"零件"
『部品屋』を長くやって居ると、どうしても『自分でも作りたくなる』時が有る
日夜、耳だの足だのの『部品』に囲まれながら、店を訪れた人々の『創作』を観るにつれ、「僕ならこうする」という考えが頭を過ぎる様になるのだ
日々の退屈な商売の合間に、図面に僕なりの設計を組んでみた
参考は少なかったので正しい設計かは解らない
多くの客は人躰四肢の増設や修復の為、霧深い森の奥に在るこの店を訪ねる
裏を返せば、完全なる無から生命を造ろうとした客はこれまでに一度も視た事が無かったのだ
手探りの作業だった
締切りが有る訳でも無く趣味の作業だった為、完成には数年掛かったが、丁寧に神経や血管の接続も整え、人造の生命は完成した
店内の部品から最も好みのものを集めて造った、『理想の少年』だ
自分の服を着せるのも気が引けたので、わざわざ街に行った際に高い服を買ってきて着せてみた
そこまでは良かったが、何度電流を流してみても少年の生命が起動する事は無かった
最初の切っ掛けこそ仕事の合間の趣味だったが、この頃にもなると僕はすっかりこの少年の事が愛しく思えて居た
率直に言って、僕は彼に恋をしていた
『どうすれば人造の生命が起動するのか』を調べても前列自体が存在して居なかったが、幾つかの資料を調査する内に、起動には魂──要するに、『心』が必要だという事が明らかになった
───その為、今日の僕は、捕霊網を携えて店の裏の沼地を彷徨いて居た
夏にはあれだけ虫が多かった沼地は、冬も迫る現在では枯葉に覆われて居る
枯葉は樹木の死骸だ
樹という植物は、生きながらにして細胞の大半が死んでいるという
僕は「動けもせず腐っていくのはどういう気持ちだろう」と思いながら、沼の外周を歩いた
『目的のもの』は直ぐに見付かった
───お父さん
───お母さん、何処に居るの?
躰の透けた真っ白な少年が、しくしくと泣きながら沼の水面を歩いて居る
明らかにこの世のものでは無い
暫く待つと、少年がほとりまで近付いてきたので、反応する暇すら与えずに頭から網を被せた
急ぎ、袋状の形になる様に網を閉じる
少年の亡霊が網の内側でのそのそと暴れたが、経験から言って既に仕留めたも同然だった
実際に、その後の少年の抵抗は余りに無力なもので、帰宅から結合機に掛けるまでの手順も流れる様に、淀みなく進行していった
電源を入れる
拘束椅子に座った少年の白い肉に電圧が走り、虫の鳴く様な音と共に椅子に座った小さな躰が小刻みに震えだした
幾度目になるかも解らない通電作業だが、今回は肉躰への精神の幽閉に成功して居る
これまでにない程の良い予感を感じながら、僕は椅子の上の少年を視詰めていた
通電手順が一通り終わると、少年が眠りから覚めた様に、ぼんやりと瞼を上げる
実際にこれから彼は、『死』という夢から覚めるのだ
僕と生きる、その為だけに
「えっ……?」
少年の瞳が戸惑いの色に染まっていく
手足を動かそうとして、それが動く代わりにがちゃがちゃと拘束椅子の金具が鳴ると、彼の戸惑いは少しずつ恐怖に変わっていった
「ここ……何処………?」
動揺して汗の玉を幾つも額に浮かべながら、少年が誰に言うでもなく呟いた
僕はそれを視ながら「発汗の機能も上手く構築出来て居るようだな」と自らの腕前に感心したが、直ぐに本来の目的を思い出すと、少年の顎を乱暴に掴み、そのまま口付けた
舌を入れようとすると、少年は苦悶の表情で歯を食いしばって抵抗する
僕は作戦を変えて彼の顔をゆっくりと嘗める
少年は心が折れてしまったらしく、声を上げて泣きだしてしまった
「何処か、と聞いたよね」
少年の前髪を掴んで持ち上げる
「ここは」
「これから君が一生暮らす場所だよ」
もっとも、部品を交換出来る以上、彼にも僕にも『一生』なんてものは無い
永劫は、その名の通りあと幾らでも在った




