表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/184

17.会社侵──訪問*


「ちっこいのに仕事できるか?」


 作業着のひと不躾ぶしつけにボクの身体を見回して、そうつぶやいたあと、「名前は?」とかれた。


 ムッとしたけど正直に答えるとIDカードに記名して渡してくる。


()屋じゃなく、あお──」


「何?」


「何でもありません」


 名前、間違えてるよ。いいけどさ。


 どうやら仕事にきたバイトとかとボクを間違えてるみたい。


「作業着はそこから選んで。作業は先輩に聞きながら一緒にするように」


 と、何もかも一方的に進めて、その人はロッカー室から消えた。まあ、好都合こうつごうだけど……。


 一々、人の姿を見て「ちっこい」って付けるのは、やめてほしい。容姿ハラスメントでうったえますよ。


 去り際まで「ちっこいのに……」とてゼリフみたいに言って行ったし!


 まあ、潜入せんにゅう成功? マキナ、会社のセキュリティが心配だよ。



 作業着があるロッカーから着られる物を探す。みんなMサイズ以上だった。


 仕方なくMの作業着をパッケージから出して身体に当ててみた。案の定、ぶかぶかだよ。


 ジャージをいで通学カバンにしまい、作業着を着ていると乱暴らんぼうにドアがひらかれ人が入ってきた。


 ヤバいと思ったけど、気にしていない風でなるべく落ち着いて着た。あわてると余計に恥ずかしい。


 慌ててボロを出さない限りは、見てくれは女子と変わらない姿だから男と判断できないはず。


 着終わってドアの方を見たら作業服のケイト先輩が呆然ぼうぜんとしていた。


「ど、どうしてここに?」


「えっと、作業しにきました?」


「そんなワケないだろう」


「ですよね~。なんか廊下ろうか歩いていたら作業員と間違われて」


「いや、そんなことじゃなくて、だな……」


 ちょっと主任に文句もんく言ってくる、とか言う先輩をなだめて止めた。


 サプライズには持ってこいなので、先輩には協力してもらおう。


「で、作業ってなんです?」


「普通に清掃とゴミ収集。あと備品の交換がたまにある」


 ケイト先輩は、作業経験がかなり長そうだ。作業内容を聞くとチビのボクでもできそう。


 誰がチビだ。やかましいわ!


「な、何?」


「いえ、なんでもありません」


 おっと、自虐じぎゃくみが、つい口からほとばしっていたっぽい。


「いや、初めは似てると思って。でも、お前が居るはずないと思って……つい」


 じっくり確認してました、と先輩にあやまられて話がもどる。


 何だろうな~と思うけど、確かに確かめようとするか~……するかな?


 そう思うなら確認は、着替えたあとにしませんかね~。


 ほら、こちらも凝視ぎょうしされてて恥ずかしがれないじゃん。


 恥ずかしがると余計に羞恥しゅうちしんにくるからね。


 今日はマキナの好みでヒモとカップつきキャミソールを着けていたのですよ。


 そんな姿で学校に送り出す旦那マキナもどうかと思うけど、着けるのに抵抗がなくなったボクもどうかしてますね。


 思い出させないでください。まさに穴があったら入りたい……。って言うか、


「もう忘れてください」お願いします。


「スマン」


 また謝られて気まずいまま、もう二人のおばちゃんと作業にかかった。


 清掃道具をそろえた作業カートをいて各階を回って行く。


 モップを押してき掃除、ゴミ箱に残った書類は周りの人に確認してもらってからシュレッダーにかけて集積袋に回収する。


 机の上は絶対(さわ)るなと念押しされる。まあ、乱雑らんざつみ上がった机様は片付けたくなるけどね。


 かねてより仕事はしたかったので、楽しく清掃に入る。男のバイトって、基本ないんだよね。


 ケイト先輩と作業していると行く先々で嘲笑ちょうしょう揶揄やゆする声がかれた。


「ついに子供を働かせてる」とか「うちはブラックがきわまってる」とか。


 まれにボクを見て固まっている人がいたり。たぶん、前に訪れた時に会った人かな?


 すれ違う際にお辞儀じぎしておく。



 周りの雑音は無視して清掃したりゴミを集めを続け……。やっと、マキナの在所に行き着いた。


 休憩きゅうけいスペースで休む人たちにまた揶揄やゆされているみたいだが、心ある人はたしなめていた。


 あの人は、会ってる人かな?


 数人集めて講話こうわしているようなマキナの席に行き、こそこそゴミを片付けているとクスクスわらわれる。


 またボクを子供だと思ってるんだろう。


 作業するボクを一瞥いちべつし「やめろ」と言いつつ微笑みをらすマキナがいる。


「課長さん、ゴミはこれだけですか?」


「ああ」と威厳いげんたっぷりに答えるマキナがボクを見て固まった。


「ちょっと待て」と話を止め、集めた人たちを置き去りにボクの腕をつかみ隅っこに連れて行く。


「お前、ここで何やってる?」


「清掃です、課長さん」


 胸にげた()屋と記されたIDをマキナに示す。


「まだ代理だ、それより……」


 清掃員をしている理由を問い詰めてくる、が待たせてる人たちが困惑こんわくしてますよ?


「暇だったので」会いに来たら、なぜかこんなことに……と言い訳しておく。興味本位で来たことは言わなくていいよね。


「うちのセキュリティはザルか……」


 マキナが携帯端末をポケットから出して確認していくと、頭を抱えている。


 その手の端末をこっそりのぞくと地図上に字幕スーパーで表示されたログ? がずらずら~とつらねられていた。


 まあ、セキュリティ的な問題はめないであげて。


「男とバレないように早く帰りなさい。暗くならない内に」


「分かりました。マキナ、帰りは遅いですか?」


「ここで、マキナは止せ」と頬を染めるマキナは、おそくなるだろうと返した。


 無事マキナのところもゴミ回収を済ませて戻るとケイト先輩が心配してくる。


「ゴミのチェックをされただけです」


「そうか? そうは見えなかったぞ」


「さあ次、行きましょう」と誤魔化すよう次へ話を振る。


「お、おう」


 先輩によると残りは会議室と秘書室・社長室を片付けると終わりだそうだ。



「失礼しま~す」と、秘書ひしょ室に入室してゴミを集める。


 こちらの美人さんもボクを見て、うすら笑いしてくるね。まあ、いいけど。


 いた扉から社長室に凸撃(とつげき)しようとしたら秘書さんに止められた。


 少ししか社長室が見れなかったよ。秘書室から追い出されそうになったら、奥から声が。


「──ちょっと君」と呼んだ秘書さんをつかってボクは社長室に通された。


 執務しつむ机の奥にどっかり座って書類を見ている社長とおぼしき人。後ろに松林が隅に描かれている海辺の絵がかかげてある。


 マキナが年()風貌ふうぼうの人だ。間違いなくマキナの親族だろう。


「可愛い清掃員だね?」


 そう言って書類を置き、こちらに、と手招てまねきする。


 入口のドア辺りで秘書さんが少し狼狽うろたえていた。


 承諾しょうだくする秘書さんを目で確認すると、社長の前へ進んだ。


 立ち上がるとこちらに歩みってボクを観察する。あごを親指と人さし指でつまみながら、ぐるっとボクの周りを回って正面に戻るとうなづいた。


蒼屋あおやキョウくん、掃除頑張(がんば)って」


「はい?」


 用事は終わったとばかり、マキナ似の社長は席に戻った。ひかえていた秘書さんにボクはかれて社長室を出る。


 秘書室・社長室の仕事はすでに終わっており、秘書室前で待つケイト先輩と一緒に今日の作業を終えた。


 マキナの親族だとしても、どうしてボクの名前を知っていたのか?……。


 いや、婚約の報告はませた言っていたけど、名札の青屋からボク──蒼屋キョウに辿たどり着いたのか。


「お前、何やってんだよ。心臓が止まるかと……」


「すみません」


 集積所にゴミを収めて、道具を洗って片付けたら終了だ。


「あとはやっておく」と言う先輩に任せてロッカーでマキナに報告する。


「終わりました。着替えて帰ります。

「掃除の責任者さんは責めないで」っと。


 短文入力中に絶賛ぜっさん、着替え中のおばさんにかまわれて辟易へきえきしましたとさ。


 どっとはらい(※これでおしまい)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ