202.サキちゃん大激怒!
『大したことで無くば、「秘密を共にする仲」とは言わぬ』
「秘密を共にって大げさな。『くさい仲』って臭い所に一緒に居たってことじゃないの?」
『そなた⋯⋯、何を言っておるのだ?』
「いや、その、トイレで連れションを⋯⋯」
尻すぼみに小声で言う。
あ~、ダメだ。陛下と二人並んでお花摘みする情景が思い浮かんだ。なんか真艫に考えられなくなってる⋯⋯。
『くさい仲とは秘密を共にする仲間じゃ。何か、陛下や奥殿・聖殿の秘密を見知ったのではないか?』
「いや、そんなことは⋯⋯」
『奥殿での見聞きや気に留まる何かがあったのでは無いか? よもや破壊など、してはおらぬであろうな?』
「あ⋯⋯。いや⋯⋯」
破壊と聞いて思わず口をつく。
あれは『くさい』あとだから⋯⋯、関係ない⋯⋯よな?
『──あ、とは何じゃ? 聖殿の御物でも壊したのか?』
「いや、あの、その⋯⋯」
『──何じゃ、はっきり申せ』
「逃げる時に聖殿のセキュリティに侵入して、ちょこちょこ〜っと⋯⋯」
『⋯⋯⋯⋯』
サキちゃんの沈黙が長くて怖い。
「あの~サキちゃん?」
『──このバカものが~~! ✕✕✕が✕✕✕✕! ✕✕✕を✕✕✕✕!⋯⋯』
早口で捲し立てて叫ぶので、何言ってるのか良く分かりません。兎に角、怒り心頭なのは分かった。
『──はあはあはあ⋯⋯。あちらには、そなたらが侵入したのは露見しておるであろうな⋯⋯』
「⋯⋯おそらく?」
『うむむむむ⋯⋯。キョウ、そなたは病気じゃ。怪我でも良い。こちらに戻り蟄居せよ! よいな?』
「え~~?⋯⋯。チッキョって何?」
『はあ~~~⋯⋯。そこからか⋯⋯』
屋敷に閉じ籠って外出できないことです、と笹さんが教えてくれる。
『──分かったか? ただちに! 帰って! 謹慎せよ! よいな?』
「なんか納得できないけど、分かった」
まあ、良かったのか? 聖殿に戻ったら、ぜ~~ったい、帰れなくなってたよ。
『納得できずとも、するのが其方のためじゃ』
その一言で通話が切れる。
「はああ~。今からモールに、行ったら、ダメ、だよね~?」
笹さんに端末を返して訊く。沈んだ表情で笹さんが首肯する。
「それで、モールに行くんですか? 行かないんですか?」
運転席の気更来さんが確認してくる。
「ダメみたい。このまま⋯⋯」
「──モールには行く。キョウ様には喜多村の体面を保っていただかねば。そうだな、笹」
断ろうとしたら、黙っていた打木さんがモール行きを勧めて、笹さんに同意を求める。
「うむ⋯⋯、そうだな。打木の言う通りだ。モールへ向かう」
「了解」
笹さんが同意して、目的地はモールで決まり、そのまま車は進む。
「良かったの?」
ロードノイズだけが聴こえる車内で、笹さんに訊く。直帰しない判断について、だ。
「構わないでしょう。帰り途で少しばかり寄るだけです。でも少々問題が⋯⋯」
「問題?」
「服飾エリアの開店まで、まだ間があります」
「ああ~」
走り続けてモールに着いても9時前後らしい。服飾エリアに立ち入れるのは10時、夏は9時になるらしいけれど、まだ時期じゃない。
地階の食品売場は、7時半から出入りできるけれど。
「じゃあ、行っても買い物できないんじゃないの?」
「まあ、そこは裏から強引に」
「ひえっ⋯⋯」
体面を保つためとは言え、手段が非道なら、体面を保つ意味がないのでは?
「ご心配には及びません。キョウ様はキタムラモール、創業家の関係者。オープン前に立ち入ったとて、何ら問題ありません。むしろ、一般客が居ない方がキョウ様にとって好都合です」
「ああ~、なるほど」
ボクが一般客に交じる方が、店や一般客を混乱させるだろうね。
モールの社員用駐車場に車を駐め、社員通用口へ向かう。
インターホンで守衛室に連絡、事情を説明しようとしたのだが⋯⋯。
守衛さんは、ボクを覚えていて大歓迎された。
守衛さんの娘さんがボクのファンだったっけ?
「キョウ君──すみません、キョウ様には確かパスを与えていたはず⋯⋯。はい、登録されていますよ」
キョウ君呼びは、娘さんのボクの呼び名が伝染ったらしい。謝られたあと、ボクの登録は生きていると教えてくれる。
だけどね〜、論理キーを受けている携帯端末が手許に無いのよ、とほほ⋯⋯。
その辺の事情を説明して守衛側で開けてもらう。
社員エリアからエレベーターで二階に上がり、服飾エリアのバックヤードに入る。そこで品出し中の女を捕まえ、責任者を呼んでもらう。
現れた責任者は、見覚えのある女だ。
「ええ~っと⋯⋯。ま、ま⋯⋯、牧村さん?」
「良く覚えておいでです。牧村です。それで本日は朝早く、どうされました?」
「こんな形ですので、外面を良くしたくて。ついでに下着も」
両腕を広げてジャージ姿をアピールする。
「はあ、その案内をせよ、と?」
「いいえ。フロアに立ち入る許可と営業時間外ですから決済のお手伝い、ですか?」
はいはいと、牧村さんは何度も頷き手を打つ。以前の手続きを思い出したようだ。
「分かりました。どうぞ見回ってください。御用の際、また呼んでいただければ参ります」
「ありがとうございます」
「では⋯⋯」
あっさり商品の品出し・整頓に牧村さんは戻っていく。
さて、どうしよう? もうワンピースはいいな。パンツスタイルで行こう。
ハンガーラックには夏を先取りしたリネンシャツが並ぶ。
生成りからパステルカラーまで品揃えもばっちり。
籠を片手に見回り、気になる服をそれに放り込む。気づいたら籠いっぱいになっていた。いつの間にか無頓着に籠へ容れる悪癖がついている。
「どうされました?」
籠へ放り込む手が止まったボクに羽衣さんが、聴いてくる。
「いや、着替える一着で良かったのに気づいたら知らずに籠に容れてて……」
夏用に準備しなきゃと思って、つい。
「いいじゃないっすか、夏物」
「そうですね~。気になるなら手に取って、あとで取捨すれば良いだけです」
羽衣さんが勧め、気更来さんもそれに乗る。
「それもそうか⋯⋯」
「「そうです、そうです」」
どうして、同調する? 笹さん・打木さんは苦笑いしている。
「じゃ、じゃあ、次はパンツ」
ボトムスの*什器から適当に見繕う。
(什器:衣服の陳列棚。ハンガーラックも含まれるんだったか⋯⋯)
いっぱいになった籠は、空の籠と交換して笹さんが持ってくれる。お陰でパンツも籠いっぱい⋯⋯。
だぼっとしたバミューダとか、七分丈のパンツとか、折角だしショートパンツ、ホットパンツ、キュロット、ペチパンツなどなど。手当り次第に近い。
ヤバっ。集め過ぎた。次は下着か⋯⋯。
無難にキャミソールとショーツを一着づつに自重する。
「たったそれだけですか〜?」
「いいでしょ? 着替えるだけだし」
「そう、ですか⋯⋯」
なんで残念そうなのよ? 羽衣さん。
一旦、試着コーナーへ行き、その前で取捨の品定め。
なぜか、まだ呼んでもいないのに牧村さんがやって来る。それに、どうしてかカメラ──本格的なヤツを首にぶら提げている。
「お決まりになりましたか?」
ずいぶん多いですね~と、ふたつの籠を眺めて言う。
「いえ、どれにしようかと適当に籠へ容れてしまったので」
「気になったならば買いましょう! 衣服との出合いは千載一遇、一期一会です!」
「そうですそうです」
なぜか、牧村さんの口がよく回る。それに気更来・羽衣両人も強く勧める。
ボクには、宣材一遇って聴こえたよ。一期一会? そこまで言う?
「それに、下着が一着づつは残念です」
「「そうそう」」
羽衣さんの言い分に、牧村・気更来さんが唱和する。笹・打木の両名は苦笑いしてるよ。
「アウターは兎も角、下はこの前、充分買ってるから」
「そ、それは⋯⋯そうですが⋯⋯」
「「残念⋯⋯」」
ボクの言い分に、羽衣さんは抗弁しようとし、牧村・気更来両人がまた声を合わせて落胆する。
「ま、まあ、アウターは買います。夏物は準備しないと、と思ってたので⋯⋯」
「それは良い判断です。では⋯⋯」
籠から下着一対を取った牧村さんが差し出して試着コーナーを指す。
「──着替えてください」
「え? でも、精算が?⋯⋯」
「そんなものはあとで良いのです!」
タグだけ回収してチェックしますからと牧村さんが強請ってくる。
「「そうですそうです」」
なぜ、そこまで同調する? 羽衣・気更来の御両人。
「ま、まあ、そこまで言うなら⋯⋯」
下着を持って試着コーナーへ入る。奥殿の赤いジャージを脱ぎ、ビスチェを脱ごうとして⋯⋯脱げない⋯⋯。
これって、ひとりじゃ着も脱げも出来ないヤツ。サザレさんたちに着付けてもらったから失念してたわ。
「着替え終わりましたか?」
着替えたのを見計らって牧村さんが訊いてくる。
「それが⋯⋯。ひとりで脱げなくて」
笹さんに脱ぐ手伝いをお願いする。
羽衣さんが「自分が⋯⋯」と立候補するけど、そう言うと思って笹さんにお願いしてるの!
「衣服のことなら、わたくしが!」
羽衣さんの尻馬に乗って牧村さんも言ってくる。
だ・か・ら、ボクが指名してるのに自分を推してくるかな〜?




