第二十二話「深夜」
客室に通され、布団に寝転んだが・・・
あんな話を聞いた後だ。眠いのに神経はぴりぴりとする。
食事を出されたが、全く見たこともない物だった。
このような時でも腹は減る。
皇之介は謎の食べ物をつまみながら考えた。
「春子・・・ハルカ・・・」
独りつぶやき
・・・巫女・・・神薙・・・。脳内に響いたあの声。
客室から出て、シンと静まり返る暗い廊下を彷徨う。
かすかに漂う薬品のにおい、そして人の小さな声が聞こえた。
辿りながら進むと、その先には一つの部屋があった。
気配を消し、扉を少しだけ開け隙間から様子を覗き見る。
中は暗かった。
部屋の隅々にはいくつも機械が置かれており、奥中央に見たことのないほどの巨大な水槽がある。
それとは別に五つ、小柄な人間なら入れそうな水槽が並ぶ。全ての水槽には、不気味に光る液体がなみなみと注がれていた。
小さな水槽には管がついており、その管は全て巨大な水槽に繋がっている。
その巨大な水槽には・・・人型のヘドロが漂っていた。
リックハートはこちらに背を向け、そのヘドロが漂う水槽に片手を添えて・・・
「ハルカ・・・落ち着け。大丈夫だ」
まるで独り言のように語りかけている。
よく言えば神秘的、悪く言えば不気味な光景だった。
そして。
「・・・皇之介。そこにいるのはわかってる。入ってこい」
皇之介は扉を開け中に入り、言った。
「気配は完全に消したつもりだけどな。これは・・・」
リックハートは振り返り、部屋に入る皇之介を見て言った。帽子は外している。
「覗きがお得意のようだな。しかしどんなに他は騙せても、俺ほどの術士を相手に通用すると思うな」
皇之介はリックハートの横に立ち、静かに泥を見つめた。
「これは・・・?」
「・・・これが何なのか気になるか?」
リックハートは
「ハルカだ。」
と、一言だけ言って黙った。
液体に照らされる横顔は、何故か一段と端正に見える。
「・・・。」
生きているのか?本当に人間なのか?いろいろ聞きたいことはある。だが・・・
「鼻につくほど生意気なお前でも、そんな顔をすることがあるんだな」
リックハートは近くに置いていた帽子を被り、目元を隠した。
「ほっとけ」
揺蕩う泥を見つめると、一瞬だけ瞳が見えたような気もする。
「頑張って・・・生きてるんだな。ビックリハートはこうやって毎晩声をかけているのか?」
「俺の名前はリックハートだ」
皇之介は興味なさそうに、あ、そう。とだけ答え
「このハルカってのとお前は、恋仲だったのか?」
少しの沈黙の後、リックハートは素っ気なく言った。
「別に。放っておけない存在だっただけだ」
「ふーん。お前ってそういうの鈍感そうだもんな」
「は?」
リックハートは軽く睨む。
その後、二人は無言でたたずみ泥の塊を見ていた。
「お前の目はどうしてそんな色をしている?」
リックハートは沈黙を破り、皇之介を見ながら聞いた。
「お前だって青い目じゃないか」
「西洋人は、髪は金色、目は青いものなんだ。しかしお前は・・・普通東洋の人間は黒髪に黒い瞳じゃないか?」
皇之介はあっけらかんとして答えた。
「俺は幼少時に流行り病にかかってな。それから目の色が後遺症で変わった」
「それはご愁傷様だな」
そういえば、と皇之助は思い出した。ノアも黒髪で黒い瞳だ。
「ノアは西洋人じゃないようだな」
「あいつは元々東洋の出身だ。・・・そういえばハルカも、東洋の出身と言っていたな」
リックハートは大きな水槽を眺めながら、呟いた。




