39.マキナと、ひと時の別れ*
「……はい……分かりました。そちらに向かいます」
連絡が入ってマキナはヘリのハンガーに向かう。
それにボクも付いて行く。
「じゃあ、二人ともキョウを頼む」
ヘリコプターの前にマキナが立って護衛の二人にボクを頼んでいる。
「「お任せください!」」
二人が承知しましたと返事する。別れの際に、どうしてそんな元気なの?
「…………」
我慢できなくなったボクは、黙って物陰にマキナを連れて行く。
「何? どうした?」
ボクは黙ったまま、辺りに視線が無いのを確認するとマキナの首を抱きよせてキスをした。
「行ってらっしゃい……」
「っ! い、行ってくる」
それは、習慣となって来ていた分かれの挨拶。
「早く来てください、ね?」
唇の触れあう距離で言葉を交わして分かれを惜しむ。
「もちろんだ」
ほんの短い抱擁でボクたちは放れた。
そうしてマキナはヘリコプターに乗り飛び立っていった。
ボクの手にはマキナの携帯が残され、マキナには「ウナギ弁当」とお茶、「夜のパイ」の半分を渡した。
「こちらへ、どうぞ」
青い作業服の女性が、おずおずと寄ってきて案内してくれる。襟に階級章が付いていて防衛軍の人だろうか。
空港を端まで行く勢いで隣のハンガー群に連れていかれる。
そこには、宙の安全を護る航空機が並んでいる。ボクたちは航空宇宙防衛軍の敷地に入っていた。
その機体を眺めながら奥の建物に入ると青い制服を着た初老の女性が出迎えてくれる。
「ようこそ、新浜松へ。お坊っちゃん」
「ど、どうも。よろしくお願いします?」
お坊っちゃんて、なんかカチンとくる。
出迎えてくれた人はなんか胸にたくさんのバッジとかウイングマークを付けている。
襟には星がいっぱい付いてる。きっと偉い人だろうね?
お胸が育っていらっしゃるので、いいお年だと推察する。例外はあるけれど、お胸を見ると、大体のお年が分かる。
「飛ぶ準備はできていますよ。あとは貴方たちです」
そう言って、奥へ連れていかれた先はロッカー室だった。なんか嫌な予感で悪寒がする。
「ええっと、ちっこいのあったかな~?」
独り言を呟いているけど聴こえてるよ? 「誰がチビじゃ!」とは流石に突っ込めません。
そう言う雰囲気の偉い人です。
もしかして、チビ──じゃなかった(自虐)、航空隊には小柄な人はいないのかな?
「まあ、これか?」
そう言って渡されたのはサウナスーツみたいな服だった。
なんかどことなく宇宙服みたいな感じ? これがパイロットスーツって言うんだろうか?
「これ、着ないとダメ……ですよね?」
「もちろん」と満面の笑みで答える偉い人。
はあ~っとため息を吐いて、部屋に居座った偉い人に進言する。
「あの~出ていってもらえます、か?」
「大丈夫だ。──」
えっと、何が、大丈夫?
「──自分が居ないと着替えられないでしょう……」
まあ、確かに着なれている人に居てもらった方がいい、かもね? 果たしてそうか?
「ちょっと、恥ずかしいんですけど?」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ。皆、通る道だから……」
全然、意味わかんないけど、通る道って何さ? 仕方ないので渋々、パジャマを脱いでいく。
「あ、あの~。そんなにじっと観られると、ですね?……」
「さあ、早く。仮想敵国の航空機は3分で防衛圏内に到達します。速さが大事──」
スイッチが入ったらしい偉い人は、動作の早さを重要視した話をする。
それが止めどないので諦めて聞き流し、さっさと脱いで着替えていく。
ちなみに護衛の二人、歩鳥さんと斎木さんは着替え終わっていた。なんだかな。
素人でも着替えられているんじゃないの?
「『馬子にも衣装』とはこの事ですな~」
着替えたボクを見てひと言、そう言った。ほっとけ!
「裾は引きずり、袖から指先しか出ないとは……」とか付け加えられる。
言うな、チビとか! 言ってないけど。
「坊っちゃ──キョウ殿にパイロットはムリですなぁ~」
誰もパイロットになりたいとは思ってないけどね!
まあ、パイロットは小さくても大き過ぎてもダメらしい。と、エロ──偉い人が教えてくれました。
ボクは小さくて無理なので助かった。ジェットコースターみたいに大きさ制限があるとは驚きだよ。
ボクは百六十(実測百五十五センチ)もあるから、ジェットコースターなら乗れるけどね!
そこから、ハンガーへ向かうと非光沢で鈍色な外装の戦闘機の前まで連れていかれる。
「あの、これ戦闘機、ですよね~?」
「もちろん!」
「なぜ、そんなものの前に連れて来られたのでしょう? 旅客機とか、輸送機ですよね、普通」
「大丈夫。コレならいち早くお連れできる」
特等席に座らせてあげますよ? とニカッと笑い白い歯を見せる偉い人。
「あの、コレに乗って飛ぶんですか? 訓練しないと……。それ以前に適性検査とかして──」
「大丈夫。キョウ君は適性があると聴いている」
「ボク──私はその検査の記憶がありませんが?」
「大丈夫!」
ダメだ、この人。話を聞かない。
そう言ってる間にもリュックサックみたいなのを背負わされてるボク。
「さあさあ、乗った乗った」
前席に架かった梯子を支えて、乗るよう急かしてくる偉い人は笑顔が絶えない。
覚悟を決め、足をかけて登っていく……って、ちょっとお!
「独りで登れますから……」
ボクのお尻を支えてくれるエロい人。もう、エロい人で良いよね? 決定!
「大丈夫大丈夫」って、この人の言うことは信用ならん。
指を広げてお尻を包み込むように押してくる。確かに背中が重いので助かってるけどセクハラだよね? これ。
✳️本作に出てくる団体・人物は、架空の存在であり、実際の団体・人物とはいっさい関係ありません。




