40.戦闘機に乗るみたい……*
運転席? 操縦席に収まったボクにベルトを付け、管をスーツに付けていくエロい人。
「でかいな。ちっこいの無いか?」
ヘルメットを用意して頭に被せてくれるが……ぶかぶかだ。しかし、「ちっこい」の言葉が癪に障る。
「それで最小です」
「仕方ない」
「ああっ、それ……」
懐からボクのピンクのパジャマを取り出したエロい人。それをメットに詰めてくれ頭に着けてくれる。
ヘルメットを着けるとキーンというかヒューンというか、高音の雑音が退いた
「ちょっと、そっちも返して」
「仕方ありませんな」
まったく油断も隙もない。
ボクの前チャックを開けて、パジャマを突っ込んでくれる。
って、ちょっとぉ、胸、触ったよね今。
ついでに、お弁当の入ったコンビニ袋、ガムテープでくるぐる巻きにされたそれを渡してくれる。
それもあったね。でも狭すぎて置いておく場所がなさそう。
座席周辺を見回しもて余していたら、またしても胸に突っ込んでくるエロい人。善い事したように笑顔を見せるのは逆効果です。
「縦にしたらタレが滲み出ないかな?」
「後ろを預かる、牧野です。よろしく」
地上から若い女性が挨拶してくる。
後席に乗る人、運転手、操縦者か。
エロい人とはエロい違いだ。お胸も控え目で若い人。マキナと同じくらいかな? 二十代後半? アラサーだね。
「よろしく、蒼屋です。お願いします」
「牧野二尉、頼む」
梯子を下りて牧野さんに言葉をかけたエロい人は事務所? に戻って行った。名残惜しそうに……。
牧野さんが後席に乗り込むと、キャノピーが下ろされる。操縦席は真っ暗になってベルトが締まる。
お弁当はともかく、お菓子はダメになったよ。買うんじゃなかった。
ヘリコプターで優雅に景色を見ながら食べようと思ったのに~。
「真っ暗で何も見えない……」
『大丈夫ですよ』とヘルメットのイヤホンから牧野さんの声がする。
するとすぐにキャノピーに外の景色が映し出された。よく出来てる。
『ゴーグルを付け着けると、もっと見えますよ』
「おおっ……」
なるほど、言われる通りゴーグルを着けてみると後方を除くほぼ全方位が見える。
自分の身体も透けて空中に浮いてる感じだ。どうなってんの、これ。
噂に聞くVRってやつか? うち、貧乏だったので買ってもらえなかったんだよね。
子供の教育には良くないとも言われたし。
前下方にはトラ縞模様の小さなトラックが来ているのが見える。それが機体と繋げられると機体が前へ進み出す。
それに連れてハーフパイプを伏せた見た目の格納庫からボクたちは出ていく。
曳かれて広場まで出ていくとトラ縞模様の車が放れて戻っていく。
「もう、エンジン? は掛ってるのかな?」
『もちろん』
後席の牧野さんからまた助言がくる。
イヤホンからキュキュッと音が出る。
『南方海上にオブジェ出現。タゲと思われる』
『ラジャ。なる早で上がる』
「なんです?」
『単なる業務連絡ですよ』
とてもそうとは思えないけど。
『ちょっと練習、しましょうか?』
「練習……とは?」
『操縦の練習』
「それ、私に関係なくないじゃないですか?」
『そうですか? 自分が操作できないと貴方がやる事になりますが?』
「私が、やる事になったらもう終わってる気がしますが?」
『地上とキスするまでは諦めちゃダメですよ。ほら操縦桿を軽く握って、少し引く』
「はあ~、分かりました」
『ユーハブ』
「何です?」と聴くと『何でもないです』と返される。
言われた通り操縦桿を握って少し引く。
『そうそう。もう少し引いたら上昇の角度ですよ。次、中央に戻して前へ押す。こっちはもっと慎重に』
「こ、こう?」
『そうそう、それで下降します。次、真中に戻して、右に倒して』
「こう?」
『そう。すぐ戻して。つぎ左』
「こう?」
『そう。すぐ戻して。今、右ロール──右に転がってして停止、左に転がって停めました』
「は、はあ?」
『次で最後、右旋回。右足のペダルを踏んで、戻して。左旋回、左ペダルを踏んで戻して』
「これで良いですか?」
『いいですよ。じゃあ、タクシー──誘導路に出ますか』
「はあ?……はい」
『四〇管制、四〇五SQ・FD-一〇二・二三五機、離陸を請う、オーヴァ』
『二三五、Aランウェイ待機位置にて待機、オーヴァ。っせぇ~んだよ。なに乳繰り合ってんだ、おい』
『了解──』
カンセイさんとやら、心の声がだだ漏れです。それに乳繰り合ってません。
『──では、左を踏んでと言ったら踏んで。行きますよ?』
「はい……」
ヒィーンと音が一層大きくなると機体が進み出す。
そのあと、言われるがまま、ペダルを踏んで戻してをして細い道を通り滑走路の端っこらしき所に着いて進行方向を滑走路に向ける。
『四〇五SQ、二三五、離陸を許可します』
『ラジャ、離陸します。オーヴァ』
『ご安全に(怒)』って、また感情が出てる管制さん。
『引いてと言ったら、さっき引いた位置まで引いて』
「りょ、了解」
『いっき、まっす、よ~っと!』
そんなノリは要らない、牧野さん。きっと……。
一際、コーーっと音を立てて機体が走り出し、座席に背中が押さえつけられる。
『V1超過……Vr。引いて』
牧野さんの言葉で操縦桿を引くと機体が上に傾き、ふわっと身体が浮いた。
「飛んでる、飛んでる!」
『そうですね~、飛んでますね~。もう戻していいですよ。少ししたら……少し前に倒します……』
浮わついた声色の指示で操縦桿を戻したあと、牧野さんの次を待ちながら周りを見る。
ぐんぐん、機体が青空の中を上がっていく。脚があるであろう場所には、映し出された街並みと森林が小さくなっていく。
『キョウさん……今』と牧野さんの合図で操縦桿を前に倒して戻す。
すると水平飛行に移って、イヤホンから知らない人の声が聞こえる。
『二三五、こちら三〇三、敵機視認。見えてるか?』
『見えてるよ。対処は仲間に任せて古都へ飛ぼう』
『もちろんだ。自分の三〇三、二三五、二七八の縦列』
『了解。周囲、機影なし、IVS起動。キョウさん、右ペダル踏んで』
「はい」
言われた通り右ペダルを踏むと機首が右に向く。すぐ指示が来て、それを戻した。
「あんまり景色がキレイじゃないな~」
ゴーグル越しではコントラストが緩めで、しゃっきり見えない感じ。
『ふっふっふっ~』
牧野さんから含み笑いが聴こえてきて、おぞけがした。イヤな予感がする。




