第十三話「人影」
床に倒れた蔵之介はピクリとも動かない。
わずかに残った客が「アァ・・・こりゃお陀仏じゃねぇか?」などと言い覗き込む。
乃亜は、赤い妖怪改め赤い恰好の西洋人、に聞いた。
「あんたが気を失わせたんじゃないの?・・・その、妖術で」
「俺は何もしてないぞ」
すると、蔵之介は徐々にいびきをかきはじめた。
どうやら酒が全身に回って寝落ちただけらしい(ほぼ失神と変わらないが)。
「ところでだ」
赤い西洋人は、乃亜に向き直り言った。
「ハルカのクローンはどこにいる?あと、俺の夕飯はいつ出てくるんだ?」
乃亜は、またもそっぽを向き
「クローンてなんの事?ウチは何も知らないよ。それよりねぇ・・・」
乃亜は眉間にシワを寄せて破天荒な彼を睨んだ。
「アンタがここに来て、どんだけの客が金を払わず逃げたと思う?どんだけの皿が割れたと思う?」
破天荒な男は表情一つ変えず
「さぁ?それよりハル・・・」
「ほんと、アンタって! どんだけぇーーーー―!!!」
いきなりの大声と共に、至近距離で鼻先辺りを指さされ 破天荒な男は軽く面喰った。
乃亜は声のトーンを落とすと
「出ていって。不審者として奉行所に突き出すよ?」
持前の気の強さで凄んでみせた。
「やれるならやってみたらいい。まあいいや。お前が口を割らないなら自分で探す」
破天荒な男は帽子を被り、角度を直しながら乃亜に背を向けた。
「ちょっとアンタ・・・」
スタスタと出口に向かい縄のれんをくぐり 破天荒な男(煽り属性)は消えていった。
乃亜が立ちすくんでいると、他の女給仕が話しかけてきた。
「あれが噂の人相書の・・・?意外と二枚目じゃない・・・」
乃亜はギョッとした。
「はぁ?あれが二枚目!?」
中肉中背、輝く金髪に落ち着いた青い目(たまに落ち着きすぎて冷たく見えるが)、丹精な顔立ちは、まるでどこかの皇族のよう。
(確かに白馬が似合いそうだけどねぇ)
無駄のない美しい立ち振る舞い、そして自信に満ち溢れた彼は常に堂々としている。
女性から好かれることも多いみたいだ。
(そういえば、ハルカも・・・あいつに憧れてたっけ)
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一方その頃。
春子は布団の中で何度も寝がえりをうっていた。
薄汚れた天井を見つめる。
「なんか、ねつけないなぁ」
独り言を呟く。
今夜は父親がいない。
「父ちゃんいないとねむれないよ」
成人男性の村民は、交代で夜中に村の見張りを行うことになっている。
頻度は大体ひと月に一度回ってくる程度だが。
皇之介は先ほど
「クソッ・・・!こんな時に!こんな時に・・・今夜は俺が見張り番だと・・・?」
と大げさに嘆いて
「春子・・・、父ちゃんに何かあった時は、これを・・・これを父ちゃんだと思って、強く・・・強く生きるんだぞ・・・!」
と、春子の手を熱く握り、家を出た。
「なんかあったときは、これを父ちゃんだと・・・」
春子は父に手渡された、金平糖を見た。
「よくわかんないけど、父ちゃんたべちゃお」
春子は金平糖を口に放り込み、父の代わりを情け容赦なくガリガリとかみ砕き飲み込んだ。
また、寝返りをうつ。
「ひつじがいっぴき・・・ひつじがにひき・・・父ちゃんがさんびき・・・」
もう一度寝返りうつ。
春子の視界は天井ではなく縁側に向けられた。
その時 春子は見てしまった。
月明かりのせいで、障子の向こうにうっすら浮かぶ人影を。




