表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魅了してあげる【フェミニスト聖騎士×クール系サキュバス】《3分恋#5》

作者: 見早

 最初は、ただの興味だった。


「やぁ、ディアナ! キミの闇色に染まった髪は今日も美しいね」

「……あっそ」


 毎朝必ず掃除婦たちを口説き回る聖騎士様に、サキュバス(わたし)の専売特許、魅了(チャーム)をかけたら――。


「……ケイドさん、今夜ひま?」

「えぇ!? まさかのお誘いかい? キミのためなら、ギルドのS級会合なんて早々に抜け出すよ!」


 魅了をかけるには、密室で2人きりがいい。

 掃除婦の私が冒険者にスキルを発動したとバレれば、クビになるかもしれない――。

 でも、それほどのリスクを冒しても、見てみたかった。

 いつも私の外見だけを褒めるこの男が、どんな醜態をさらすのか。




「ええと。ほ、ほんとにいいの?」


 宿の部屋で、2人きりになったものの。

 この騎士、こっちを一切見ようとしない。


「ケイドさん、私をみて」

「えっ……うわっ!」


魅了(チャーム)


 口内にあふれる赤いフェロモンを、彼の口元で放ったが――彼は、いつまでもキョトンとしている。


「あれ……」

「今、何かしたかい?」


 この男が強すぎて、スキルを跳ね返された――?


 でも、そんな様子はなかった。

 魅了が効かないのは、私の()()()()()に興味がない相手だけ。


 まさか、この女たらしが――?


「……もしかして、俺に魅了かけようとした?」


 心臓が鳴る。

 これ以上は無理だ――正直に「興味本位だった」ことを告白し、頭を下げた。

 

「でも、どうして魅了が効かなかったの……?」

「ああ、それは」


 この「キャラ」は作り物。

 そう告白する彼の横顔から、目が逸らせなくなった。

 国やギルドのお偉い方に憎まれないためには、完璧な騎士像を見せてはいけない。どこか抜けているところを演出しなければ――そうこぼして、彼は微笑んだ。


 それが、あの女好きか――。


 でも、この男は実際、(わたし)に興味がないと証明された。


「実は、ケイドさんの昔の話……ちょっと聞いたことがあって」


 田舎の騎士の出だけど、実力のみで、この国営ギルドのS級まで成り上がったと。


「えっ! 掃除婦さんたちの間で、そんな話広まってるの?」


 彼は、頬を染めながら顔を伏せた。


 この人にも、見えない苦労があるんだ――。


「あれ……でも、どうして私の誘いに乗ったの?」

「それは」


 私がギルド内を黙々と掃除する姿を、彼はいつも見ていたという。

 完璧で誠実な仕事ぶり――そんなことを純粋に言われると、目を見ていられなくなる。


「サキュバスは、その……『特別な食事』が必要なんだろう?」


 そんな私が自分を誘うなんて、よほど困っていると思った――彼は控えめに笑った。


「は……」


 この人は誠実。

 でも、残酷な男だ。

 あの笑顔に触れたくても、彼は私に興味がない。


「ケイドさん……やっぱり悪い男」

「えっ、なんでだい!?」


 悔しい。やっぱり、嫌い――。

 でも。

 魅了じゃない方法で、この男の心を手に入れる方法――それにはすごく興味がある。

 指先ひとつ触れないまま、彼を宿の外へ送ったあと。


「……いつか必ず、魅了してあげる」


 何も知らない背中に向けて、呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ