72.とんでもない人たち*
邪魔しないよう少し離れて授業の様子を拝聴する。授業参観みたいだ。
女子も特に学習内容は変わらないよう。
暇なので、サキちゃんとリバーシとかしながら過ごした。
タンポポたちが、恨めしそうに見てるけど仕方ないじゃない。
小一時間くらいで休憩を入れてるけど、一回目の休憩のあと、マキナと連絡を取ってみる。
『まだ、残務があってな。やはり週末でないと向かえない』
「そう、……じゃあ、待ってる」
『ああ。じゃあ』
まあ、仕事なんだから仕方ない。
「キョウ、おしっこ……」
二回目の休憩、マナちゃんがおしっこと言いだす。
「わたしも」
「わたしも」
行ってきなよ……とは思う。でもマナちゃんがボクの手を引っ張る。
仕方ないと女児たちと一緒にトイレへ行く。ボクもトイレしたいのにマナちゃんに個室へ引き摺りこまれる。
「ちょっと、どーしてマナと一緒なのよ!」
「そうそう」
用足しが終わって個室から出ると、なんでマナと同室なのか問い詰められる。ここは黙秘しかない。
「いやあ、昨日の夜トイレが怖かったから、つい……」
マナちゃんも恥ずかしいのか黙っててくれる。タンポポちゃん、アリサちゃんは疑わしげ。
「ボ、ボクもおしっこ、しよ~っと」
冷や汗をかきそうだったので、個室に逃げ込む。
こんな古い館じゃシャワー洗浄は入れられないのかな~。まあ導入できても水分は拭き取らなきゃいけないけど。
三回目の休憩の時、開けっ放しのドアの辺りから人の気配がする。
そちらを見ると、着物姿やドレスを着た男性がこちらを窺っていた。
「なんじゃ、そなたら」
彼らにサキちゃんも気づいて問いかける。
「おやか──サキ様、まだですか?」
「まだ? ああ、出かけることか。まだ、昼も取っておらんではないか?」
「もう待ちきれません」
「待てずとも、待っておれ」
まあ、そうだけど、もうちょっと言い方。
「この館の男性、ですよね? 紹介してください」
「お? そうか。こっちへ来よ」
しずしずと三人の男性が入ってくる。
「はじめまして、蒼屋キョウと申します」
ボクは立ち上がって彼らを迎える。
「あなたがマキナちゃんの妻なのね~」
「ずいぶん、ちっ──可愛らしい子」
「マキナちゃん、いい子を捕まえたわね~」
気のせいかな~? 「ちいさい」って言われかけた気が……被害妄想だな、きっと。
「もう分かったと思うが、マキナの妻になったキョウじゃ。仲好くせよ」
「もちろん」
「うんうん」
「仲間が増えて楽しくなるわ~」
なんかすごく……軽いし姦しい。
「んんっ! 奥様がた、静かにお願いします」
授業中ですので、と田端クロユリ先生から苦情がきた。まあ、当然だよね。
「すみません」
ボクたちは、邪魔しないよう部屋の隅に行く。
「キョウ、こなたが花昌院尋幸。マキナの父じゃ」
「えっ? はじめまして……お義父様」
「まあ、堅苦しい。わたしは、ヒロって呼んでね? キョウちゃん」
ヒロさんは、墨染め? の生地に水仙が咲き乱れた留袖を御召しになっている。
「こなたは、伊藤妙笙。マキナの祖父じゃ」
「おやか──サキ様、ショウと呼んでください。キョウちゃんもそうしてね?」
「お義祖父様? はじめまして、蒼屋キョウです」
ショウ様は、青い生地にアヤメが咲き誇るの着物を着てらっしゃる。着物も若いけど容貌も中年で通用する若々しさだ。
「そして……こやつが、五條輝雪。マキナの曽祖父じゃ」
「は? 義曽祖父様?」
「ははは、若いでしょ? ユキって呼んでね、キョウちゃん」
「は、はい。ユキ様」
「もう、堅いんだから。ははは」
とても、ひいおじいちゃんの容貌じゃない。お義祖父様──ショウ様と変わらなく見える。
艶やかなドレスを御召しだ。
で、でも、ボクと身長が同じくらい……ちょっと負けてる、かな?
しかし、どーなってんの、ここ?
「ねぇ~、マサ──サキちゃん、早くモールとやらに行きましょうよ~?」
プッっと皆、吹き出す。何か吹き出すポイント、あった? サキちゃんは憮然としつつも答える。
「堪え性のないやつじゃ。もう二時間ほどあと、食事すれば出られる」
「食事も向こうで食べれば、早く行けます!」
「そうも、いかんじゃろ。屋敷で食事を用意しておるし、昼からとレンカも言うておるのじゃ」
「もう、昼からならお食事もできるでしょう? 屋敷のものたちも休めますよ」
「簡単に言うな。使った食材は? 出来上がった食事は? 昼と言うてもレンカは食事後、昼下がりからと言うておる」
「今夜、食べれば良いのです」
「出歩かず、食事するだけならお昼でも支障はないですよ」
「ぐぬぬっ……」
これは、紛糾しそう。




