59.部屋に泊まるらしい*
ボクも肌着を着けるとローブを借りて着る。
護衛の歩鳥さん、斎木さん、喜多村家警護の気更来さん、羽衣さんもお風呂から上がり着つけている。
さて、脱衣カゴに残る汚れものをどうするか?
借りたローブの近くにボックスがあり、そこには汚れものが容れられている。
濡れたタオルや下着類だ。
タンポポちゃんたちは、躊躇わず回収ボックスに放り込んでいる。
そこで回収し洗濯して持ち主に返すんだと思う。
ボクもボックスに放り込もうとして、躊躇った。
「このまま容れちゃって大丈夫かな」
タンポポちゃんたちは良い。おそらく持ち主は把握されていて戻ってくると思う。
汚れものを見るに、名前が書かれたものが見える。
それに対してボクはどうだ。今日来たばかりだし、名前も書いていないのに、果たしてボクに返ってくるかな?
護衛の皆に聞こうかと視線を移すと、着る手が止まっている。
こちらを見ている先は、ボクの手元かな?
みんなの目を観て……羽衣さん、斎木さんは目が泳ぐ。
歩鳥さん、気更来さんはそっぽ向く。
「ここはダメだな」
部屋に持ち返りランドリーで洗うか、専門のメイドさんにお願いする方がいい。
汚れものを懐にしまうと、がっかりする羽衣さんと斎木さん二人。
「さあ、部屋に戻ろうか?」
「「「は~い」」」
皆と手をつないで本館の方へ行こうとすると「そっちじゃない」とタンポポちゃんに止められる。
「皆の部屋へ戻らないと──」
「違う。キョウの部屋で『鉄の誓い』を立てるのよ」
誓い?……ああ、お風呂のあれね。そんなのどこでもいいじゃん。
自分たちの部屋で勝手にやってよ、とも言えない。
「サキちゃん、この子たちを部屋に連れて行って問題ある?」
「まあ、警護どもに連絡させれば良いじゃろ?」
不似合いなローブに身を包んだサキちゃんが近くにきたので訊いてみると、そう答えてくれる。
手には濡れたワンピースを持っている。まだ、お風呂入って無いよね? 入ってきなよ。
追っ付け護衛と警護も服を着てよって来ている。
「そなたら、この子らがキョウの部屋へ行くようじゃ。本館に知らせて来よ。よいな?」
「は、お任せください」
警護の気更来さん、羽衣さんが跪いて答えると、その足で脱衣場を出ていった。
「ちょっと~、サキちゃんってなにもの?」
「ここのエラい人、と思ってよい」
そう言い、薄い胸を張るサキちゃん。
「そうなんだ。じゃ、部屋に戻るよ~」
「そなた、わしの扱いが軽くないか?」
「ボクは知らないから、その辺の事情」
皆を連れて自分に充てられた部屋に戻る。
「タンポポちゃんたちはその『誓い』が終わったら自分の部屋に戻るよね?」
「戻るわけないじゃない」
「戻らない」
「……ない」
やっぱりか。ボクの部屋で寝る気、満々だね。
「じゃあ、朝の朝食とか、こちらで食べるって報せないとね?」
きっと、幼女たちも本館に戻らず、こちらで食べるって言うに違いない。
朝食をボクの部屋で一緒に取れるようにしとかないと。
「こちらのメイド長や警備担当にでも報せておけば良い」とサキちゃんに助言される。
「それじゃ、護衛の二人、分かる?」
その連絡を歩鳥さんと斎木さんに振ってみる。
「はあ、まあなんとか分かりますが……」
「じゃあ、歩鳥さん、斎木さん、連絡お願い。朝食はボクの部屋で子供たちと食べる。ボクも子供向けのワンプレート形式で良いので」
「あの~」と、後ろから声がかかる。
振り返って見ると、付いて来ている給仕のメイドさんが手を上げている。
「わたくしが、連絡して参ります」
「そうですか? では、お願いします」
「待て。わしもキョウのところで休む。朝食も一緒じゃ。伝えて来よ」
「畏まりました」と言って給仕の人は踵を返す。
「あの~、私たちは小間使いではないんですが……」
「そうです。私たちはキョウ様の傍にいないと……」
護衛の二人が異を唱える。
「ここで護衛がいる? 仕事なくてゴロゴロしてたくせに……」
「む……一理あります、ね」
一理もくそもあるか。そう言うのをムダ飯食らいって言うんだよ。
「ボクがちゃんと仕事を割り振ってるんだよ。暇でしょうに。感謝してよね?」
「感謝……ですか?」
「……やはり、喜多村家に染まってらっしゃる」
「何か言った?」
「いえ、何も……」
「言うこと聞いてれば良いことがある……かも知れない、んだよね?」
二人は顔を見合せ、色めき立つ。
「風呂場以上のことをしていただける、と?」
ボクは、にっこり微笑んだ。
あれは、したんじゃなく、ボクがされたんだけどね!




