歳以上離れているのを忘れていた。どうですか調子は、なんて世間話を交えながら受付に申し込みに行った。先に「ぼく三連休しちゃいましたよ」とダメな大人ぶりをアピールすると「やばっ!」と笑ってくれる。


「こっちはしっかり仕事でしたよ」


 ハハッ、どっちが大人だかわかんねえや、と軽く流した。水曜日は唯一の休日とのことで、夕方までしか働いていないのだそうだ。「いつもは夕方から早朝の時間帯なんですけどね~」と聞いてもないのに言ってきたので、ぼくはすぐ、階級と席次に話題を逸らした。


「いやぁ全然っすよ。まだCCCです」


 うお、と驚くふりをして言葉を待った。期待通りに「いくつですか?」と水を向けてくれたので、意気揚々と「BBまで行きましたよ」と自慢する。


「ええ! すごっ」


 ゲームしないんすよね? と僕のゲーム経歴を確かめてくる。小学生以来、二十年近くやっていないことを考えれば、ちょっぴりドヤっていいのではないだろうか。


 伍長曰く、LPVの銃器は偏差が実際の弾道に近すぎて遠距離射撃が難しいそうだ。多分にファンタジー要素が盛り込まれているLPVにおいても、結局は銃使いが最多層には変わりなく、これ以上武器の使用率を偏らせたくないという意図からか何かにつけてナーフ対象になりやすい。


「偏差もそうだけど、重量も馬鹿にならんですもんねー」


 偏差の他に、初心者が見落としがちな「重量」は実に精巧に取り入れられている。弾丸が消耗品な以上、刀使いや杖使いと違い、余計な荷物に足を取られやすい。弾倉だって三十発も入っていれば、ひとつだけで1キログラム近く、言い換えれば女性用ダンベルくらいには重いのだ。弾丸がなくなるかもしれない、と不安になって十個も持っていったら、それだけ移動速度が減って、むしろ勝率は下がるだろう。


「でも単なるナーフにしてはヘルメットの防護性がリアルなんですよ」


 そうなのだ。この手のゲームではヘルメットが非現実なほどに頑丈かつ軽量設定なところ、LPVでは現実志向な強度に留まっている。


 実は現実のヘルメットは軍用であろうと標準的な五・五六ミリ弾以上には平気で貫通される。一番対策すべき突撃銃の弾丸には無力なのだ。ケブラー繊維や超高分子量ポリエチレンなど強固な樹脂の開発によって防弾性能が改良されていっても、一二五〇フットポンドものジュールを殺し切るには相応の重量を必要とする、ということだ。果たして、頭ひとつ守るのに四キロも五キロもするフルフェイスヘルメットを被って視野を狭くするべきだろうか?


 このように「防御」のために「重量」を増やすのが正解かどうかは米陸軍教義訓練コマンドでも判断が難しい。つまらない解答だが、その時の世界情勢によって変わってくる、というのが一番の正解だろう。LPV現環境は「最初からヘルメットをしない」という捨て身の解答を示している。当たらなければどうということはない、ということだ。現にDanteも最低限のケブラー性フードをするだけでヘルメットは無用の長物として早々に構成から外している。


「二先ですよ」


 かるく三戦したら、二勝一敗だった。どこから敵が出てくるかわからないサバイバル戦も面白いが、こうして敵の顔がわかっている個人戦も違った面白さがあっていい。初心者の割に立ち回りがしっかりしているプレイスタイルを伍長は頻りに褒めてくれた。


「ちゃんと自分の形もってるのすごいですよ!」


「いやいや若い子の動体視力には勝てないって」


 初心者同士むなしくほめあっていたところ、伍長が「え~配信すればいいのに」と話を振ってきた。アハ、と一笑に付してから「僕なんかじゃ恥晒すだけですよ」と肩をすくめると、満更でもないとみて「美形だから需要ありますよ!」とよいしょしてきた。


 じっさい満更ではない。しかしDanteをはじめ、すでに知名度をたっぷり持つ凄腕プレイヤーや、そうでなくともトークスキルによって視聴者を楽しませてくれる投稿者と比較して、ぼくには売りがない。


「プレイもトークも下手糞な三十代のゲーム動画なんて誰も見ないでしょ」


 そうとも限りませんよ、と伍長が諭してくる。むしろ三十代だからこそ、同年代視点の動画を作れるとのことだ。そこまで言われては反することができない。なにがきっかけでバスるかなんて誰にもわからないからだ。


 興味がないでもないし、配信機材はXcoreを購入した時点で全て揃っている。ちょっと照れ臭くはあるが、


「A級になったら!」


 親指を立てて笑顔を作ってみせる。A級まで昇格したら、それをきっかけに配信してみよう。またとないビッグタイトルの、それも上級プレイヤーとなれば、それだけで一定の視聴者を獲得できるに違いない。


次→1/4

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