82.チャリ──なんじゃと?*
「『ピンポンパンポ~ン』ご来店の皆様にお知らせします。ただいま暴徒が店内に侵入しようとしております。落ち着いて階上へ移動をお願いいたします。繰り返します。ただちに買い物をおやめになり整然と──」
「くっ! 外は突破されそうじゃの~。キョウよ、煌国の存亡はそなたに掛かっておる。覚悟するのじゃ」
「そんな問題? なんか事を大きくしてない?」
「はっはっはー」
一度言ってみたかった、とぶっちゃけるミヤビ様。あのね~?
やむなくスリングを取って試着コーナーに籠る。
外では悪巧みが囁かれている。聞きたくないけど聴こえてくる。
「それで、キョウに着せてどう突破すると言うのじゃ?」
「神騎御輿で行きます!」
「おう! あれか?」
羽衣さんの言葉に気更来さんが解って感嘆する。なんだよ、チャリオットって?
「チャリ……なんじゃと?」
「意味わからん……」
「不双語でオーケー?」
歩鳥さんと斎木さんは理解できず不満をもらす。
「大雑把に言うと騎馬戦の騎手をキョウ様にやっていただく」
「大雑把っていうか、そのまんまだ」
「早くそう言え」
「それじゃ馬の頭が密着度が高くて不公平だ。それに三人しか支えられなくて一人あぶれるだろ」
「待てまて。誰が三人で馬をやると言った?」
「騎馬戦の馬は三人だろ?」
「機動力を高めるため四人で馬をやる」
「なるほど……それなら……」
「どっちにしろ頭二人が得じゃないか?……」
「……う~ん」
なんて低レベルな論争なんだ。それに騎馬戦って何。学校の体育祭とかでやるアレか?
「地の利で喜多村警護の我らが頭なのは当然」
「待て! お傍に侍る我らに頭は任せろ」
「そなたら、どうでもよい。それで突破できるのであろうな?」
「もちろん。キョウ様のお姿を目にしたものはその神々しさに吐血して戦意喪失すること間違いない! たぶん」
「「たぶん、かよ!」」
羽衣さんの言い分に歩鳥さん、斎木さんが突っ込んでる。吐血ってなんだよ! ボクって血を吐くほど見たくないってこと?
「ま、まあ、屋上に逃げてもジリ貧だ。キョウ様の威力でなぎ倒そう」
「仕方ない」
「是非もなし」
「破れかぶれ」
ちょっと~、いま看過できない言葉があったけど?
しかし、こんな姿を見せたからって威圧できるかな? むしろ呼びよせるんじゃあ?
姿見で確認する……。あ~、自分でもくらくらする。
「ほんとにやるの?」
カーテンのすき間から顔だけ出して訊いてみる。
着替えておいてなんだけど……。食い込んでるし、はみ出てるしスケスケだし……死にたい。
「ちょ、ちょっと見せてみよ──ふぐっおっ!」
「ミ、ミヤビ様?!」
倒れかかるミヤビ様を護衛が支える。
「何やってんです……うぐっ!」
「おいおい──ふぬぅううっ!」
「お前らオーバーなん──ぐはっっっ!」
「なんだよ~、ヒドい! 着替えさせといて!!」
ボクを見てみんなが倒れた。
「た、確かに……これは……最強……最終兵器。いや、完殺兵器、じゃ」
「そんなに~?」
こんな姿曝したんじゃ、ますます外を歩けなくなる。「あの」に「痴態」って付けられるよ?
「歩鳥、斎木よ。頭は任せる。とても我らでは……」
「ダイジョブか? 後ろを取ってもかな~りヤバめ、だぞ?」
「くっ。頭の行くに任せて付いていくだけだ」
「戸隠、角師。我らの露払いをせよ」
「はっ! 仰せのままに」
「御意!」
「我らも加えてください」
ミヤビ様が直参の護衛に勅を下すと、特殊部隊な人たちも加わると表明する。
「そうか、やってくれるか?」
「「はい! お委せください」」
「では、頼む」
護衛の二人がミヤビ様にひれ伏し、特殊部隊な人たちも倣っている。
やっぱ、やるんだ、ね?
「じゃ、じゃあ出るからアッチ向いてて……」
他所を向いたのを確認して試着コーナーから出る。でもコレって支払い終わって無いけど良いのかな~?
「斎木」
「おう! 歩鳥!」
「おう! やるぞ」
変な気合いの元、護衛の二人が並んで屈む。
「やるか」
「おうよ!」
その二人が後ろに伸ばした手を俯いた喜多村警護の二人が取る。
「じゃ、じゃあ……乗る、よ?」
「おう!」
「バッチこい!」
「や、優しくお願い、します……」
「いや、それはおかしい。まあ、いいけど」
「キョウ、きれい」
「キレイ……」
「ちょっと、写真を……」
「タンポポちゃん、やめて。見たら悶絶。いや、悶死できる」
「ちぇっ、一枚だけ」
一枚だけでもヤ~~!
「五神合体! 神騎御輿・ア・ゴー‼」
四人編成の馬に乗ると羽衣さんが変な掛け声をかける。
それもやめて?




