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08.幸せの小箱*


 訪問ほうもん着をだん取りできたので、次ははだ着・下着(るい)だと、ランジェリーショップへ。


 若年じゃくねんそうは、*女と男の体型たいけいちがいが少ないし、ごく少数しかいない男性には専用せんようの下着がほぼ存在そんざいしないので女男にょなん共用(きょうよう)だ。


「これは?」


「ああ、いいですね」


「これは、どうだ?」


可愛かわいいです」


 キャミソール、タンクトップを中心に大人買いしていく、マキナさん。ボトムは、やたらとティーバックをすすめてきます。


 着物には、キャミソールとティーバックに長襦袢(じゅばん)を着ればいいと言われているので、ボクに拒否きょひはできない。


 その上、店のおくの方──ベビードールとかのセクシー系のナイティーが陳列ちんれつされているところでも、ごそごそしているので、夜に着せられちゃうんだろうな。


 ヒラヒラやスケスケしていないフツーのTシャツやショーツ・短パンをそっと買い物カゴに追加しておく。


 ちなみに、着物の店やランジェリーショップの支払は、携帯けいたい端末たんまつ決済けっさいアプリで済ませていました。ボクにもIDの取得と決済キーをあとでくれるとマキナさんは言っています。


 あと、新居の物理解錠(ぶつり)キーと携帯端末の論理ろんり解錠キーも忘れずに入れてもらわないとね。おちおち、家から外に出られない。



 袋一杯にして、次の普段着の店に。着なれたものが家にあるので、そこには用事がないと言ったんだけど、マキナさんはせっせと買い物カゴに放り込んでいる。


 その姿を横目に、ボクはお料理で使うエプロンを探す。ベビードールの近くに見かけたんだけど、あれは用途ようとちがうと思うので。



 普段着も買って一息ひといきついたので、お昼にしようと決めた。荷物は一旦いったん、車にむと言って一階のセーフハウスに連れて行かれる。


 そこにボクをあずけて、荷物を車に運ぶんだって。一緒いっしょに運ぼうと「ボクも運びます」と言ったんだけどゆずってくれない。


 就学しゅうがくくらいの子供たちがソフト玩具がんぐで遊んでいる。そんな中でボクだけが浮きまくっている。


 守衛しゅえい職員しょくいん? なのか、子守りの店員さんに気をつかわれてコーヒーの接待せったいを受けてしまう。


 のどかわいていたので助かったけど……。マキナさんとはなれると、なんだか心細い。



 一度、通ってしまったみち道筋みちすじがついて止められない。搾精さくせいでは感じられなかった幸せをともって心が温かくなる。


「なんだか温かくなってきた……」


 はからずも下腹をさすっていたら、ひざに手をいてのぞんでくる子がいた。


 何だろうと思って、にっこり微笑ほほえむと安心したのか膝によじ登ってくる。


「お膝にすわりたいの?」


 そう言っても返事せんじはない。無邪気むじゃきひとみがボクを凝視ぎょうししてくるだけ。


 そんな彼女かのじょかかえ膝に座らせる。でも、きが気に入らなくて身体からだをよじって、こちらに回転かいてんしようとしてくる。


「ああ、ごめんね?」


 あらためて抱え上げて向かい合うようにフェイストゥフェイスの姿勢しせいにしてあげた。


 機嫌きげんが直った彼女は、ひたすらボクの顔を見てくるのみ。


「早くママが来てくれるといいね」


 その言葉に初めて? 反応はんのうがあり、ボクに手を出してくる。


 何だろう。そのちっちゃな手を取ってにぎってあげると微笑み返してきた。


 その笑顔を見て熱い何かが心臓しんぞうから身体中に流れていき、背中をふるわせた。


 愛する人との結晶けっしょうを抱いたら、こんな幸せを感じるのだろうか?


 安心したのか、彼女は微睡まどろみはじめ、いつしか身体をあずけて眠ってしまった。


「眠っちゃったね……」


 彼女を起こさぬようにパイプイスから立ち上がりソファーに移動する。


 しかし、困ったな。マキナさんが迎えにきても移動できないぞ。


 なんて考えていたら、抱っこしているのを見つけた遊んでいる子の幾人いくにんかがってきて、抱っこしている子とボクを見る。


 なんとなく、うらやましい、とか思ってるっぽいんだけど、どうすりゃいいんだろう。


 なやんでいるボクとはうら腹に集まった子たちがにじり寄って膝に乗ったり、抱きついてきた。


「このオバさん、いいにおいがする~」


 その言葉がきっかけになって、遊んでいた子たちのほとんどが、こちらに興味きょうみを示してしまった。


 でも、オバさんはやめて。せめてお姉さんで、お願い。


「お前、オトコ……か?」


 そんな時、年かさの小学低学年くらいの女の子がいてくる。


「おとこってオトコ?」


「オトコって、こどもを作れる人?」


「ほんとにオトコ? はじめて見た」


 苦笑いして、ああ、なんて言いわけしようかと考えている内、矢継やつばやに訊いてくる女の子たち。


 これはマズい、と思うが後の祭り。わらわらと子供たちがオモチャを放り出して集まってきた。


「オトコなら、お父さんになって~」


「ダメ! わたしんちのお父さんにするの~」


「ボク──私、男じゃないよ。女だよ……」


「オトコだよ。ママと全然(ちが)う匂いがする~」


 子供でもギラギラした目付きでいさかい始めてしまった。どう突っ込むか悩むけど、せめてお兄さんにしておくれ。


 ようやっと、ボクの事態じたいを子守りの店員さんに気付かれたけれども手遅ておくれだった。


 抱えた子を片手でガードしながら、集まった子たちをもう片手で近寄らせないようガードする始末。


 店員さんはボクが男と曝露ばくろできずに、なだめすかして子供たちを引きがそうと苦心しているところにマキナさんが迎えにあらわれた。


「これはどういう状況だ?」


「まあ、なんと言うか……」


 あらましをマキナさんに告げた。まとわり付いてきていた子たちは、マキナさんと店員さんの努力のお陰で剥がしてもらえた。


 店員さんは、マキナさんとボクに平謝ひらあやまり。店員さんたちに瑕疵かしはないので「気にしないで」となぐさめる


 問題は眠りをまもった子だったのだが、買い物をませた母親が迎えにきてくれたので引き渡して事なきを得た。



 ちょうどお昼なのでセーフハウスをあとにすると、レストランに入った。


 フードコートにするのはない。人いきれでってしまいそうだから。


 エントランスで受付の人に何か話すと、座席ざせききを待つ人たちを後目しりめおくに通される。いわゆるVIP席と言うヤツですか?


 ここも喜多村家由縁(ゆかり)のお店なのだろうか。


 個室席に着くと躊躇ちゅうちょなくステーキセットをたのむマキナさん。ボクは……キノコたっぷりハンバーグセットにしておこうかな?


 食後、コーヒーで一息ついていると、居ずまいを正したマキナさんが口を開いた。


「急だったので準備していなかった……」


「はい?……」


 彼女にならって居ずまいを正すと、マキナさんはふところから青いビロード地の小箱を取り出し開けた。


「……あっ!」


 箱の中央にかがやくそれを見て、小さく感嘆かんたんした。


「手を出して」


 マキナさんの言葉におずおずと左手を差し出すと、その手を取ってくすり指にそのリングめてくれた。


「気に入ってくれるかな……」


「はい」


 ボクは返事して、指に嵌まった指環リングの三つの輝きに目をうばわれた。


 ピュアダイアとブルーダイア、イエローダイアの三色のダイアが三角に配置されている。


 その時は「すごい」としか感想がなかったけれど、なぜダイアが三つなのかをこののち知る。



※注:若い男性の股間には突起物がなく、割れ目の中に埋まっている。


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