第二十四話「逃走」
そして三人、厠へ向かう・・・。
「ほら、ここだよ。早く済ませてきて」
皇之介はうんうんと大きく頷き、首をコキコキと鳴らした。
「ありがとうな、乃亜」
次の瞬間皇之介は春子をサッと抱き上げ、同時に力強く床を蹴り走りだした。
「!!?」
ノアは一瞬硬直したが、瞬時に察し皇之介を追いかけた。
「まっ・・・!待ちなさい!!」
皇之介は前夜のうち、城の構造を頭に入れていた。
話を長引かせれば、めんどうなやり取りが嫌いであろうリックハートは先に研究室(ヘドロの水槽の部屋をこう呼ぶとしよう)へ行くだろう。
春子が研究室に連れていかれるタイミングの時、皇之介の十八番である、渾身の腹痛の演技をする。
そして付き人を撒いて逃走。
廊下を、走る、まるで突風のように。
「バカ!!!なんでそんなことを!!!」
ノアが追って走ってくる。
ノアの足は速い。しかしそれ以上に皇之介の方が速かった。
「お前たちも大変だろうけどなぁ!!俺らには関係ないことだぜぇえ!!!」
1階の中庭が見える吹き出し廊下に出る。
「春子、父ちゃんにしがみついとけよ!!」
3階廊下から中庭に飛び降りる。
驚いて兵士たちは振り返った。ノアが叫ぶ。
「そいつを捕まえて!!緊急事態、神薙のクローンを捕獲し逃走中!!」
「無駄無駄無駄ァァ!!俺は名うての盗賊だぜぇえ!!」
兵士たちを次々なぎ倒し、城門はすぐそこだ。
「よし!!うまくいったぜ、このままだっしゅ ・・・ つ・・ ・ 」
皇之介の視界がぐらりと揺れた。
「・・・な んだ・・・?どうし ・・・ て 」
皇之介は、ひざからガクリと崩れ落ちた。
春子はポカンとしながら、父を見ている。
3階廊下の角、柱の陰からリックハートは見ていた。
皇之介の行動などお見通しだったリックハートは、あえて先に皇之介たちと離れ、催眠術をかけるために城門の斜め上 3階廊下の柱の影から見張っていた。
「全て想定内なんだよなぁ」
リックハートが独り言を呟くのと同時に、皇之介は倒れ動かなくなった。
「・・・・・うわぁぁぁぁん」
春子が泣いている。
ノアが、意識を失っている皇之介に近づいた。
「このバカ・・・もう、ウチにはどうにもできないよ・・・」
リックハートが飛び降りてきた。
「お前はこの男に情をかけすぎだ。クローンは俺が預かる」
「イヤ!イヤイヤ!!イヤイヤイヤ!!!ヤダヤダヤダァァァ!!!」
無理矢理春子を抱えると泣きわめいて暴れた。
「・・・一瞬だけ、寝てくれ」
リックハートが人差し指で春子の眉間を優しく触ると、春子は糸が切れた操り人形のように ガクンと首を垂れ意識を無くした。
ソニアが左右に護衛をつけ階段を降りてくる。
「兄様の言う通りになったわね・・・」
そして眠る皇之介を見つめた。
「ソニア様・・・・申し訳ありません。処罰はなんでも受け入れます」
「本当?じゃあ今度の女子会でワインとビールを交互に飲んでね」
ソニアはフフッと笑い
一呼吸置いて再び皇之介を見つめながら言った。
「しょうがないことよ・・・親子の絆って、そう簡単にちぎれない。あなたへの処罰より、今は兄様を信じて実験を成功させるほうが先」
胸に手を当て頭を下げていたノアと兵士たちは、女王が去っていくのを見送った。
ノアは顔を上げると
「お前たち、この男を地下牢へ。十分気を付けるんだよ」
「はっ!」
兵士たちが拘束して、皇之介を抱えていった。
「これであいつは、一生地下牢か・・・。」
そして天を仰ぎ、一言。
「ワインとビールを交互にって・・・さいあく」




