97.警護たちの反目*
マサゴさんが引き上げるのと前後して警護の笹さんと打木さん、気更来さんと羽衣さんが移転の挨拶に来る。
「引っ越し、終わりました」
「同じく。シフトはどうすれば宜しいですか?」
「シフト……ってなに?」
「え~、六人態勢になりましたので三交代で二四時間警護できます」
あ~~。まあ、警護するならそうなるのか~。相変わらず堅いね、笹・打木コンビ。
「別に好きにすれば良いよ? 夜は必要ない。どっちかって言うと昼間もあんまり必要ないしね?」
館にいるうちは、警護の必要性を感じないんだけど。
「じゃ、じゃあ、私たちが~夜の警護を~いたしますぅ。むふぅ」
「いや、今言ったよね? 夜が一番必要ない、って?」
羽衣さん、鼻息荒くなに言ってんのさ?
「す、すみません。こいつ、夜になると元気になるんで」
「夜ならば我らが適任。寝所の護りなら任せてもらおう」
「うむ。その通り」
羽衣さんの自分推しを気更来さんが止めると、笹さん打木さんが立候補してくる。
「いや、寝床の番どころか夜は要らないデショ?」
「いえ、この半日お側にいて、夜こそお護りしなければと思いを強めました」
「そうです。御身を脅かす危難がすぐ側にあると感じました」
「そんな、大げさな~──」
「「大げさではありません」」
ずずいっと二人が迫ってくる……。圧が強いし暑苦しい。羽衣さんは爪を噛んでる。
「わ、分かったよ。今夜だけお二人に御願いする」
「ちょっと待った~! 言い出したのは私だよ? ぽっと出は黙っててもらおうか」
「ウイ、いい加減にしろ」って気更来さんが止める。
「何おう? やはり、こやつらは信用なりません。キョウ様、即刻! 解任をお勧めします」
「そっちのも、バディの手綱も取れんのか? 喜多村家警護の名折れだ」
「な、なに~?」
気更来さんがなじられると激昂する。なんでこ~なってんのよ?
「「キョウ様! ご決断を」」
「キョウ様、長──くもないけど仲良くやってきたじゃないですか?」
「ちょっと~、遅いよ」
しびれを切らしてタンポポちゃんが呼びにくる。後ろに歩鳥、斎木の二人も顔を覗かせている。
「ごめんごめん。夜番をするってさ~」
「あ~なるほど……。これは勝負で決めるしかない、わね~?」
勝負ってまた穏便にすまなそうな気がするんだけど?
「それって……」
「ゲームよ!──」
──やっぱり。
「──(脱衣)ゲームで勝負して勝ったものを夜番にすればいいのよ」
ほら、警護たちが困惑してる。それに──脱衣って幻聴がしたんだけど、気のせい?
「そ、それで、どんなゲームをするので?」
「もちろん、大富豪、しかないわ」
「「「大富豪?」」」
「そうよ。決まったら寝室に集合」
いや、勝手に決めないでよ。タンポポちゃんが寝室へ進んでいく。
「「「おう!」」」
警護たちもタンポポちゃんに続き、勇んで部屋の奥へ向かっていく。やれやれ。
「タンポポちゃん、警護たちを焚き付けてど~するのよ?」
「不平不満を吐き出させて今のうちに憂いを晴らしておくの」
「ほ、ほう……なるほど?」
う~む、一理ある、かも?
「では、始める前に。ルールは分かってる?」
「だいたい、は」
「知ってます」
また、ベッドのヘッドボードやサイドテーブルを探ってカードを取り出す。
ジョーカーを含めて五三枚でやるらしい。一番強いのはA。次にE、Q、J、10……最下位は2。
ジョーカーはAを凌駕し、ワイルドカードとしても使える。
「じゃあ、キョウ、シャッフルしてディール」
「え? うん」
ちょっと待ってよ。なんでボクまで参加してるのさ?
「これって一体?」
ことの成り行きが分からない護衛、歩鳥さんと斎木さんが声をあげる。
「キョウを賭けたゲームよ?」
「違う! 夜番──夜の警護の担当をゲームで決めるんだってさ」
「それって、我々も参加できませんか?」
歩鳥さん、斎木さんまで参戦したいとか。物好きにもほどがある。
「ダメ。誰が進んで夜の憩いを勤務で過ごしたいのかワケ分かんない」
カードを切って配り、手配を見る。まあ始めは札がバラけてるね。
「じゃ、キョウから」
「そう? んじゃ、ホイっと」
「あ! キョウ……あんたって大富豪、知らないわね?」
手札からスペード2を出したらタンポポちゃんに嘆かれた……。
「え? 知ってるよ」
「勝ったことは?」
「たまに勝つ、けど?」
「はぁ~~」
タンポポちゃんに盛大なため息をつかれた。なんでよ~?
そのため息の通り、あまり優位にゲームが進まず、なんとか平民で一回目を終える。




