197.護衛たちの忠言
「護衛たちに説明して参ります」と陛下の下を離れ、ミヤビ様たちの居なくなったドアまで行き開く。
外ではミヤビ様や笹さんたちが話し合っていた。
「笹さん──」
「キョウ様、今夜はここに泊まるとは、どう言うことですか?」
「──それね。夜、遅いので泊まって、朝帰れば良いって、陛下が。部屋を用意されてるみたいだから、笹さんたちも休んで」
「納得できません」
ボクも納得できないけど、堪えてよ。
「そうなんだよ。でも、サキちゃんもマキナも……、泊まってくれば良いって……」
「そんな……薄情な。強制ではないのです。我々と帰りましょう」
笹さんたちは、帰ろうとしてくれるのに、家のみんなは止めてくれないってどうなの?
「でもね、陛下のご意向に家のみんなが反対しないんじゃ仕方ないよ」
「キョウ様が、お可哀想すぎます」
同情してくれる護衛たちが甚く嬉しい。
雲行きが怪しくなったミヤビ様は、退散していく。
「別にお話してお慰めするだけだから、取って喰われるワケじゃなし。みんなも休んで」
「それは……、あわよくば、食べるお心算です、きっと」
声を顰めて打木さんが言う。釣られて護衛たちが集まり、ミヤビ様の護衛勢と距離を取る。
「食べる? いや、食べはしないよ? 野獣や鎮守の主じゃあるまいし」
心ならずもボクもこしょこしょ喋る。
「はあ~……、そうではなくですね。キョウ様、食べるとは、女が男を…………」
耳に口を寄せゴニョゴニョ、食べるの意味する喩えを教えてくれる。
ひや~、食べるってそう言う暗喩だったのね。
「まさか、陛下も良人のある身。そんなこと考えてない、と思うけど?」
「甘い! 甘すぎます。どうしてミヤビ様の他にお子がいらっしゃらないと思います?」
「さあ、授かり物だから巡り合わせが悪かった、とか? 激務ですれ違い、時間が合わなかった、とかじゃない?」
人様の家庭の事情なんて知るワケないよ。
「少し正解です。殿下を成すため、大層励まれたと聞き及びます。その所為で皇配※は……」
ゴクリ……。皇配って連れ合いだよね? その方がどうしたって?
(※皇配:女帝の配偶者)
「──ダメにおなりに」
「ダメって、それ、どう言う意味?」
「夜の営みがダメになった、と真しやかに言われております。殿下がお生まれになってからも努力なさったそうですが……」
「ご苦労なさったと?」
「──胸が膨れました。」
「胸が? 確かにローブの上からも御立派だと分かる。陛下の血の片鱗がミヤビ様にも窺えるけど。それが?」
「──お姿を見るのも忌避されるように成られて……。随分とご無沙汰なのです」
「ああ~、そう言う……」
一般的に男は、胸の大きい人を嫌う傾向があるね。それに反してボクは……。
「──キョウ様は、その、胸の大きな女をあまり厭って居られない様子」
「まあ、世間一般ほどでも無い、と思うけど?」
「──何事に於いても、そこに触れてはなりません。ましてや物理的になど以ての外。キョウ様が大きい胸を厭わぬと分かろうものならば……」
「分かろ……ならば?」
「──聖殿、すなわち煌家に取り込まれてしまいます」
「ああ、それなら大丈夫。ミヤビ様がご出産の暁にはホフ?とか言う姥の職位を賜る予定だから」
「はあ?……、何ですか、それ」
あれ? 初床の時、お子のお世話が出来るよう、ミヤビ様にお願いしたけど、笹さんたちは居なかったっけ?
「──それで、ミヤビ様のご懐妊は報告されたのですか?」
「それは、なんとか回避できたよ。単なる体調不良と思われてる、たぶん。でも……」
「──でも? 何ですか?」
「朝には典医って言うお医者さんに診てもらうらしいから、その時、発覚するかも」
「──時間の問題ですか。決してキョウ様からご懐妊に関わったなどと仰らないでください」
「それは、勿論」
「──苦渋の極みですが、しばらくお傍を離れます。宜しいですね? 決して大きい胸は気にならないと察知されませぬように」
「……分かりました」
笹さんたちは、宿泊する所へ連れて行かれた。
ボクは、部屋に戻って陛下の下に。勧めるに抗えず、陛下の隣に座る。
それからマキナとの出会いや、喜多村でのミヤビ様の様子など当たり障りの無いよう話す。
「座っていると腰が痺れる……」
「激務でお疲れなのですね」
「そうだのう。娘が羨ましい」
そう言い、腰に手を当てさすったり、体を傾けたりする。
「──普段、腕の挙げ下ろしもせぬからの、肩も凝るのじゃ」
そう言って、背伸びに合わせて両腕を伸ばす。おお……、伸びに合わせてローブを押し上げるお胸様が如実になる。
「執務では、肩に負担がかかるのでしょうね?」
「そうなのだ。朝の勤めの後、棒っきれを振っているのだがなあ……」
両腕を振るたび、ぶるんぶるんと震えるお胸様に目を奪われそうになる。ここは気付かぬふりだ。
「陛下は、武術の覚えも、お在りなのですね?」
「──そうだのう。文武に携わらねば人の上には立てぬ故、嗜む程度じゃが……」
「それは……、不断の研鑽に頭が下がります」
「──それ程でもない……。時にそなた、肩や腰を揉んではくれまいか?」
「……えっ? それは……、下賤なるわたくしが玉体に触れるなど、畏れ多ございます」
「──卑下するでない。余と其方に何の違いがあると言うのか? いや、在りはしない」
「しかし……」
「──この凝りが解れれば、すっきりと快眠できると思うがな。頼む」
そう言うと、ボクの右手を両手で包み込んで陛下は頭を下げる。
「お止めください。頭をお上げください」
「──頼む」
手を引こうとしてもびくともせず、困ってしまう。
「分かりました。不慣れでございますが、陛下の請いならば是非もありません」
「──そうか。ぜひ、頼む」
ソファーから立ち陛下の後ろに回る。陛下は、ローブをはだけ両肩を曝す。
「では、参ります」
「うむ」
薄衣を纏った肩に手を当て揉んでみる。これは……固い。すっごく凝ってる。
「ふう~~。んふぅ~~……」
「い、如何です、か?」
「はあぁ~、堪らぬ。これは好い」
「そう、です、か?」
首すじから肩へ順に揉む。力を入れるたび、びくびくと陛下の体が震える。かなり効いているみたい。
陛下の悶える声を聞きながら揉み解していると、ドアの方から呼び掛ける声が……。
「客室の準備が調いました」
「予定変更じゃ。寝所を調えよ」
「失礼します……。あの、寝所、で、ございますか?」
ドアを開け隙間から覗き込み侍女が訊く。
「──そうじゃ。此方はキョウと申す賓客じゃ。マッサージが秀逸でのう、寝所で揉んでもらう故、速やかに用意せよ」
「畏まりました」
侍女さんは、怯えたように飛ぶように退く。
「キョウよ、済まぬが腰も頼めるか?」
「はあ……。この際、腰もお揉み致しますが」
「よし、移動じゃ」
そう言うや、立ち上がり部屋中を移動して入口とは別のドアから隣へ移る。そこには巨大なベッドが据えられた寝室だ。
侍女たちがベッドを整え、香を焚いていて甘い薫りがする。
「少し減光せよ。すぐに休む。キョウに寝間着を」
「「「畏まりました」」」
「えっ、えっ、え~~っ?」
腕を抱える侍女たちに抗えず、部屋の奥へと導かれて行く。
小さなドアに着くと、その向こうはクローゼットになっている。
「あの、これは一体?……」
「閨※に相応しいお召し物に致します」
(※閨:ねま。寝室)
年かさの侍女が答え、若い侍女に素早く着物が脱がされていく。
あまりの速さに抵抗する隙もない。
脱がされた衣は、年かさの侍女が抱えてまとめている。
「浴衣ではない。キョウ様はお若い。スウェットになさい」
「はい」
若い侍女が浴衣を手に取ったところ、年かさの侍女が変更を指示する。
下着姿に剥かれたボクにスウェットが着せられる。あっと言う間だった。




