171．レニ様、おかんむり
「帰還したならば、なぜ顔を見せに来ぬのです？」
「ああ～」
一緒に出かけなかったんだから、帰ってきたら挨拶するべきだったね。
「レイニ様、キョウが疲れておりましたので、つい失念しておりました。申し訳ありません」
「──申し訳ありません」
マキナと共に謝る。
「まあ、良いでしょう。さあさあ、行きますぞ」
「え、どこへ」
「我らの部屋に決まっております」
レニ様に腕を取られ引きずられる。
「あ、いや、これから予定が……」
「行ってこい。殿下によろしくな」
そんな～。
エレベーターに逆戻り、五階に上がる。
「義兄上、心配しましたぞ？」
「え、ああ……お気遣いありがとうございます」
部屋に向かう道すがらレニ様が聴く。拉致事件は知らされてるのかな？ どっちだろう。
「一日、顔を見せぬと殿下も寂しがっておいでですぞ？」
これは、事件を知らなそうかな～？
「え～、いろいろありまして帰参の挨拶が遅れていたのです」
「ウソです、ね。あのまま眠りに就くところだったでしょう」
ギクッ。鋭い。
「そ、そんなことありません、よ」
「お勤めを一日休んだのです。今宵は確りやりましょうぞ」
「──お勤め……って」
「子作りに決まっておるでしょう」
「ですよね～」
五階の自室に入り応接室を通り抜ける。
「ただいま戻りました」
「こんばんは～」
「義兄上……」
ボクを見たミヤビ様の顔が曇り、部屋の雰囲気が一気に悪くなった気がする。腕を取るレニ様が脇腹を肘で突いてくる。
「え？ あ……ただいま戻りました」
「よくぞ戻った。変わりないか？」
「はい、もちろん」
「それは僥倖。時間が勿体ない。始めるか」
「さあ、参りましょう」
「え、え、どこへ？」
我ながら愚問だと思うけど。ミヤビ様に続いてレニ様に引きずられ奥へ進む。
「褥に決まっております」
ですよね～。
「一日分を取り戻さねばなりませぬぞ♪」
「そ、そうですね～（棒）」
一時間ほど、ふぉーめーしょんを確認しつつ新しい体位も試してフィニッシュ。
「義兄上、一日休むと身体のキレが悪いですぞ」
「いや、それは……スミマセン」
拉致されて仮死状態だったからとか言えない。
「では、三階に戻られませ」
「え？ よろしいのですか？」
「勤めが終われば自由といたしましょう。そちらの家族もいるのですし」
「はい、ありがとうございます」
レニ様って子作りに真摯に向きあっているだけなのかも。
「戸隠、義兄上を送って差し上げよ」
「ははっ！」
「──ヒッ！」
びっくりするよ。いつから居たの、白い人。認識阻害とか使ってるんじゃなかろうか？
「お休みなさい、義兄上」
「お休みなさい、レニ様、ミヤビ様」
手早く身繕いすると寝所をあとにする。
「キョウ様、お手を」
「ありがとう──」
「戸隠、義兄上に触れるでない」
「ははっ」
「いいじゃん、手をつなぐくらい」とも言えず、戸隠さんの後ろを付いて行く。
「ここは？」
自室を通り過ぎて疑問に思っていると、見覚えのある部屋の前に止まる。まあ、分かるけど聞いてみる。
「三階の風呂です。汗をかかれたことでしょう。シャワーで流された方がよろしいかと」
「なるほど」
戸隠さんの言う通りローブと下着を脱いで浴室に入るとシャワーを浴びる。
「お背中、流します」
「はあ？ 結構です。出ていってください」
「そう言わず、洗うのは得意です」
それは知ってますけど。何、勝手に入ってきてるのさ。
「お触り禁止。レニ様が言ってたでしょ」
「こんな機会しかお傍に寄れない気持ちを察してください」
「それってどんな気持ち？ よく分かんないけど」
「ご奉仕したくても近寄れない、切ない気持ちです」
「わ、分かりました。ちょっとだけ、ですからね」
よく分からん、けどストーカー体質なのは分かった。ふたりっきりになると危ない人だ。素直に従っておこう。
「いかがです？」
「まあ、いいです……そこは背中じゃないんですけど」
「背中だけではもの足りません。脚が凝っておいでですよ」
「そうですか？」
「そうです」
息を荒くして下半身をマッサージしながら流してくれる。話が違う。
「何か疲れた」
「それはいけません。どこかで全身マッサージを」
「もう部屋で寝るだけですから結構です」
濡れた身体を拭いてもらいながら呟いたら、まともに受け取られた。
そういうところが疲れるって～の。
