24.うちを内見されてしまう*
許可を与え終わって家に入ると、皆さんリビングに集まっていた。
赤井さんは、紅茶を給仕している。部屋に入ると護衛の二人は入口の門番よろしく仁王立ちして待機した。
「赤井さん、手伝います」
「とんでもありません。キョウ様はお席に」
あ、また様になっちゃったよ、仕方ないか。赤井さんが示す席にボクも着く。
「ええっと……」
こんな時どんなこと言えばいいの。時候の挨拶……じゃないな。皆の視線が痛い。
「ようこそ、いらっしゃいました。本日、与えました許可は一時パスといって恒常的ではありません。また、家の扉はオートロックとなっており──」
知る限りの注意を皆にしていく。ん~と、他に忘れはないかな?
赤井さんを窺ったら、小さく頷いた。
「では、人の家なんだから節度を持って……」
特にミナちゃんだよ、と言葉にしないけど彼女を見て言う。分かってる、って顔をして頷くミナちゃん。
釣られてタマちゃんも何度も頷く。本当かな~?
「じゃ、探検──お宅拝見しようか?」
紅茶を一気飲みしてミナちゃんが言う。本音が出てきてるよ?
それを見てタマちゃんも一気飲みした……が、火傷したのか、舌を出し大きく息を吸って冷やしている。なんだかな~。
「探検も探索もしないでよ? 赤井さん、私は部屋で片付けしていますから皆さんを案内してください」
「畏まりました」
「皆さん、くれぐれも赤井さんの指示に従って行動してくださいね?」
しばらく赤井さんに任せて、散らかしてもいないけど部屋をチェックして片付けなきゃ。
「分かってるって」と、一番怪しいミナちゃんが答えた。
一番意表を衝きそうなタマちゃんも頷く。
「任せておけ」と五条先生が請け負ってくれる。
「撮影はいいですか?」
新聞部──もはやパパラッチ部となりそうな文芸部の緋花さんが訊いてくる。
撮影はやめてと重々、注意しておく。
他の人も変な事をするか分からないけど、大丈夫だろう。
赤井さんに任せてボクは二階に上がる。
部屋に入って一息。うん、匂いはしない。
一応、ベッドをチェック。汚れとか染みとかもない。赤井さん、ありがと~。
私物をほとんど持ち込めなかったので、机や本棚には彼女たちの関心を引くものはない、はず。
問題は……クローゼットの恥ずかしい下着とかだ。まず、クローゼットが見つかり難いとは思う。
これは、設計士さんのお陰だろう。注文主のマキナか誰かのお陰かな?
しかし、隠蔽を突破される可能性はある。どうしてクローゼットがないのと、はじめボクも疑問に思ったし。
そんなところ、タマちゃんが変に鼻が利くので怖い。
しかしな~、見つけたからと言って、いくらなんでも、そんなところを家捜ししないだろう。
きっとそう。そう思いたい。
ミナちゃんがやりそうな気もしないでもない。かといって、全てを避難させる時間も場所もない。
一縷の望みに懸けて弄らない。クローゼットに入って整頓状況を確認、よし!
カバンは机の近くに置いて、皆の様子を見に行きましょう。
一階に下りて皆を探すと、プレイルームに集まって遊んでいた。
ドア横にふたりの警護士は立って部屋中の皆を視ていた。でもおかしいな。ボクを護るのに付いて回らずにいるって?
まあ、自室でごそごそするのを見られるのは居心地悪いから助かったけど。家の中ならボクは安全だからだろう……。
「特に問題ないですか?」
警護士のふたりに目配せして訊いてみた。
「ありません。今のところ平穏です」
「そうですか。ありがとうございます」
今度は赤井さんに近寄って訊いてみた。
「ええ。皆さんゲームに興じて平安ですね~。キョウ様の部屋に行ったらどうなるか不安ですけれど……」
「そうです、ね」
皆がビリヤードやダーツに興じている。五条先生は隅に置いてあるダンベルでトレーニングしてる。
先生、監督するって言ってましたよね? 自分の世界に入って全然、監督してませんが?
「キョウちゃん、そろそろ部屋を見せてよ。ゲームをしに来たんじゃないんだから」
「ベッド」
ボクを見つけてミナ・タマが手を止め聴いてくる。思い出さずにゲームをずっと続けていれば良かったのに。
「やっぱり見るの?」
「ったりめぇよう。なんの為に来たんだと思ってるんでい」
「てやんでいぃ」
いきなり、なんでべらんめえ調なの? 岡っ引きなの?
「まあ、そうだね。付いてきて。くれぐれも羽目を外さぬよう。人の寝室ですからね?」
再度、注意しておく。マキナに寝室を見せるなんて話してないんだから、バレたらどんなお叱りを受けるが分からないんだからね?
赤井さんが横で能面のように表情がなくなってるよ。護衛のふたりは……元々、表情を読みづらい。
「五条先生、お願いしますよ?」
「ん? 何を」
先生~っ! 皆を監督する為に付いて来ましたよね、と念押しする。
「ああ、監督。そう、監督するぞ。任せておけ」
全く信頼できない。赤井さんと二階に案内する。
「敷地も屋敷もそうだけどさ、家にプレイルームとか、どう考えても悪どいことしてそうだよね?」
「ちょーブラック」
ミナ・タマの二人が蒸し返す。
「だからさ~」
「主は、喜多村を統べる直系──」
「赤井さん!」
赤井さんが腹に据えかねて声を荒らげ言う。慌てて赤井さんを止める。
が、手遅れだった……。
「きたむら……喜多村ってどっかで聞いたよな……」
「理事長」
「水無月くん、喜多村を知らないの? うちの学園の理事長のみならず、色んな企業を持ってるキタムラよ?」
緋花さんの解説に皆、なるほどと納得して頷いている。
ずっと秘密にしておきたかったけど、こうなっては仕方ないな。
「この事は知られたくなかったので、口外禁止ね? ここで変な事すると首が飛ぶからね? 物理的に」
「こ、こえ~」
「やはり反社」
いや、違うってタマちゃん。
「なあ、部屋がいっぱいだけど、二人だけなんだよな?」
「そうだよ。あとで入居してくるかは不明」
「なら中を見てもいいよな?」
「ええっ?」
良いか赤井さんの顔色を窺ってみる。彼女は渋々頷いた。
「ちょっとだけだよ?」
赤井さんが空き部屋の前に立つとドアを開けてくれる。
「ほおぅ~。さっぱりしてるけど中々大きい部屋だな。ただそれだけ」
「必要充分」
「大きいけどよぉ、なんかこう……機能的だけで面白みがない、な?」
「キョウくんの未来の嫁の部屋、なんですね?」
マキナの部屋とほぼ同じであっさりしている。いつでも入室できるようにされているが、それだけの部屋。
空き部屋を見て満足すると、いよいよボクの部屋へ。
っとその前に、主人の部屋を見たいと駄々を捏ねる者、ふたり。
そこはダメ。絶対ダメ。ほら赤井さんは首を縦に振らない。
「黙ってれば分からないって」
あんたバカ? 密告・報告する者が二人は確実にいるのに黙って秘密にはできないよ。
あと、警護士の人間もマキナ側の人だ、きっと。
「職務上の秘密があるかも知れないから、本当に無理」
「お前ら、諦めろ。こんな事で物理的に首を飛ばされたくないだろ?」
「はい、もう僕の部屋だよ、行くよ。くれぐれも(略」
「ふぉああああーーーっ! すげえぇえええーーーっ!」
部屋を見た途端、バカが大声を上げて駆け出しベッドにダイブした。頭、痛くなって額に手を当てる。
「ムフゥ~ッ!」
珍しく……も、ないか。いつも物静かな細美人が感嘆して部屋の中に進んでいく。
やっぱり、こうなると思ったんだよ。誰だよ、連れて来たのは?
「……ボクだよ!」
また、自分に突っ込んでしまった。




