第二話「盗賊」
冬は日が暮れるのが早い。
食事を終え、入浴を済ませ、夜更けが来るまで読書をして暇を潰す。
そして時刻は深夜をまわり、人の気配は全く無くなった。
・・・そろそろ時間だ。
皇之介はフッと息を吹き、手元の蝋燭の火を消す。
静寂と闇だけが残った。
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ほころびの多い袴を脱いで、黒地に金色の刺繍が入った 忍び装束を身にまとう。
忍び装束にしてはいささか派手であるが、これが彼のお気に入りであった。
盗みは華麗に、されど非道はせず。
命を奪うことをしない彼は、盗賊というより義賊であった。
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家を出て、真っ暗な裏道から山道へ向かう。
(もうすぐ馬車がこの辺りを通るはずだ)
茂みの中で気配を殺す。
(雇いの用心棒は、四人程度だろう)
しばらく待つと
がらがらがら・・・車輪の音。馬の息遣い。
ひづめの音が近づく。
(来たな・・・)
盗賊は力強い脚力で大きく跳躍し、馬車の屋根に飛び乗った。
驚いた馬は暴れ始め、馬車は大きく揺れる。
御者(馬車を運転する者)は突然の衝撃と、言う事を聞かなくなった馬に慌て こちらを振り向いた。
想定外の人物の登場に御者は心底驚き、馬は暴れ続け、馬車は今も大きく揺れている。
「ま、まさか、盗賊・・・?」
御者はこちらを見ながら 上ずった声で呟いた。
屋根から飛び降り 御者を蹴り飛ばし 腰に備えた愛刀で手綱を斬る。
馬はあっという間に逃げていった。
御者は道に転がり落ち、四つん這いになって逃げて行った。
静かになった馬車の中に入ると、中年男が震えながら後ずさりしていた。
皇之介は愛刀「獅子闘辛」の刃先を向けながら言う。
「今すぐ全財産を差し出すか、ここで殺されるか、どちらか選べ」
今日の獲物___趣味の悪い柄の着物。油でぬらぬらと光る頭。贅肉だらけのだらしない体。
村はずれの屋敷で高利貸を生業とする男だ。
借用書に伴を押させ金を貸した後、ケタ外れの利子を請求し、どれだけの人間が苦しんだか。
男は、目を白黒させながら言った。
「よ、用心棒!!・・・こいつを・・・」
しかしすでに皇之介は「用心棒」とやらをみねうちで気絶させていた。
その数予測通り四人。
腰を抜かした男は、大きな袋を目の前に出した。
「この中に金が」言い終える間もなくその袋は斬り裂かれ、ボトボトボト・・・と、中身が落ちる。
金ではなく、ただの羊羹だった。
「嘘をつくならもう少しうまくつくんだな」
皇之介は男の背後にある米俵を斬った。
なんと穴から銭が大量に流れ落ちていく。
銭がある程度流れきった後、奥底に隠されてあったのだろう、金の延べ棒が出てきた。
泡を吹いて気を失っている下衆を一瞥し、金の延べ棒を抱え 皇之介はまた素早い脚で逃げた。