第十四話「襲来」
「ひぇっ!!?」
春子は飛び起きた。
逃げようとしたが、足腰が震えて立てない。
四つん這いになって移動し、なんとか近くにあるほうきを握る。
心臓が徐々に激しく脈打ち、息が苦しい。
「ひ、・・・ひぇ・・・」
春子はかすれた声で父を呼んだ。
「と、父ちゃん・・・助けて・・」
しかし、皇之介は村の見張り番の最中。春子の小さな声は届かない。
男はゆっくりと障子を開け、靴を履いたまま畳に踏み入れた。
「お前がハルカのクローンか。・・・いやまあ当たり前だけど、さすが本家そっくりだな。俺のことはわかるか?」
春子は腰が抜けたまま、握ったほうきにしがみつく。
(どうしようこわい・・・!でも、父ちゃんがおるすのあいだは、はるこがおうちまもらなきゃ・・・!)
震える手足で、さながら生まれたての小鹿のように立ち上がり、腹の底から声を振り絞り言った。
「こ、ここは、父ちゃんと、は、はるこのおうちよ!は、は、はいってこないで、ほ、ほしいんだ、な!」
恐怖で口がうまく動かず、おにぎり好きな某大将みたいな喋り方になってしまった。
しばし沈黙が続く。
「・・・・」
お察しであろうが、この侵入者は先ほど居酒屋でひと悶着起こした、あの「破天荒な男」だ。
男は軽くため息をついた。
「単刀直入に言おう。俺に着いてきな。それがお前の運命だ」
男が春子に近寄ろうとしたその時・・・
「うちの娘に何用だ」
男は動じず、冷静に振り向いた。
「父ちゃあん!!」
春子はほうきを放り投げ、父に駆け寄り抱き着いた。
父は娘の頭を撫で・・・
「こんなこともあるんじゃねェかと思ってな。早々に終わらせ帰ってきた。春子、下がってろ・・・火傷するぜ」
春子の前に立ち、男と対峙する。
「育て親のご登場か」
「昼間に会った振りだな。言ったよな、殺されたくなければ春子に近づくな、と」
男は少し考え
「そうだっけか」
すっとぼけた。
腰に携えた刀の、柄の部分を握り親指を素早く動かし 抜刀する。
「この、俺の愛刀『獅子闘辛』の錆にしてやるぜ」
「ししとうがらし?あの唐辛子みたいなやつか?」
男は首をかしげるが、皇之介は相手をジッと見据え、刀を構える。
「やらないか」
静かに言った。
男は腕を組み斜に構え
「あのなあ、ニンジャごっこをやってる暇は俺にはないんだ。他所でやってくれ。」
鬱陶しそうに手をひらひらと振った。
「知るか。春子は渡さん!このくそみそめ!!!」
瞬時に間合いに入り、皇之助の刀が光る。
大きく下から振り上げ、あと少しずれていなければ相手の肉を斬れた。
「ほう」
男は感心した。
続いて突きを三発、すれすれで避ける。
「ここまでとは予想外だ」
少々楽しそうな男の胸に
「これで終いだ!」
皇之助は一太刀を浴びせた ・・・はずだったのだが。
「な、なん・・・だ・・?」
急激な眠気が襲う・・・
皇之介は、膝から崩れ落ちた。
男は見下ろし
「まだ意識があるのか?これも予想外だな。これがお前達が妖術だと噂しているものだ」
視界がグラグラと揺れる。
「春子・・・?」
なんとか振り返ると、春子も倒れていた。
「眠らせただけだ。この子には手荒な事はしない」
男は倒れて寝ている春子の顔をそっと覗き込んだ。
遠くから小走りで近づくゲタの音が聞こえる。
「リックハート!!ウチが説明するまで、待っててと言ったのに!」
乃亜・・・か?
これは一体なんなんだ。何が起こっているんだよ・・・。




