32.病室では、ちょっと……*
ジュリ改めメイさんを追い出して、ベッドの傍らで着替えよう。
と言っても前を留めているヒモをほどいて脱ぐだけだけど。
マキナが脱がしにくるかと思ったら……、さっき買ったコンビニ袋の中をゴソゴソしてる。
何だろうと気を取られていると、中からストッキングを取り出した。
あの高いヤツね?
「それは?」
「夜は冷えるからな……」
病院内はまだ冬モードで暖かいから、って言うより暑いくらいだ。お陰で検査衣だけでいられましたよ。
そのストッキングを差し出してくるマキナ。って、もう寝る前に要らなくない?
それでも履けってことですね?
「ありがとうございます」と受け取ってベッドに腰掛ける。
袋から出したストッキングを履いていく。ちらっと横目で見るとマキナは満足そうだ。
あれ? これって着圧のヤツですね?
良く見たら医療用のストッキング、と言うかタイツだよ。高くて当たり前だった、医療用品ですから。
ええっと、横になってる時間が長くてエコノミー症候群になり易いのを防ぐヤツです。
それにしてもサイズが「S」か……。
誰がちっちゃいって「やかましい!」
既で奥歯を噛みしめて口に出さなかった、エラいボク。
百六十センチ(自称)のボク。百五十五センチ(正式測定値)って、四捨五入すると百六十だよね?
ストッキング改めタイツを履くとマキナが上から眺めていた。
その視線に「何?」と聴くと「なんでも」とはぐらかす。
また、着せ替え人形にしてたな。まだ、何かしら隠してる、物理的に。
後ろ手に何かを持ってるみたい。
特に何もしてこないから、ベッドから立ち上がって検査衣のヒモを解く。
すると、ずずいっと寄ってきてボクの溝をひと撫でした。
「ヒンッ……」と悲鳴をもらして腰が引ける。いきなり、何すんだよ。
マキナを睨んで見てるけど、彼女は人さし指と親指を擦り合わせていて眼中にない。
「もらしては……ないか?」
「……もちろん」
かなり焦った。ジョバってたら何、言われるか分からない。
でも……惚れるほど好きな人ができたら、どうしよう。マキナに言ったら許してくれるだろうか?
マキナ姉妹の共有物として、どこまで許されるのだろうか? 後で話し合った方が良いだろうな。
「まあ、いい。ほい、これ」
後ろ手に隠していたショーツとタンクトップを渡してくる。
「ありがとう」といって受け取った。
検査衣をさっと脱ぐ。マキナが手伝ってくると思ったけど、観ているだけだ。
一枚布みたいなものだから手間なんてなく、すぐだけど。
パッケージを剥がして中身をみると普通のものだ。まあ、院内で着けるのに変な肌着は置いてないか。
ショーツを穿いてシャツを着て、また検査衣を着ようとしてマキナに止められる。
「ちゃんと、用意してる」
検査衣といえど着ないとお布団、汚しちゃうよ? と思ってたら、ピンク色の服が入ってるパッケージを差し出してきた。
ボクもそれは買っているのを知らなかった。もらって見るとピンクのパジャマらしい。
そんなものまで用意してくれていたとは、いつの間に。
サプライズに隠して買ったの?
「ありがとう」
受け取ってありがたく着させてもらう。
「さあ、寝ましょうか?」
本当は、歯磨きとかしたいけど無いよな。そうマキナに言ってみた。
だけどすぐ様、高級病室なので、お風呂もトイレも完備してると解説してくれる。アメニティも揃ってるんだって。
「なんだぁ。折角、着たけどお風呂入ろうよ」
だったら言ってよ! って思うけど、そんな確認とかできる気持ちの余裕も時間もなかったね。
「ちょっとな……。夜9時くらいまでに入ってしまわないと、隣室に迷惑らしいぞ?」
なるほど、もう二十一時もかなり回っている。ん~仕方ないか。歯磨きして眠ろう。
ボクは、洗面所へ。マキナがジャケット、ズボンと脱いでいってる。
手伝ったらいいのかな? まあ、ボクは歯磨きしていよう。
「なんで、終わったら教えてくれない?」
カーテンから出たら、メイさんが噛みついてきた。知らないよ。
「ゴメンゴメン」と返したら不満顔だ。
「ボク、歯磨きして寝るから、ソファーで寝てていいよ」
「オレをソファーで眠むらせるのか」
「そうですよ。問題ある」と言いたいけど。
「ソファーじゃダメですか? そこしかありませんよ」って言いながら、洗面所へ。
「ソファーでは、護れない──」
もう、設定いいから。言い募るメイさんを無視して洗面所で歯磨きした。
身支度が済ませて、ベッドに戻るとマキナが既に横になっていた。
ボクもマキナの横に滑り込んでいこうとする。
後ろに纏わりついていたメイも同じく──ってオイ!
知らない間に脱いでしまってTシャツ、ショーツ姿になったメイが釣られてベッドに入ってこようとしていた。
「メイさん。ソファーへ、どうぞ?」
「そんな……。傍に居ないと……」
もうそれは良いから。マキナを見ると、苦虫を五十匹は噛んでるほど顔を歪めている。
「婦夫の場所なのでご遠慮ください」
「それじゃあ……」また護れないとか言って泣きそうになっている。
一周まわって可愛くなってくるから始末が悪い。
ああ~面倒くさい。マキナに向けて、どうにかしてと目と念話を送ってみた。
「変なこと、するなよ?」
そう言って意外にメイを許してしまったマキナ。
ええっ? 許しちゃうの。ボクが言える事じゃないけど。
「じゃあ、大人しく寝て、明日は学校行ってね?」
「お、おう! 分かってる」
なし崩しに同衾する羽目に。とほほ……。
まあ、女ふたりに挟まれて静かに眠れるワケもなく……。
「マキナ、擽ったい……」
「マキナとやら、不謹慎だぞ。ここは病室だ」
不謹慎で迷惑なのはメイ、あんただ。お腹と言うか腰と言うか、抱いてくるのはやめて。
マキナは良いんだよ。主人だから……。
そうして、ボクの上というか下と言うか、鍔迫り合いやってないでよ。
メイの纏わりつく手をマキナが剥がして戻しての応酬が果てしなく続く。
「もう全然、眠れない……」




