81.いずれボクは帰るから*
「あのね、来週になったらマキナお姉さんと新都に戻るからね? ビーチには行けないと思うよ」
「ダメ、キョウはここにいるの」
「妻は言うこと、聞く」
「行っちゃダメ」
「なぜ新都に帰る。こちらに居ればよい」
「学校があるし、家も向こうなんだよ?」
そんなこと言われても、生活ベースがあっちなんだから……。
新居はしばらく直らないから、どこかアパートを借りて住むしかない……かな?
「そう言えば避難してきたと言っておったの~。……分かった。こちらの学校に編入させるようにする。家も用意する」
「えっ?」
ま~た、ここにもムチャ振りする権力者がいたよ。
「心配するな、すべてわらわが良いようにしてやろう」
「いや、あのですね~。マキナさんもあちらに戻るようにしていると思うので……ですね?」
こちらに留まるつもりは無い。マキナが向こうに勤めてるんだし、そんなんじゃ分かれ別れじゃん。
「大丈夫じゃ、マキナとは愛友。わらわが責任をもってそなたを預かるゆえ、心配は要らぬ」
「だ、だめです。キョウは喜多村で預かります」
「そうそう」
「妻はずっといっしょ」
「キョウとは、ふうふの──」
またむくむくと膨らむイヤな予感に導かれるまま、タンポポちゃんとアリサちゃんの口を塞ぐ。
「……寝た」
「マナちゃん? 黙ろうか」
おっと、マナちゃんまで手が回らない。
「寝た、とはなんじゃ?」
「ふうふのイトナミ……」
「マナちゃん?」
ちょちょちょっ、マナちゃん、何言おうとしてるの……。
「お休みのキス」
「な、な、なんじゃと~!」
「ダメ、マナちゃん。それ以上は──」
「婦夫の契りをすませた、じゃと?……」
「ん~? すませた……ジゴ?」
マナちゃん、携帯端末を取り出し操作すると画面をミヤビ様とボクに見せつける。
「ん~! ん~!」
口を塞いだタンポポたちも携帯をいじってミヤビ様に画面を向ける。
「そ、その写真は?」
鉄の誓いとかで撮られたジゴ写真を画面に表示させている。
「なっ、その写真! そのトロけ具合。まさしく事後……。そなた、このような女児まで手を出すとは」
「いや、それはね? おままごとの、ね?──」
なんで人間は手が二本しか無いんだ。もっと手があったなら……あと六本くらい。
「いかん、いかんぞ~!」
「──聞いて、ミヤビ様?」
「かような歪な性癖はわらわが矯めねばならぬ」(✳️『矯める』……矯正する)
その時、突如キュイキュイと携帯が鳴りだす。
「──なんじゃ、こんな時に」
回りの護衛や特殊部隊な人たちまで不快な警戒音を発してる。喜多村の警護の二人はサングラスをいじってる。
「殿下、非常事態です」
「──どうした?」
ミヤビ様に付いてきた黒服が何か知せている。
「キョウ様、まずいです!」
「何? どうしたの?」
「モールの外に暴徒が。囲まれそうだと」
「なんで……あ! サガラ」
「そうです、ね? お昼のスポットで紹介されキョウ様がいると知られたと思われます」
「ど、どうしたら……あっちとの連携は?」
喜多村の警護も連絡を受けてたようだし、ミヤビ様も護衛と話してる。
「どうでしょう。包囲を突破するほど頭数は揃ってないでしょう。籠城覚悟で上に逃げましょう」
「う、うん。タンポポちゃんたち、外がたいへんみたいだから逃げるよ?」
外がダメなら、それしか無い……か?
「逃げる? どこへ?」
「ん~?」
「外がだめなのに、どこへ?」
「上よ!」
ボクは天井を指さす。
「喜多村家ではどう言って来たの?」
気更来さんに近寄って訊く。
「キョウ様を護りながら逃げろ、と」
「だから、どこへ逃げるってのよ?」
さあ? と首をかしげる気更来さん。困ったもんだ。
「ミヤビ様、連絡はなんです? 暴徒のことですか?」
「そうじゃ。逃げてどこかに隠れておれ、じゃと。まったく……」
ミヤビ様にも訊いてみるけど、そちらも打つ手無し、か?……
「あのね~? 最キョウ兵器がここにいらっしゃるんだから、突破できる、と思うんだけど?」
「最強兵器、が居る?……って、ど~ゆうこと?」
羽衣さんが、理解不能なことを言う。
「ほら……この装備をすればキョウ様は最キョウです!」
「……は?」
ボクの買い物カゴからそれをつかみ出す。何いってんの、この人?
「あ、私も思ってた……」
斎木さんが、唐突に口を開いて同意する。
「そのビキニで脳殺すれば暴女なんか防除よ!」
羽衣さんの持ったスリングビキニを指さす。
「…………」
悩殺が、別の意味に聞こえた……。脳をコロコロする的な。それとボウジョで韻を踏まなくていいから。




