95．湯あたり*
「やれやれ……よく分かんないけど、酷い目に遭った」
「分からぬなら酷い目では無かろう？」
「…………」
サキちゃんをジト目で見る。ちなみに黒メガネは起きてすぐ没収されました。ちくせう。
身体を洗い直してぬるぬるを落としてもらい、浴槽に向かう。
「タンポポちゃんたち、大丈夫？」
「キョウ、浮気もの……。今夜はお仕置き……する……」
「……する」
「そう……おしおき……」
お仕置き……イヤな響き。思い出してゾクっとする。まあ、それは置いといて。
「ちょっと～、のぼせてない？ 湯立っちゃってるじゃない」
急いでお湯から上げる。体じゅう真っ赤になってる。よく辛抱したね？
サキちゃんをにらむと、ぷいっと顔を逸らされる。
取りあえず浴槽壁の立上がりにもたれかける。
お風呂マットをシャワーの前へ。みんなを抱えて運びマットに並べると冷水を一通りかける。
首元へ順々にシャワーをかけながら身体の冷えるのを待つ。
「みんな、大丈夫？」
「気持ち、悪い～」
「わるい～」
「しぬ～」
「そんな事言わないの。でもなんとかなった、かな？」
しぬ～、なんて縁起でもない。
「もう大丈夫かな？ みんなもう上がろうか？」
「うん。上がる」
「……うん」
「うん……でも、動きたくない」
「分かった分かった。運んであげるから」
なんとなく皆がにへらと笑った。大丈夫そう、だね？
「わたくしもお手伝いします」
「えっ？ うん、ありがと」
サザレさんが手伝うと言ってくれる。頼ると快く引き受けてくれる。
「イヤ。キョウがいい」
「……キョウ」
「わたしも……」
「もう、大人はわがまま言わない」
「え～～」
「大人じゃない」
「ちがう」
こんな時だけ子供こどもしてくる、まったく。
「すみません、サザレさん。やっぱりボクが運びます」
「……そうです、か。お力になれず申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます」
一人ひとり、脱衣場に抱えて行ってはバスタオルをかぶせて身体を拭くように言う。
三人そろったところで、ちゃんと拭けてるか確認。まあ足裏とか指の間とかお尻とか腋とか、分かってたけど|大体いい加減。
一人ずつ拭き上げると下着を穿かせ肌着を着せる。まったく手間のかかる大人だ。
まあ、今日は仕方ないかな？
「今度は、キョウの番」
アリサちゃんを拭いてると一番に着たマナちゃんが身体を拭いてくれる。タンポポちゃんは、濡れた身体で拭いてくれる。
三人の身じたくを終わらせる頃には湯冷めしてた。
「私が着せてあげる」
「着せる」
「わたしも」
「ありがとう。でも、自分で着れるから」
断わるけど言うことを聞けと迫ってくる。まあ、いいか？
「キョウ様、介添人が着せるままに委せているとお考えください」
「はあ、分かりました」
サザレさんの言うように何ひとつ自分でできないんだった。
まあ、肌着はいいんだけどスウェットを着せられるのは骨が折れるよ。
「本来であれば、肌着代わりの肌襦袢一枚で寝所に向かいます。本番がどうなるやら分かりませんが本日の流れを思い出しご参考になさってください」
「ありがとうございました」
いいえ、と言うサザレさんと使用人の館へ移動する。後ろに護衛に警護にサキちゃんが付いてくる。
「キョウよ、わしに言うことがあるのでは無いか？」
「なんかあったっけ？」
「わしに風呂を知らせなんだじゃろ？」
「ああ、そのことね。謝ったじゃん」
「謝っておらぬ。〝あ、忘れてた〟では無かったか？」
「そうだっけ？ ゴメンゴメン」
「まったく、そなたはわしを何だと思っておる」
何だって言われても……ちっちゃい偉いさん？
「ん～～？ なんか偉そうな人？」
「プッ」
「もう良いわ……。そなたは見くびりすぎじゃ。サザレ、何がおかしい？」
「いえ、何も……」
「これからどーすりゃいいのかな～？」
「何がじゃ？」
「そりゃ、鬼君さんとやらが来るまでよ？」
「さあな。あの方次第としか分からん」
「ミヤビ様に聴いてみたら」
「ふむ……。確かに待つだけでは段取りが立てられぬの～」
そう言ってローブのポッケから携帯端末を取り出しにらめっこする。
「それでは、わたくしはここで」
「はい、お休みなさい」
使用人館でサザレさんと別れる。
「早くかけなよ？」
「分かっておる……」
ま～だ、サキちゃんは踏ん切りがつかなそう。
「もう本館に着くよ」
「うるさい……。心の準備をしておるのじゃ」
ミヤビ様って、相当怖い……のかな。まあ天上人の勘気に障ると首が飛びそうだしね、物理的に。
「今夜はどうしよう？」
「どうって？」
「みんなと寝るか、上で独り淋しく寝るか……」
「私たちと寝る」
「ねる……」
「うん、ねる……」
「そうだよね～。でもタンポポちゃんとこのベッドが小さい、んだよね～」
「……そんなことか──」
サキちゃんが携帯をにらんだままで言う。
「──上で眠れば良かろう？」
「えっ！ いいの？」
「誰も上で寝ることを咎めてはおらんが？」
急遽、みんなと眠れるようになった……。けど、吉報のあとは凶報が舞い込むんだよな～、なぜか。
