第十八話「巫女」
頭の片隅が疼く。
そういえば、峰子は村を出て巫女になりたいと言っていた。
その後峰子はどうなったのだろうか。
「どうしたの?大丈夫ですか?」
皇之介はすぐに頭から思考を切り離し、再び女王の話に耳を傾ける。
「いや、なんでもない。話を続けてくれ」
「彼女ら『巫女』は大変な修行を積み、神のご加護とお力を得るために 自らの体に神を降ろします。
そして 神が降りた巫女は、『神薙』と呼ばれ、神の使いとしてその役割を務めます。
その 神薙 の体から神が去ると、新しい巫女が儀式を受け、新たな 神薙 が生まれる。
その儀式の名前が 『アンモニカ』。
ついひと月ほど前、前代である 神薙 の体から神が離れ、それによりハルカが他の巫女たちから 『新しい神薙候補』 として推薦されました」
皇之助はウーンと唸り、言った。
「言いたいことはなんとなくわかったよ。それと春子が何が関係あるんだ?」
ソニアは答えた。
「せっかちね、大きく関係があるわ。まずお聞きなさい。
ハルカは、巫女としての実力が低い方でした。
しかし他の巫女全員が「次のアンモニカはハルカは受けるべきだ」と、強く訴えたのです。
ハルカはそれを受け入れました。巫女以外の皆は、本当は疑問を抱いていたのかもしれません。
『なぜ実力が低い巫女がこんな儀式を?』しかし、問いただす者はいませんでした。
・・・もう、アンモニカなど、古い。神を降臨させたところで戦力になるとも限らない。
そもそも神が降りてきたかどうかもハッキリとわかるような事柄が起こらない。
皆、伝統ある儀式に対する敬意を失っていました。つまり、神薙になるのは誰でもよかったのです」
ねぇ、誰?
小さな声が聞こえた。皇之介は辺りを見回す。
「儀式の準備は他の巫女が行い、質素な神具が並べられた中、アンモニカが行われました。
神と言っても、自然界の神、富と名声の神、美の神、豊穣の神、子宝の神・・・いろいろ存在するわ。
でも、私たちのような下等な存在には、どんな神が降りたなんて普通わからない。
そして、加護と言っても思い当たるところもない。形だけの儀式・・・になってた。
だからかしら・・・誰かのいたずら・・・いたずらにしてはタチが悪すぎる。
誰かが儀式に使うワインを、動物の生き血にすり替えたのです」
ノアが言った。
「ウチは、絶対に犯人を突き止めて、この手で斬ってやる・・・」
つとめて静かに話すが、表情は怒りに満ち、彼女の拳は震えていた。
私の儀式、邪魔したの、だれ?
声の主が見当たらない。
(なんだ?誰だ?)
ソニアは一瞬ノアを見て、視線を落とし、言った。
「普通はね、儀式の始まりから終わりまで特に何も起こらないの。
なんとなく始めて、なんとなく終わる。
でもハルカが生き血を飲み干した瞬間、空は陰り、急に暗雲が垂れ込み、そして激しい稲妻が起こり・・・こんな事は初めてよ。
邪神が、降臨したの」
ソニアは言った。
「その邪神は、血と殺戮の女神『ブラッディマリー』」
「・・・!」
皇之助は動揺を隠せなかった。
女王はその動揺を見逃さず、皇之介に尋ねた。
「もしかして・・・。いいえ、なんでもないわ。神話などご存じ?」
皇之助はあたふたとし
「い、いや、書物で軽く読んだだけだよ。それよりさっきからなんか声が」
謎の声が聞こえる。耳から聞こえるというより脳内に響く、と言った方が正しい。




