175.中央駅駅地下
「では出発します」
全員が乗り込みワゴン車が走りだす。
まったく……護衛が居なけりゃ姉妹を見送ったあと、マキナと二人きりのドライブが楽しめたのに……。
もしかしたらムフフなことが起こる可能性もあったのに……まあ仕方ない。
喜多村のお山から街に出てビワ湖横断道に乗り、対岸の蒼湖中央駅に向かう予定……だろうな~。
たまには、別のルートも行ってみたいよね~。今日は見送りだし、時間の制約もあるので無理だろうけど。
予想通り湖畔まで到ると横断道のゲートをくぐって湖上を進む。空港のインターチェンジをスルーして対岸へ一直線。
横断道を降りると湖南の市街地に入り大通りを通って蒼湖中央駅に向かう。駅に着く手前で地下駐車場に入る。
入場ゲートでチケットを取ると、あとは自動案内に運転を委ねて構内を車が進む。指定位置で車が止められると下車し、近くの通路で徒歩で駅に向かう。
「駅まで三百メートルだって」
「そうだな」
「地上に出たらダメなの?」
「ダメではないが目立つからな」
「地下だと景色が見えなくて退屈だよ」
「仕方ない。どうせ地下にもぐる」
「リニアの線路って、どれくらい深いの」
「さあ。三十メートルくらいじゃなかったか」
う~ん、なかなかマキナと話が続かない。
カエデさんたちに生温かい目で見られながら駅への地下連絡道を進むと鉄の隔壁ドアに突き当たる。
「ふわぁ~」
ドアを抜けると地下商店街の通路に出る。
「あっちだな。キョウ、行くぞ」
地下通路と違って明るい照明とタイル張りの壁、並ぶお店を眺めて佇んでいるとマキナに急かされる。
マキナの歩みに追い付き並んで歩いていく。朝で歩行者はまばらに行き交っているけれど必ずボクたちを見ていく。
警護にガードされていれば異彩を放つのは仕方ない。
「すぐにネットで拡散されますね」
「拡散?」
「キョウ様は時の人ですから」
「あ~~」
「早く見送り、帰らないとな……」
無情なマキナの呟きが聞こえる。
「え~? ちょっと、商店街を回って行こうよ」
「今の時間は、準備中ばかりですよ? 開いていても喫茶店とか軽食とかしかないです」
「確かに……」
シャッターが降りているか、室内が真っ暗な店ばかり。
「こんなところで囲まれると脱出が困難ですね~」
「血路を開きながら進むとしても……」
笹さんと打木さんが物騒なことを言っている。
「──キョウ様(少年K)中央駅地下街で発見」
「──中央駅に向かう模様 蒼湖から脱出か?」
「なにそれ?」
後ろを固める気更来さんと歩鳥さんが呟いてる。
「早速、呟かれてます」
「え~? 数人とすれ違っただけだよ」
「いえ、後ろにも居ますよ。いえ、見なくていいですけど」
そう言われて振り向いて確認までしなかったけど、距離を空けて歩いている女性は視界に入っている。それほどは早く歩いていないので追い越されても不思議じゃないのに。
「昨晩のアレ、視聴率60%台だって」
「は?」
「──性懲りもなく蒼湖五條銀行に蝟集する市民たち 少年の着衣が目的か?(ネットニュース)だって……」
「なにそれ?」
「──関連記事:少年Kの着衣(下着)ネットオークションで爆騰」
「──関連記事:下着にン千万! 転売ヤーは死すべし……その通り」
「キョウちゃんのプレミアを売るとか、考えられない」
「──関連記事:【市況】キタムラ・モール売上好調を受け、持ち株会社と共に高騰・年初来高値……だって」
「もう調べなくていい……」
「調べてないよ。お薦めしてくる」
「叔母はウハウハかもな……。おっと改札だ」
さすがに駅前だと人の往来が多くて、みんなボクたちを見てくる。居心地が悪い。
携帯でパスして駅構内に入ると、エスカレーターに乗って地下に下りていく。
「──うっわ! キョウちゃん、地下に突入。リニアで新都に帰還か? だって」
「情報、筒抜けだね」
筒抜けだね、じゃないよ。堪らず振り返ったら後ろの人が視線を逸らしたり目を伏せる。
もう、携帯のカメラを向けてこないだけマシか。
「キョウ、気にするな」
「気にしたくはないんだけどね」
「もう、アイドルになっちゃったしね」
「アイドル、って……」
「顔出しで実名が分かってる男子っていないから」
「何とかならないかな~?」
「無理だな。喜多村、挙げて喧伝しているからな……」
マキナが顔を伏せ自虐的に言う。ボクは、ずっとマキナのものだからね?