42.喜多村本家からの迎え*
迎えを待ちながら、ボクはソファーに座ってコーヒーを飲んでいる。
なんか、パイロットの待機室みたいなところ。
半分は畳敷きで、残りはソファーが置いてある。
そこにはパイロットスーツを半脱ぎで寛いでる人たちがいて、じ~っと見られている。
正直、居たたまれない。
なんでこんなところに案内されたのか……。
居心地悪いので護衛の二人も隣に座ってコーヒー飲んでくれたらいいのに「護衛が任務」とか言って左右に立って待機してる。
「はあ~」
パイロットさんたち、表立って話してはこないけど、その衆人環視みたいな視線を向けられて地味に利いてきます。
早く普通の服を手に入れないと……。
針の莚状態が小一時間、やっと衛門に迎えが来たと報せてくれた。
スタンバイのパイロットたちに挨拶して部屋を出る。
報せてくれた文官──普通にスーツ姿の人に導かれて基地内を歩いていく。
「いったい何の晒しものだったの?」
「さあ? 牧野氏が後ろからヤったのはどんな男が見たかったのでは?」
そう言った斎木チドリさんの頭を歩鳥ミドウさんが叩く。
案内の人もこちらを見てくすりと笑ってるよ。
「私って牧野さんにヤられた事になってんの?」
「そんなワケありませんよ」と歩鳥さんが擁護してくれる。
「話題の人が見たかっただけでしょう」
「ああ~、その視線だったのか~……」
案内の人の言うことが尤もだろう。
ほんと、早急に服を着替えないと。本家に行く前に少しはちゃんとしないと失礼すぎる。
それほど多くない歩行者──大抵、紺の制服か青い作業着の人が行き交う基地内をゆく。
ボクと護衛の姿を見つけるたび怪訝と好奇の視線を向けてくる人たち。
衛門の近くまで行くと来客用の駐車場があり、そこにででんと黒塗りのリムジンが停まってる。
「また、あれか~」
そこで案内の人は返っていった。ボクはお礼を言ってリムジンの前まで進む。
ボクたちを認めて車内から黒服二人、運転席から一人出てきている。
「はじめまして、蒼屋キョウ様。喜多村家専属男性警護士・気更来サラサ」
「同じく、羽衣ウイです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。蒼屋キョウです」
挨拶を交わしたあと、運転手さんの開けてくれたドアから車に乗る。
「君たち、この車に乗せることはならん」
「はあ? 何いってんのさ。私たちはキョウ様の護衛なんだよ!」
「そーだそーだ! 乗らないワケにいかないだろ!」
だけど、そこで護衛の二人と喜多村家の警護士が悶着を起こす。
「は! キョウ様は我々がお護りして本家までお送りする。お前たちはお呼びじゃない」
「私たちは喜多村家直系継嫡、マキナ様から依頼を受けてるんだぞ? その意味を考えろ!」
「あの~、時間かかるなら歩いて行きますけど?」
もう、全然煮詰まらないのでボクはリムジンから降りる振りをした。
さすがに「それは困る」と喜多村の警護たちが折れた。結局、護衛たちは乗り込め車が発進する。
ボクの隣に歩鳥さんと斎木さん。正面、進行方向に背を向け気更来さんと羽衣さんの席順。
席順でまた揉め始めたので一喝した。まあ仲好くしてくださいな。
衛門をくぐって基地を出ると、空港と対岸に架かった連絡橋に向かって走っていく。
「あの、本家に向かう前に寄りたいところがあるんですけど……」
「困りましたね。どちらに行かれるのです?」
ボクが希望を告げると気更来さんが問い返す。
当然、本家屋敷に直帰する任務中だから生半可な理由では寄り道してくれないだろう。
緊張する場面なのに、ゆるゆるとウナギのタレの匂いが漂い始めている。
「服を誂えたいんです」
「まあ、確かに。しかし、それならば屋敷に服屋を喚べば良いのですよ?」
ボクの姿を上から下へ流し見ると気更来さんが答える。
「いや、そんな、とんでもない。そこいらの服屋で買えたらいいんで」
「とんでもない。そんな危険な事は看過できません」
「ちょっと、服を買うだけで危険とは言えないでしょう?」
何いってるの? 服を買うのが危険とは?
「ああ~、キョウ様はこちらの状況をご存じでなかったですね?」
「街中、グール・ウイルスが蔓延しておりそこらに男喰いがいるのです」
なんですか、そのグールとやら。そんなまさか~?
「だ、大丈夫でしょう。護衛が四人も居れば」
「どうしても、行かれます?」
「行きたいです。折角買ってあったドレスも訪問着も持って来れなかったですから」
「仕方ありませんな……」
諦めてくれ運転席に指示をだす気更来さん。
羽衣さんは電話してる。本家に遅れる連絡を入れてるのか?
通行止めのゲートを越えて連絡橋へ入る。
その橋は、桟橋様式の橋で通行を制限されている。荒天では通行止されるとか。
橋を渡って古都・蒼湖の街を走る。陽光の加減から北に向かっているみたい。
その先の山方面に走って行くと山裾にショッピングモール?……があった。




