第二十九話「陰湿」
ハルカは、ゆっくりと歩き出す。
「ねぇみんな・・・私強くなったよ?」
近づいてくる血まみれのその姿に、巫女たちは悲鳴をあげた。
「ねぇみんな・・・私も仲間に入れてよ」
媚びるように甘えるように言う。
「みんな、一緒にあそぼ?仲間に入れてよ」
一瞬シン・・・と静かになったその時
「ハルカ」
リックハートは声をかけた。
「なぁに?」
「邪神を・・・その体に降りた邪神を、追い出すんだ。出来るだろ?」
ん~~・・・と、あごに人差し指をあてて考えたあと、ハルカは言った。
「邪神て、あの変なおばさん??あー、あのおばさんはね、私が食べちゃった」
ハルカはけろりとした顔で言った。
「邪神のおばさんうるさかったよ~、体をよこせって。でもあげないって言ったの、あんたこそその力よこせって。あんまりにうるさかったから、その意識ごと飲み込んじゃった」
ハルカは無邪気に笑い、その後声を張り上げた。
「だから、もう邪神はいないの!私が、邪神の力を持つ神薙なの!すごいでしょ?すごいでしょ?私は神力を手に入れた!私が触ると、みんなパーンて弾けるんだ!あんな偉そうな兵のみんな、今はまるで・・・」
ハルカは少し息苦しそうに言う。
「・・・石で頭潰されるカエルみたい!
私ね、毎晩毎晩、城のそばの池のほとりにいるカエル潰して遊んでたんだぁ!毎日、カエルに、みんなの、名前つけて、・・・」
ハァ、ハァ、と肩で息をしながら言う。
リックハートは何かを言おうとしたが
「・・・お前・・・」
何を言うことが適切なのか、全くわからなかった。
ハルカは、また巫女の方を向き、一人一人の顔をじっと見た。
「ねぇ・・・私役に立てるようになったんだよ・・・・?」
そう言いながら相手の顔に息がかかるほどまで近づき、一人一人の顔を覗き込んだ。
「あっ」
ハルカは声をあげる。
目を見開きまばたきもせず、その中の一人の顔をじいっと見つめた。
腰が抜けた巫女の顔を覗きこむため、上半身を不自然に曲げながら。
そして、一言囁いた・・・
儀式の邪魔した人 みぃつけた・・・・・
ハルカがターゲットとしたその巫女は、うずくまり頭を抱え顔を伏せる。
恐怖にすすり泣き鼻水をだらだらと垂らした。名をアクアと言う。
「ね~、・・・。
ワインを、動物の生き血に変えたの、あなただよね・・・?」
アクアの足元には水たまりが出来ていた。
「あなたでしょ・・・?ほんとの事言ってくれたら、許してあげるから・・・」
ハルカの口調はさきほどの残忍非道な行いが嘘のように、優しかった。
「・・・本当に?本当?」
「うん、本当だよぉ」
アクアがぽつりぽつりと話し始める。
「・・・確かにあたしがイタズラしたの。つい出来心だったのよぉ・・・。術の一つもロクに使えないあんたが、総長様に気をかけてもらえてるのが憎らしくて・・・」
途中から、どんどん声が荒くなっていく。
「本当のこと言ったわよ!これで私の事殺さないでしょ?あたしもこいつら殺すの手伝うから!!ねぇ!!?」
発言の最後は、まるで悲鳴のようだった。
その言葉を聞き、周りの巫女たちがアクアから離れる。
「随分と性根の腐った巫女さんがそろってんだなァ・・・」
皇之介は吐き捨てるように言った。
「我が国の恥を、こんな形で見る羽目になるとはね」
リックハートも呆れている。
「神に仕えるため修行を積んだ巫女だって、結局は人間なんだよ。でもここのエセ巫女に比べれば、ウチの育てた兵士たちの方がよほど純粋だけどね」
ノアも、変に落ち着きを取り戻したようだ。
巫女たちのそれはそれは陰湿な仲間割れ。
居合わせた三人は心底しらけていた。




