41.戦闘機で空の旅*
『アイ、ハヴ』
機体は突然、右ロールして視界に地表が見える。
「いやぁ~、落ちる落ちる~!」
身体は座席から落ちる感覚で何か掴まろとするけど、何も無くて操縦桿に必死で掴まる。
『ヒャッハ~! 墜ちません。墜ちても十秒は飛んでます!』
「墜ちたら死ぬ~死ぬ死ぬ!」
『ベッドで言わせたい言葉、いただきました~』
「お前、降りたら、コロコロしてやる~!」
『ハッハッハッ。ぜひ、お願いしまっす~』
『二三五、遊び過ぎだ、羨ま妬ましい』
『キョウさん。牧野──二三五は、自分がコロコロします』
『三〇三、二七八。すまない、はしゃぎ過ぎた。まさか男の尻を持てるとは思わなかったからな。司令には感謝だ』
『籤運が良かっただけだろ』
『おい、良い加減にしておけ。周りに丸聞こえだぞ』
『まったくだ。こちら四〇コントロール。第四〇管区の監理を離れる。三〇三、二三五、二七八、第五〇管区の指示に従え』
『おっと。ラジャ、五〇の監理に入る。サンキュー四〇コントロール』
『もう帰って来なくていい、二三五』
『こちら、第五〇管区コントロール。四〇の監理を引き継ぐ。二三五は入って来るな』
『じょ冗談、キツいぜ』
『五〇コントロール、こちら三〇三。よろしく』
『こちら二七八、よろしくどうぞ』
『おの~、お話してますけど皆さん、どこに居るんですか?』
『ああ……三〇三は前下方、二七八は後ろ上方に縦列で飛んでますよ』
と言って、視界に機体の輪郭が現れた。さすがに後ろは見えないけど前方斜め下にそれが見える。
確かにその輪郭の後方には排熱で景色が歪んでいる箇所がある。
「あの視界──画面に浮かんでた三角形は味方を認識する目印だった、と?」
ゴーグルを着けてから前方に三角形が浮かんで見えていた。何かの目印だと思っていたけど、そう言う事だったのね。
『そうそう』
話を聴くとIVSによって機体の背景を取り込み投影するフィールドを発生して半不可視化させているらしい。
互いにリンクして位置情報を交換している、らしい。それを元に仮想画像をゴーグルに投影しているとか。まあ、分からん。
とまあ、雑談ありで退屈する事なく空を旅は続いた。
問題なく五〇管区を通り抜け、第六〇管区に入ると事態が慌ただしくなる。
海峡を越えると山の向こう、山に挟まれて巨大な湖が見え中央に空港が浮かんでいた。
『こちら、四〇五SQ・三〇三。六〇コントロール、BWKに着陸請う。腹と背中がくっつきそうだ。オーヴァ』
『こちら、六〇コントロール。三〇三、二七八、C滑走路に進入せよ、オーヴァ。二三五は拒否する』
『マジかよ? お客様が乗ってんだぞ?』
『くっ、仕方ない。二三五を最初に、他の機体は順次着陸を許可する。牧野は機体から降りるな』
『勘弁してよ……』
牧野さんの悪名は第六〇管区まで轟いてしまったようだ。合掌──自業自得だよ。
ボクの乗った機体が湖に浮かぶ空港に降りると、続いて姿を現した二七八、三〇三が着陸してくる。
本職は、スゴいね。三〇三機と二七八機は並んで降りてきたよ。滑走路も広くてそんな事ができたんだろうけど。
着陸すると牧野さんの指示でペダルを踏んで戻して細い誘導路を通りハンガー前の広場に着いた。
「ふう~、やっと着いた~」
『お疲れ様、愉しかったですよ』
「まったく、そうでしょうよ。でも……ありがとう」
人で遊んで。でも一時間しないで古都まで来れたのは感謝だ。それを告げてボクは戦闘機を降りた。
また、トラ縞のトラックに曳かれてハンガーに収まる機体を見ながら、ボクは奥の事務所へ連れていかれる。
こちらでは、控えめな歓迎を受けてロッカーへ案内される。
ロッカー室で懐からお弁当の塊やパジャマを出しパイロットスーツを脱いでいると、護衛ふたりの脱ぐのが目に入った。
二人は服の上からパイロットスーツを着込んでいた。
「ちょっとー。なんで服の上から着てたのさ?」
「「それが普通では?」」
こんな時までハモらなくても。
「じゃあ、ボクが脱いだのは間違い? 着替えなくて良かった?」
「そうです」
「眼福でした」
騙された。着替えろ、着替えろ、言うから、あのエロい人が!
てっきり、服を脱ぐんだとばかり……。
家に帰る時は、新浜松によってエロい人をコロコロしてやる、絶対。
がっくり肩を落として、着替えを済ませる。
もうなんか、肌着姿を二人に見せても動じなくなってるな、なんて思いながら、次は袋のガムテープを剥がしていく。
「やっぱり、垂れてる~」
懸念していた通り、ウナギ弁当のタレが漏れていた。
「携帯は、個別に包んでくれてたんだ。そこん所は偉いな、エロい人」
また、携帯端末機を緩衝材に包まれた中から取り出した。
「なんだ。電源は入れっぱだった……」
特に通知のない事を確認してロッカーをあとにした。
事務所でコーヒーをいただきながら、今後の予定を聞く。
喜多村の迎えを待って、その迎えの車で本家に向かうらしい。
「それまで、暇潰しに見回ることはできますか?」
「そんなに時間はかからないと思いますよ?」
「そうですか……」
そうそう来れないだろう、こんな場所は。見て回れないのは、ちょっと残念。




