第十五話「動物」
「ねぇ、ほんとにこのまま何も言わずに連れて帰るの?」
「俺はさっさと用事を終わらせて母国へ帰りたいんだ。こいつに言うことなど何もない」
リックハートと呼ばれた男は春子を抱き上げ、その場にぐにゃぐにゃと動く渦のような物を発生させる。
「帰るぞ」
その時。
リックハートの足首を、手が掴んだ。
「・・・・まさか、まだ意識があるのか」
リックハートは自らの足首をつかむ手、そして皇之介自身を冷たく見下ろす。
這いつくばりながら、鬼の形相で皇之助は言った。
「行かせるか・・・!春子を、返せ・・・!」
憐れむような目で、リックハートは足首を掴む手を蹴り飛ばした。
「大人しく寝ていろ」
乃亜が、悲しそうに呟く。
「ごめん・・・さよなら、皇之助・・・」
春子を抱くリックハートと乃亜が、渦の中に飛び込んだ。
「う・・・ぐあああっ!!」
皇之助は力の入らぬ手で愛刀を握り、自らの左腕を勢い良く斬りつけた。
薄れる意識をかすかに取り戻し、消えかける渦の中へ飛び込んだ。
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摩訶不思議な渦を抜けた先。
そこは草原の中の、綺麗に舗装された一本道の真ん中。
その道の先には、とても大きく美しい城がそびえ立つ。
晴れ渡る空、雲が穏やかに流れていく。
空気が澄み、自然独特の草木の匂いがした。
心地よい風が吹く。
「よし、無事着いたな。城へ帰ろう」
リックハートは歩き出そうとしたが
「えっ、えええ!?」
乃亜が素っ頓狂な声を上げた。
「どうした?」
釣られてリックハートが振り返る。
そこには、左腕から血を流した皇之助が倒れていた。
「こいつ、ついてきたのか・・・」
信じられない、という顔をした。
「・・・・アンタ、そこまで・・・」
乃亜は複雑な気持ちで、倒れている皇之介のそばにしゃがむ。
リックハートは言った。
「放っておけばいい、そのうち血の匂いに釣られた野犬の餌になるだろう」
「・・・でもさ、春子を育てたのは・・・。それに春子を心底愛してなければここまでしないよ」
リックハートは無視して歩き出す。
仕方なく、乃亜も立ち上がり、彼の後をついて行った。
「・・・・・。」
二人の会話は、かすかに皇之介に聞こえていた。しかし。
(ダメだ・・・もう・・・意識が)
薄れる視界の中で皇之助が最後に見たもの。
それは、春子を抱えた男と乃亜が城門へ入る後ろ姿だった。
(春子・・・・・・・)
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夜になり、草原を吹く風は冷たくなった。
「ふ・・・えぇっくヒョーーーイ!!」
皇之助は大きなくしゃみをし、目を覚ました。
眠気はすっかり消えている。
周りを見ると・・・
「な、なんだ・・・?」
犬や、動物達に囲まれていた。
「野犬か・・・?」
皇之介は、襲ってくるであろう野犬を見て構えた。
しかしそんなことはお構いなしに、野犬はクゥーンと鳴きながら擦り寄ってくる。
「・・・随分人に慣れてるなぁ。まるで飼い犬じゃないか」
皇之助は警戒をやめ、犬の頭を撫でた。
他にも、うさぎ、鹿などが周りを囲っている。
逃げる気配も、襲ってくる気配も無い。
そこへはりねずみが2匹、草を咥えて走ってきた。
皇之助のそばまでくると、彼の血の跡がある左腕を抑える。
左腕の自らつけた傷には、見たこともない蔓草や葉が巻かれていた。
出血は止まっているようだ。
はりねずみは汚れた薬草を外し、口に咥えていた新しい薬草をまた器用に巻いた。
「手当てしてくれたのか?」
問いかける皇之介を、はりねずみはつぶらな瞳で見つめた。




