第三十一話「最期」
__父ちゃん
懐かしい声が聞こえ
輝く人型は、ふわりと浮きながら皇之介の前に立つ。
「まさか、春子・・・?」
__もう、だれもころさせないよ
懐かしいまなざしがハッキリと見えた。
光は少しずつ薄くなり・・・
__父ちゃん、あの子、たすけてあげて
その言葉と共に消えた。
同時にハルカを拘束していた鎖も完全に消える。
「春子・・・父ちゃんに任せとけ」
光が消えたハルカの全身に、黒い血管がぶわっと浮き出し
「私に逆らう奴なんか、ぜったいにぜーーーったいに許さないんだから!!ひとりぼっちなんか怖くないもん!みんな壊れて無に還れ!!!」
来る!!そう思った次の瞬間、地響きとともに地割れがおき、黒い泥が噴き出した。
間髪入れず次々と割れる地面、吹き出す大量の泥。
皇之介たち三人は、ただ避けることで精いっぱいだった。
「どう・・・すればいいんだ・・・」
息をつく暇もなく、黒い泥が襲いかかってくる。
彼らの体力と集中力の限界がくるのは時間の問題だ。
その時、遠くで小さい何かが動く。
「ダメだ!!こっちに来るな!!」
その小さな気配は、こちらに転送されてきた時に出会った動物たち。
野犬は唸り、鹿は大きなツノを前に出し、背中にハリを出したハリネズミ。
うさぎはその後方で震えていた。
「逃げろ!!早く!!」
皇之助が叫ぶ。
その時ハルカは右手を動物たちに向けた。
禍々しい煙を放つ泥が動物たちを襲う。
皇之介は動物たちの前に飛び出し、両の拳を顔の前で交差させ、攻撃を受け止める。
その時右手に握っていた愛刀は弾き飛ばされ
くるくると回転しながら宙を舞い、はるか後方の地面に刺さった。
「と、溶ける・・・」
泥を真正面から浴びた皇之介は、体が泥と同化していくのがわかった。
体が溶ける速度が速い。このままでは数分内に確実に全身が泥と化すだろう。
「皇之介!!」
「大丈夫か・・・!」
ノアとリックハートが駆け寄る。
「今回復を・・・・術が効くかわからんが・・・」
リックハートは緑に光る手をかざそうとした。
しかし。
「いらない」
皇之介はそれを拒んだ。
「は?」
泥がまた襲ってくる。
ノアが二人の前に立ち
「えーーーーい!!!」
両剣を目にもとまらぬ速さで振り回し、竜巻を起こした。
襲い来る泥は幾重にも発生させた竜巻にはじき返される。
皇之介は、呑気に言った。
「どうせこのままだったら何をしても俺は溶けて泥になる。お前たちももう限界だろ?きっと、次の攻撃で仕留めにくるはずだ。ちょっと受け止めてやろうかなと」
「お前何言ってんだ・・・?」
リックハートは、皇之介が正気なのか疑った。
「いいから俺から離れろ、巻き添え食らうぜ」
ドクン・・・ドクン・・・ドクン、ドクン、ドクン、ドクッ、ドクッドクッドクッドッドッドッ
ハルカの体を蝕んだ黒い血管は、心臓の鼓動のように脈を打つ。
「覚悟なんて・・・無かったよ。でも追い詰められると、自然と出来るもんだな。」
皇之介はしっかりと真正面を見据え、言った。
「もう人間に戻ることは出来ない。真の姿を現したら、それが最後なんだ」
皇之介はそう呟き
リックハートとノアを掴んで遠くへ投げた。
ハルカの攻撃の射程内からはずれた二人は叫ぶ。
「何をごちゃごちゃ香ばしい事言ってるんだ!逃げろおお!!」
「このバカ!!!何やってんのよ!!!」
情け容赦なく、泥の大洪水が襲い掛かる。
標的は皇之介一人に定められた。
「人間でいたかったな…」
これが、皇之介の最後の言葉だった。
地面がえぐれるほどの激しい衝撃。周囲はまるで嵐のような突風が起こる。
「早まりやがって・・・!!」
「キャアアッ!!」
辺りは大量の土煙が立ち、彼の姿は見えなかった。




