180.直営レストラン
「さて、四階のバックヤードから出るのが安全か?」
「そうですね」
「…………」
マキナと護衛、主に笹・打木・気更来の相談するのを聞いて待つ。
「では社員エレベーターで上がるか」
話がまとまる。やはり裏から回るみたい。
役員室の前からエレベーターのところまで戻って乗り込む。
四階まで上がると美味しい匂いが漂っている。銘店裏の廊下を通って職員通用口から店内に出る。ちょうどトイレの横。
「直営店はどこかな?」
「こちらです」
マキナは、笹さんに聴いていたみたいだけど気更来さんが即座に応じて先導し店内を進む。む、いつかどこかで見たようなカフェ・レストラン。……サキちゃんたちがお茶してた店かな?
「いらっしゃ、いませ……」
「六名だ」
「しょ、少々お待ちください」
「ん~? 席に案内してくれるんじゃないの?」
「さあな」
出迎えてくれたウエイトレスさんが慌てて奥へ引っ込んでしまった。
「開店直後で準備がまだとか?」
「準備がまだなら開けないだろう?」
「ん~~?」
それもそうか……。
すぐにウエイトレスさんが帰ってくる。
「お待たせしました。こちらへドウゾ」
「…………」
「何か緊張してる?」
「また、お前のファンじゃないか?」
「まさか~、そんな感じじゃなかったよ?」
「…………」
「こちらの席にどうぞ。ご注文が決まりましたらお呼びください」
奥の六席に案内してくれ彼女は足早に戻っていく。
「お昼には早いし、取りあえずコーヒーかな~?」
「うむ……そうするか……」
「みんなは?」
「では、わたくしも」
「同じく」
「コーヒーでいいです」
「コーヒーで」
「じゃあ呼ぶぞ」
マキナがコールボタンを押す。すぐにウエイトレスが来る。さっきと別の人だ。
ボクたちは、ドリンクバーを頼んでカップを受け取り各々注ぎに行く。
「これから食事して帰るだけ?」
「帰るだけだな。他に何かあるか?」
「いや別にないけど……。あ、制服用意しないといけなくない。あと文房具とか?」
「あ~、外の制服か……。しかし、まだどこに行くかも分からんのだろう。文房具は買って帰ってもいいが」
「それじゃ、食事のあとは買い物ね」
「笹、どう思う?」
「気更来どうだ」
「まだ問題ない、です」
マキナ→笹→気更来って、伝言ゲームかよ。
「笹、気更来に丸投げせずメガネに慣れないとダメじゃないか?」
「は、鋭意訓練中であります。今しばらくお待ちください」
笹さんに聴くのって訓練みたいなものだったのか。
「さて、なに食べる?」
コーヒーで一息ついたあとマキナが訊く。
「マキナは?」
「私か? そうだな~……ステーキかな」
「へ、へえ~──」
そう言うんじゃないかと思ってたよ。まだそんなに重いのはダメだと思う。仕方ない。
「──それじゃあ……ボクは春の七草がゆ、にしとこうかな~」
「おいおい、そんなものでは、大きくなれんぞ」
余計なお世話だ。確かに近ごろ成長が乏しい、けど……。
「「──ぶふっ」」
なぜか気更来さんと歩鳥さんが吹いた。きちゃない。
「じゃあ……リゾットも追加で」
「お前、そんな水みたいなものではダメだと言ってるんだよ」
ムカッ、ここのところ〝そんなもの〟を縁にマキナは凌いできたと思うんだけど?
「ボクはこれでいいんだよ。笹さんたちは?」
「スタミナ定食にします」
「月見ハンバーグセットで」
順に護衛たちが料理を決めていく。
「それじゃ呼ぶよ?」
コールボタンを押しウエイトレスさんを呼んで注文する。注文内容をタブレット端末に入力すると彼女は下がる。ちなみに、また違う人でした。
「お待たせしました。蒼湖牛フィレステーキセットでございます──」
順々に料理が運ばれて配膳されていく。ウエイトレスさん総出のよう、三人だけど。お昼前だから手空きなんだろう。
「──ご注文は以上です。よろしいでしょうか?」
「「「ごゆっくりドウゾ」」」
「それじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
お粥をひと掬い食べる。うん、美味しい。さてマキナは?……
「……うっ」
「マキナ、どう?」
「脂の匂いが、な……」
だと思ったよ。
「はい、あ~ん」
リゾットをひと掬いマキナに差し出してみる。
「それはお前の」
「いいから、あ~ん」
「あ、ああ……っ!」
口に含んで咀嚼すると目を見開くマキナ。
「美味しい? はい、あ~ん」
「う、うん」
「ステーキと交換しようか?」
ふた掬い食べたところで提案する。
「いいのか?」
「いいよ」
もちろんマキナが食べられなかった時のために注文したんだから。
リゾットとステーキを交換して食べた。回りから生温かい視線を浴びていたけど気にしない。おまけにお粥もマキナに提供しましたとも。
ボクは、ステーキでお腹がいっぱい。二百グラムはあったんじゃないかな~? 無理やり口に放り込んで食べました。