第五話「成長」
・・・しかし、仕事はどうしたものか。
皇之助が盗賊であることは、仲の良い(主従関係という説もあるが)乃亜でも知らないことだ。
子育てと盗みを両立する盗賊など聞いたことがない。
「でも・・・」
蓄えは十分にある。
盗みをしなくても、当分は食っていけるだろう。
無論、皇之助は子育ての経験など無い。
家庭を持つことすらも興味の無かった男だ。
だがこれも乗り掛かった船。やってやるさ!と気合を入れたのは良いものの。
育児の知識など皆無だった皇之介にとっては、到底生ぬるい物では無かった。
盗賊の仕事の難しさとは、全く別物。
「世の中のおふくろさんたちは、本当にスゲェんだなァ・・・」
洗った布おむつを干しながら、呟いた。
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近所の子持ち主婦に子育ての極意を教えてもらい(叱咤も多くあったが)悪戦苦闘の日々。
失敗だらけな毎日を送ったが、知恵を学び技を知り、なんとか育児に慣れていった。
どんなに疲れてもどんなに寝不足でも、何より子供の笑顔は最高の癒しであることを知り・・・
少しずつではあるが皇之助には「父親」という自覚が芽生えていった。
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日々が慌ただしく過ぎていく中、毎日のように乃亜は春子の様子を見に来てくれた。
「邪魔するよ~!春子ちゃーん!」
春子は乃亜の声に目を輝かせ、手にしていたお人形を置き、引き戸を見て返事をした。
「あい!のあちゃ!あーい!」
ここ数日で、春子は簡単な言葉が喋れるようになった。
乃亜は春子の顔をじーっと見た後、笑顔で頭を撫でて言った。
「春子ちゃん、ウチの名前覚えてくれたの?うれしいな~。」
春子の頬をぷにぷにとつつく。
「やーん、ほっぺやわらか~~い!かわいい~~!って、え・・・?」
乃亜は急に絶句した。
「どうした?」
食器洗いをしていた皇之介が様子を見ると・・・
「・・・もうつかまり立ちできるんだね」
乃亜は、困惑ゆえか真顔で言った。
寝返りやはいはいしか出来なかった春子が、
台にしがみついて立っている。
それはもう、たいそう驚いた皇之助と乃亜であった。
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うぐいすが鳴き、梅の木が大きな蕾をつけ 春子を拾ってきてからもうすぐ三ヶ月。
あの時は真冬であったのに、もう外は春の訪れを告げていた。
三ヶ月前は赤子だった春子は、今や見た目はだいたい五歳。
日本人形のような、艶やかな黒髪の可愛らしい女子だ。
だが
子供というものはこんなに成長が早いものだろうか?
さすがの鈍感な皇之介でも、不思議に思った。