173.マットプレイ
「マットなんて要らないよね? シャワーだけでいいんだけど……」
マットを見て後込みする。これ以上お湯を浴びたらふやけちゃうって問題じゃない。前に何されたか分からない不安感があるから。
「まあまあ、そう言わず」
「マットで洗うの見てみたいんだよね~」
「新都に帰る前に見たくて」
「たぶん見たからって大したものじゃないと思うよ?」
無駄と思いつつカエデ姉妹に抗ってみる。風呂には暗くない程度の紅い明かりが灯っている。紅くなった表情に欲望に染まる目がぎらぎらしてる。
護衛のみんなも同じように見詰めてくる。
これ、アカンやつや~。さっきのお風呂で曖昧に流しちゃったから? 余計に期待させちゃったのかも。
「さあさあ、横になってください」
「ちょっとちょっと」
お風呂マットに仰向けに寝かされる。
いつもは、なだめ役の気更来さんが率先してるのも不可解。どうしちゃったの?
「これこれ、塗りたくって」
ブラックボトルのボディーソープを羽衣さんが身体にかけてくる。
「ああ~、この匂い。そそられる」
「キョウちゃんの匂いとこれって最強かも」
みんなが掌でボクの身体にソープを塗りたくってくる。
「ふぅ~、お先にゴメン。いただきます~」
羽衣さんが覆いかぶさって身体を重ねてくる。
「見ててください。こうやって~」
斎木さんまで乗ってきて、身体を使って洗ってくる。
「今は二人ですが四人でやると……」
「……ああ」
「なるほど……勉強になる~」
いや、そんな勉強は要らないから~。これはタンポポちゃんたちに見せられないわ。
「おい、そろそろ、お嬢さんたちに譲れ」
「ちぇ、しゃーないな~」
「興が乗ってきたところなのに……」
「ご、ごめんね」
「あ、ありがとう」
羽衣・斎木さんが退くとツバキ・カエデさんの二人の乗ってくる。羽衣・斎木の二人は腕に移って洗ってくる。
「キョウちゃん、新都に帰るけど、すぐ戻ってくるから」
「うん、きっと卒業して、こっちに来るから忘れないでね?」
な~んだ。これは、護衛たちのカエデさんたちへの粋な計らい、だったのかな?
「う、うん。忘れないよ。お待ちしています」
「「キョウちゃん!」」
そのあと、感極まった二人にめちゃくちゃぬるぬるされた~! それを見ていた護衛たちに、もっとぬるぬるされる。
簡単に絆されないよう思い止まろうと反省した、次からは……きっと。
「どこにも居ないと思ったら……」
ふらふらになって部屋に戻っていると笹さんが出迎えてくれる。気づくの遅い。
「これは、その、壮行会」
「新都に戻るお二人を元気づけようとして、なあ?」
「「そうそう」」
「はあ~、キョウ様は大事ないですか?」
「まあ、何とか……」
本当に何とかなった。表を洗ったら裏も洗うのは当然。前を終わらせると後ろもセットだった。むぎゅ~って圧死するかと思ったよ。
「もう遅い。さっさと眠れ。お嬢様たちもお休みください」
「……はい」
「お休みなさい」
「申し訳ありません。やつらの悪巧みに気づけず」
笹さんに抱かれて部屋に戻りながら謝られる。
「いいよ。ボクも思わせ振りだったかも知れないし」
それに、カエデさんたちには良い思い出ができたかもしれないし……。
「笹さんって……」
「……そう、だよな?」
付いてくるカエデさんたちが何か呟いてる。笹さんがどうかした?
二人は、リビングの仮設ベッドで床に就き、ボクは寝室に運んでもらう。
「ありがとう……」
笹さんと別れ際、引寄せてキスをする。ほっぺにほんの軽く、だけど……。
「……は?!」
「お休み」
笹さんの異変に気づくことなくベッドに横になりボクは眠った。
朝、すっきり目覚めなかった……よ。
「おはよ……」
お陰でマキナからの熱烈キスで目覚める羽目に。
「お前にしては寝起きが悪いな」
「昨日、頑張ったから……ひゃひゃっ、くすぐったい」
本当のこと言ったら脇腹をくすぐられた……解せぬ。
「早く顔、洗ってこい」
「は~い」
重い身体で起き上がる。ローブだけ羽織ってリビングを抜ける。
「「おはよう」」
「お、おはよう、ございます……」
カエデ姉妹はもう起きていた。当然か……。ちょっと気まずい。