最終話「皆が幸せになるように」
城の中庭にて、巫女たちが集まり雑談をしていた。
相変わらず空は赤く、中庭の植物も枯れ始めていた。
「まぁさ~、ワインを生き血に変えるなんてあたしもやりすぎたと思う~。
本当に邪神が降りてくるなんて思わなかったしぃ。
ハルカに問い詰められたときマジしぬかと思ったぁ。あいつ生意気じゃなーい?」
指で髪の毛の先をくるくるといじりながらアクアは言った。
他の巫女たちは複雑そうな表情で、アクアをチラチラ見ながら内緒話をする。
「え、なに~?なんかみんな感じ悪くなぁい?」
不満そうに言うアクアに、一人の巫女が言う。
「だってアクアさん、あの時ハルカに、巫女仲間殺すの手伝うから!とか言ったじゃないですか・・・」
アクアはとぼけて
「言ったっけ~。覚えてなぁい」
と悪びれず言った。
そこへ、勇敢な両剣女騎士長が現れ、巫女の集団に声をかけた。
「巫女のみんな、お疲れ様。アクア、話がある。ちょっと来て」
巫女たちは驚き、気まずい顔をしながら挨拶した。
「ノ、ノア様・・・。ご、ご機嫌うるわしゅう・・・」
ノアは返事をせず、アクアを見る。
「アクア、聞こえないの?ちょっとおいで」
アクアはさすがにうろたえ
「え?え?なんですかぁ?ノア様怖いですぅ。あ、私修行の時間だぁ、いってきまぁ~す」
ノアから逃げ出そうとした。
ノアはアクアの腕をつかまえ引きずった。
「ウチから逃げようったってそうはいかないから」
アクアは慌て、わめく。
「だ、だ、誰か助けてぇ」
誰も助けようとする者はいなかった。
引きずられて行くアクアを見送り、巫女たちは言った。
「私たちも、修行なんかしないで今まで遊んでばかりいたし・・・バチが当たったのかもしれないね・・・」
「アクアの悪だくみに乗って、ハルカをアンモニカに推薦したのは、私たちですものね・・・」
彼女らは赤い空を見上げる。
「私たちはどんなに罰せられても許されないことをしてしまったのね・・・」
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城内の取り調べ室、ノアとアクアは向き合って座っていた。
アクアはそわそわと落ち着かない。
ノアが言った。
「あの日礼拝堂にハルカが侵入した時、アンタ言ったよね?ワインを血に変えたのは自分だって」
アクアはうつむきキョロキョロと目線を動かしながら
「な、なんのことですかぁ・・・・」
と答えた。
ノアは続けて言う。
「ウチにとって、ハルカは妹のような存在だった。騎士と巫女は生活をする棟が違うとはいえもっと気にかけてやればよかったと、後悔しかないよ。」
「・・・・」
アクアは黙る。
「ウチは、儀式にイタズラした犯人を見つけたら、
この両剣で斬ってやるつもりだった」
「・・・・・・・」
アクアは黙ったまま。体は小刻みに震えている。
「でも、アンタを斬ったところでハルカは喜ばないし、今更意味はないしね」
ガチャリとドアが開き、リックハートが部屋に入った。
「!!・・・総長様!!」
アクアは椅子から立ち、リックハートに駆け寄り抱き着いた。
「総長様、助けてくださいぃ~。私何もしてないんですぅ。血なんかさわれないしぃ。濡れ衣ですぅ」
そして、
今晩サービスしますので・・・
と、耳元で囁いた。
リックハートは眉一つ動かさず
アクアの体を突き飛ばし冷ややかに言った。
「宮廷騎士団総長である俺からの命令だ。今日からお前を城から追放する。すぐに荷物をまとめ出ていけ」
アクアは氷水を浴びたように固まった。
「・・・・え?」
ノアは
「二度とウチの前に姿を現さないでね。このおもらし女」
吐き捨てるように言い、総長と女騎士長は部屋から出た。
アクアの足元には、またもや水たまりが出来ていた。
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ソニア女王は城壁のテラスから、外を眺めていた。
(青い空、白い雲、透き通った池、緑の木々、草原・・・)
目を閉じる。
(ここは私が一番好きだった場所)
「・・・お兄様?」
近づく気配に、女王は目を開けた。
「ここにいたのか」
リックハートも右隣に並んで外を眺めた。
「あいつら、うまく出来たんだろうか?」
ソニアは言った。
「きっと、元気なハルカと再会して、二人で頑張ってるわ。そう信じましょう」
リックハートは腕を組み
「あいつらが頑張らなきゃ、俺たちに未来は無いからなあ」
二人の身を案じ言った。
ふと、ソニアは隣に立つ兄を見る。
「時々思うんだけど・・・やっぱり兄様が王の座についたほうがよかったんじゃないかしら」
「冗談じゃない。俺は人間である父の血が濃い。エルフの血が濃いお前が統べるのは当然のことさ」
それに、と付け加え
「俺が王になったら独裁国家になるぞ」
と言い、笑った。
遠くから足音が聞こえる。
「・・・来たか」
「ノアさん!」
二人は、走ってくるノアの姿を見つけ、呼んだ。
「遅くなっちゃった、ごめんごめん」
ノアは、ソニアの左隣に立った。
「ウチら・・・この記憶消えちゃうんだね」
「そうね・・・」
「いいんじゃないか?こんなの、覚えていなくていい光景だ」
空を見て、リックハートは言う。
ノアは眉を八の字に曲げ、不満げに口をとがらせた。
「景色は確かにそうだけどさ・・・いいなぁ二人は。兄妹なんだもん、絶対会えるじゃん。
かわいいソニア女王のことも、生意気なリックハート総長のことも忘れるってやっぱり寂しいよ」
「お前の方がよほど生意気だろう」
リックハートは反論し
「いや?ウチはかなり素直だよ?」
ノアがまたそれに反論する。
あっ
三人が同時に声をあげた。
空が、小さくねじれ、徐々にその渦は大きくなっていく。
「始まったか」
「どうか平和な未来でありますように」
「大丈夫だよ、あの親子ならさ!」
渦は城を飲み込むほどの大きさになった。
ノアはつとめて明るく言った。
「二人とも、絶対また会おうね!!」
「そうね、絶対会いましょう」
「あぁ」
兄妹は答えた。
渦は、城を飲み込み、大地を飲み込み、星全体を、宇宙を、飲み込んだ。
そして、分岐点で誤った選択をした未来は、渦と共に消えた。
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階段を上り続けるブラッディレオ。
「どこまで登ったのか・・・あと出口までどれくらいあるんだ・・・?」
全く予想がつかない。
あの時峰子を、あの時春子を、あの時ハルカを、救えなかった。
今度こそ・・・新しい未来では大事なものを救い、守る。
ブラッディレオは、固く誓った。
ある程度歩を進めると、ハルカの体は胎児へと戻り、
ブラッディレオの手のひらの上で浮かんだ。
「必ず迎えに行く。今度は優しい家族に、温かく育ててもらうんだぞ」
胎児は小さな光となり、宙に浮かび飛んでいった。
「お!!あれは出口か!?」
美しく、荘厳な扉が見えてきた。
階段は終わりを迎える。
ブラッディレオは扉に手をかけた。
【終】
長々と続きましたが、ここで一旦最終話となります。
モヤモヤが残る形になってごめんなさい。
続編の書き溜めも用意してます。投稿を見かけたら、よかったら読んでみてくださいね。
それでは。お付き合いどうもありがとうございました。
大切断!!イェィッ!!




